「8年周期でブームがやってくる」バンダイが"たまごっち"を大事に育て続けているワケ

11月22日(月)12時15分 プレジデント社

1996年発売の初代たまごっち ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

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11月23日、バンダイはたまごっちの最新作「たまごっちスマート」を発売する。シリーズ初のウェアラブルタイプだ。バンダイは1996年の発売開始以来、時代に合わせて進化しながらたまごっちというブランドを育て続けている。一体、たまごっちの魅力はどこにあるのか。ライターの小口覺さんがバンダイの担当者に聞いた——。
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1996年発売の初代たまごっち ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

■あまりの大ブームに生命の危険を感じた社員も


社会現象と言えるブームとなった「たまごっち」。アメリカをはじめ海外でも人気に火が付き、発売から約2年半で累計4000万個以上を販売した。店頭からは商品が消え、さらに飢餓感があおられた。特に白いたまごっちは「レア」とされ、1個数万円で取引されたともいう。バンダイの桃井信彦常務取締役が、その時の状況を語る。


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「レア」とされた初代たまごっち(白) ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

「配送中の盗難を防ぐため、ダンボールから商品名の印刷を消しました。会社の前で営業マンが紙袋を持っていると、知らない人からたまごっちを売ってくださいと言われる。見た目が怖い人たちからも声をかけられ、生命の危険を感じた社員もいたそうです」


撮影=プレジデントオンライン編集部
バンダイの桃井信彦常務取締役 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

語尾が「そうです」と伝聞なのは、桃井常務がバンダイに入社する以前の話だからだ。第1期たまごっちブーム当時は、ソニーで同じ時期にブームを起こしていたプリクラ(プリント倶楽部)に内蔵されるプリンターとカメラの法人営業を担当していた。


「原宿のキデイランドから表参道の交差点まで行列ができたのは、たまごっちとプリクラの2つだったと思います。バブル崩壊後に明るい光が差し込んだのがこれらのブームだった。もちろん、私もいちユーザーとしてたまごっちを持っていました。会議中でも電車の中でも、所構わずピコピコ鳴っていた。飛行機の中でCAさんに電源オフにしてくださいと言われるのも大抵たまごっち。ケータイが普及し、通信機器の電源を切るよう言われ始めた時代です」


当時のたまごっちに通信機能はないが、周囲の乗客からはクレームになる。航空会社からバンダイに、電源オフできるような仕様にしてほしいと依頼もあったという。しかし、この「電源をオフにできない」ことこそが、たまごっちの重要なコンセプトだった。


■死の表現は避けられない


「たまごっちは、24時間一緒にいられるデジタルペットとして作られました。ほとんどのゲームやおもちゃは、人間の都合でオンオフされますが、生き物は24時間ずっと生きている。ペットショップで犬や猫を見ると、最初はかわいいとしか思わないけど、いざ飼ってみると面倒くさい。そのリアリティーを追求した。生まれたては頻繁に呼び出され、こまめにミルクをあげなければいけない。お世話をサボると機嫌が悪くなったり病気になったりしてしまう。このコンセプトは、当時としては大人っぽかった」


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初代たまごっち(オレンジ) ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

本当のペットのように真剣に育てなければならないリアリティーが、大人にも人気になった理由だろう。そして、リアルさの追求から「死」の概念を取り入れる。たまごっちは、病気や空腹の状態、また寿命によって死を迎える仕様になっていた。


「生命の育成の疑似体験ですので、死は避けられない。おもちゃではあまり描かれない概念だったので、どう取り入れ表現するかは、結構真剣に議論されたと聞いています」


死については各国で宗教観が異なる。日本のたまごっちでは、十字架のお墓と三角の布を頭に付けた幽霊で表現されるが、海外では天使だったり、十字架以外のお墓など、異なる表現を用意した。余談だが、この記事の担当編集者は、4歳の時に親に買ってもらったたまごっちで死の概念を学んだという。


