教育政策で失策続き、文科省には解体的改革が必要だ

11月23日(土)6時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 11月20日、安倍晋三首相は、同郷の先輩、桂太郎を抜いて、憲政史上最長在任を誇る首相となった。しかし、「桜を見る会」参加者選定をめぐる問題で、会の私物化などという批判にさらされることとなり、お祝い気分も吹き飛んでしまっている。

 この騒動で、国民投票法の今国会見送りが決まるなど、重要案件の国会審議にも影響が出始めている。また、日韓関係、北方領土問題、拉致問題などの外交課題についても、停滞したままである。まさに内向きの日本と言わざるをえない。

 一方、世界に目を向けると、香港、フランス、チリ、レバノン、イラン、イラクなど、各地で民主化を求めたり、格差の拡大に反対したりする反政府デモが繰り広げられている。香港の若者たちが香港理工大学に籠城して警官隊に包囲される状況を見ていると、私が学生時代の50年前、東大キャンパスで同様な攻防戦が展開されたことを思い出す。

 日本の政治経済は皆が満足するほど格段に優れているのか、それとも街頭に出て抗議の意志を表明するような元気が日本人から失われたのか。安倍長期安定政権は前者を証明する証拠かもしれないが、日本人、とくに若者が世界を相手にするという気概を持つどころか、自分の周辺の限られた範囲にしか関心のない「内向き人間」になっているような気がしてならない。


英語力がどんどん低下している日本人

 中国や韓国の大学で講義をし、学生諸君と議論すると、日本の学生より遙かに国際情勢に興味を持ち、英語が上手いことに気づく。英語を母国語としない欧州諸国でも同じである。

 世界各国で語学教育事業を行っているEF(Education First)が発表した2019年版EF英語能力指数(EPI)によると、日本人の英語能力は非英語圏100カ国・地域の中で53位である。2018年は49位/80カ国、2017年は37位/80カ国、2016年は35位/72カ国、2015年は30位/70カ国、2014年は26位/63カ国であり、毎年順位を下げている。

 ランキングは、「非常に高い」、「高い」、「標準的」、「低い」、「非常に低い」の5つにカテゴリーになっているが、日本は「低い」である。因みに、韓国は37位、中国は40位で、いずれも日本より上で、カテゴリーは「標準的」である。私の感想を裏付ける結果である。

「非常に高い」に属する、上位10カ国は、①オランダ、②スウェーデン、③ノルウェー、④デンマーク、⑤シンガポール、⑥南アフリカ、⑦フィンランド、⑧オーストリア、⑨ルクセンブルク、⑩ドイツである。同じアルファベットを使うヨーロッパ諸国が上位に来るのは当然かもしれないが、北欧など小国で福祉先進国が多い。

 環境活動家の16歳の高校生、グレタ・トゥーベリは物怖じせずに自らの考えを英語で蕩々と語るが、彼女はスウェーデン人である。彼女程度の英語は、スウェーデンの高校生ならできる。このレベルに何とか日本人の英語力を向上させないと、来年のオリンピック・パラリンピックのボランティア活動も思うように展開できない。

 シンガポールが第5位なのは、公用語が英語だからである。森記念財団都市戦略研究所が発表した「世界の都市総合力ランキング」2019年版によれば、①ロンドン、②ニューヨーク、③東京、④パリ、⑤シンガポールの順番であるが、世界の企業のアジアにおけるヘッドクオーターは、東京ではなくシンガポールにある。それは、英語が通じるからである。つまり、東京のアキレス腱は英語だということだ。

 因みに、4位だった東京を、私が都知事時代に3位にまで引き上げたが、小池都政になってから、1位のロンドンと2位のニューヨークに差を広げられ、4位のパリに追い抜かされそうになっている。ポピュリズム政治にうつつを抜かし、都市経営をおろそかにしてきたツケが出てきている。


英語力向上の対策が「民間英語試験」導入なのか

 私が都知事のときに計画をスタートさせた東京の英語村、Tokyo Global Gatewayは2018年の夏に事業を開始したが、これは英語を使う体験型の施設で成果を上げている。海外に行かなくても、日本には英語のネイティブが多数生活しており、日本人の英語力を伸ばす方法はあるのである。

 文科省も、日本人の英語能力の低さに気づいたらしく、対策を考え始めたのであろうが、その内容がお粗末である。日本人はとくに英会話能力が低いということで、これを改善するためには、入試に英会話を導入すれば高校生ももっと練習するだろうという安易な方策である。中学校で3年、高校で3年、大学で2年も学習しながら英語を喋れないというのは、勉強の仕方に問題があるはずである。

 そこで、大学入学共通テストに民間の英語試験を導入することで、その問題に対応しようとしたのである。受験生は様々な業者の中から2つを選び、その成績を志願先に提出する仕組みだが、受験料が業者によって差があり、また試験会場の数も地域によって異なることから、不公平という声が上がっていた。

 幸か不幸か、萩生田文科大臣の「身の丈」発言で、急遽、来年度からの実施が延期されたが、公平の確保という課題にも英語教育の改善という課題にも何らの答えが出たわけではない。

 問題が起これば、官邸の指示で直ぐに中止、キャンセル、延期を決めるという手法は、安倍政権の十八番(おはこ)である。「桜を見る会」の来年度中止決定がそうであるし、2015年7月に新国立競技場建設についてザハ・ハディド案を白紙撤回したのもそうである。今回は、英語の入試をどうするかという問題よりも、安倍側近である萩生田大臣をどのようにして守るかということのほうが、官邸にとっては大事だったのである。


文科省改革を断行しない限り、若者の「内向き志向」は変わらない

 入試に「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」の四つを取り入れただけで日本人の英語力が向上するわけではない。今は、JETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme=語学指導等を行う外国青年招致事業)などを活用して、ネイティブの先生を講師として迎えている小中高校もたくさんある。どうすれば英語力ランキングで53位から上昇させることができるかを真剣に検討すべきである。

 しかし、文科省にそれができるのであろうか。今の若者は英語の筆記体が書けない。2002年の「ゆとり教育」というとんでもない政策のせいである。筆記体学習を必修から外したからである。ブロック体(活字体)しか書けなくなっている。スマホやパソコンを使う時代になったので、筆記体は不要だというのである。

 しかも、アメリカやイギリスでもそうだから真似たまでだというが、英語を母国語としている英米と英語が外国語である日本とは事情が違う。