■初回の出荷数は通常の約10倍


ユーザーは、真剣にお世話した分、その死を悲しんだ。ドット絵なのでビジュアルとしてはリアルでないにも関わらず、ペットロスに近い精神状態になる人も少なくなかったそうだ。ゲームやコンテンツに置けるリアリティーとは何か考えさせられる。


これらのリアリティーは、今でこそヒットの要因と考えられるが、発売する前はこの点が不安視された。電源がオフにできないのは不便だし、ユーザーの都合を考えず呼び出されるのは面倒に思われ、嫌われることも考えられた。


「社内では売れないだろうという意見が多かった。ただ、発売前のテストセールスでは、女子高生を中心に反応が良く、幅広い層に受け入れられる期待感があった。おもちゃではあるが、ターゲットを子どもに絞らず、大人が手に取りやすいパッケージデザインにしました」


初回出荷数は、通常の玩具で初回に出荷する数量の約10倍だった。社内でも反対意見があったが、結果は冒頭に述べたとおりだ。


■ブームが終わって60億円の損失


急速なブームほど収束も早い。98年の後半、たまごっちは突然売れなくなる。ブームを受けて増産計画を進めていたことで、バンダイは99年度に約60億円の損失を計上する。定価1980円のたまごっち300万個以上分の損害である。


「あまりに足りない足りないと言われたので、勢いよく増産してしまった。いくつもの生産メーカーに声をかけて、全てを足してみたら途方もない数になることが判明した。あの頃はまだバブルの記憶が残っていて、この夢はいつまでも続くんじゃないかと思ってしまったのだと思います」


バンダイはこの大きな痛みから、予測して生産する重要性を学んだ。たまごっちに限らず、売れている玩具をソフトランディングさせるのは難しく、在庫を残して負けてしまうことが少なくない。販売店などの現場を観察し、売れ行きを予測しながら生産計画に反映させるようになった。さらに現在は、環境負荷の点でも廃棄が生じないような生産計画が求められるようになった。


■「8年周期の法則」で復活する


社会的にも死んだと思われたたまごっちだが、2004年3月に「かえってきた!たまごっちプラス」として復活する。赤外線通信機能を搭載し、他の人のたまごっちと友達になったり、恋愛結婚をして2世を誕生させたりできるようになった。この通信機能は、後に携帯電話にも対応する。バンダイでは、この04〜07年に発売された機種を「ツーしん期」と呼んでいる。なぜ、手痛い損失を出したにもかかわらず復活させたのか。


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かえってきた!たまごっちプラス ©BANDAI - 写真提供=バンダイ
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携帯電話との通信に対応した「祝ケータイかいツー!たまごっちプラス」 ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

「玩具業界の流行は、8年くらいの周期で回っている感覚があります。ブレイクした後に人気がなくなると、その後1〜2年ぐらいは終わったものと思われますが、8年ぐらいたつとターゲットの世代が変わって、また売れる環境が戻ってくるのです。ですから我々は、常にブームから今何年目かを意識し、予兆をキャッチするようにしています。たまごっちの場合は、03年ぐらいに、中高生が昔のたまごっちを引っ張り出して遊んでいるという話を耳にするようになった。市場が温まってきたねと、準備を始めました」


たまごっちの新シリーズ発売にあたっては、以前のブームを知らない新しいお客さんに遊んでもらった方がフレッシュに感じてもらえるだろうと、メインのターゲットを女子高生よりも若い小学生に設定した。その結果、1年間で500万個以上を販売。見事復活に成功する。


■子どもに受けるよう細部の表現を今風に


08年、カラー液晶を搭載した「たまごっちプラスカラー」が発売される。これ以降のシリーズは「カラー期」と呼ばれ、現在まで継続的に新機種が発売されている。


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たまごっちプラスカラー ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

そして、25周年となる21年11月23日、「Tamagotchi Smart(たまごっちスマート)」が発売される。これはたまごっちとして初のウェアラブルタイプだ。


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Tamagotchi Smart(たまごっちスマート) ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

「初代のたまごっちも企画当初は腕時計型でした。それが実現しなかったのは、コストの問題や腕につけた時にかさばってしまうからです」


スマートウォッチや活動量計の普及により、シリコンバンドの製造コストが安くなったこと、さらには電源を乾電池から薄型の充電式電池にすることで、かさばりが抑えられたのも、ウェアラブル型にできた理由だという。たまごっちの名前は「たまご+ウォッチ」が由来。発売から25年目にして、その名の通りの形状となったわけだ。また、タッチパネルも初めて採用された。


「子どもたちがタッチパネルに慣れるか懸念もありましたが、難なく操作できることがわかった。日本の子どもたちは、スマートフォンのような大人の持ち物への憧れが強く、大人が操作するような機能でもすぐに慣れてしまう。さらには、細部の表現や演出を時代に合わせることも大事です」


例えば、お買い物のシーンにも表れている。昔のたまごっちではお店に行って買い物をしていたが、最新機種ではデリバリーで運ばれてくる。また、マッチングアプリを模した『たまっちんぐアプリ』やスマートスピーカーを模した『スマスピっち』など、今どきのアイテムを積極的に取り込んでる。


■海外向けの機種は「シンプルでわかりやすく」


片や、懐かしさから手に取る大人のユーザーにとって重要なのは、「変えない」こと。現在、大人の購入者が多いのは、一回り小さな「たまごっちnanoシリーズ」で、こちらはクラシックなモノクロ液晶を残している。『呪術廻戦』や、『スター・ウォーズ』、『PUI PUIモルカー』、『新世紀エヴァンゲリオン』などとのコラボレーションで展開し、それらのファンからも人気だ。


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きめつたまごっち たんじろうっちカラー - 写真提供=バンダイ
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

大人に懐かしいと思ってもらえるラインアップと、今の子どもに受けるラインアップをきっちり考えながら展開していることがわかる。一方、同じ子ども向けでも、海外で販売する製品では考え方が異なる。


「かつては日本と同じ仕様のたまごっちを海外で販売しましたが、遊びの内容が複雑すぎると感じる子どもが多く、南米や欧州では販売が伸び悩んだ。以降、海外向けのたまごっちはシンプルでわかりやすい仕様を心がけています」


例えば、今年北米で発売した「Tamagotchi Pix」には、カメラが搭載されている。それだけ聞けば多機能に感じられるが、ワイヤレス接続や赤外線通信は排除されている。遊び方としては、カメラ撮影や撮った写真の色から料理を作るといったシンプルなものだ。料理のような、時代や地域性に関わらない普遍的な要素を遊びの主軸にしている点が、積極的に流行を取り入れる日本の機種との大きな違いだ。


ただ、将来的には日本と海外の共通モデルを発売したいと桃井常務は話す。


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Tamagotchi Pix ©BANDAI - 写真提供=バンダイ

■言語の壁をどう乗り越えるか


「詳細はまだ決まっていませんが、コンセプトを固めつつある段階です。ワールドワイドで売るにあたって一番の課題は言語です」


現在、「Tamagotchi Pix」には6言語のバージョンがあるが、これをさらに増やす、もしくは言語に頼らないノンバーバルのコミュニケーションに進化する可能性もあるという。


考えてみれば、犬や猫などペットとのコミュニケーションは基本的にノンバーバルだ。飼い主が「ごはんよ」などと話しかけることはあっても、動物は言語として理解しているわけではない。お互いに表情や声色、動作などから相手の状態を知ろうとしている。たまごっちのコンセプトは生命の育成。仮にノンバーバルな方向に進もうとも、本来のコンセプトには合致する。


普遍性のあるコンセプトを残しつつ、大人と子どもそれぞれのユーザーに適応、時代や地域に合わせて進化するたまごっち。玩具以外の商品開発、マーケティングにも参考になる事例ではないだろうか。


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小口 覺(おぐち・さとる)
ライター
コラムニスト。ITや家電を中心にモノとビジネスのあり方をウォッチし続け、『DIME』(小学館)『日経トレンディネット』(日経BP)等の雑誌やWebメディアなどで活躍する。「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」の名付け親。エンタメ×テックのコンサルティングも行う。
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(ライター 小口 覺)

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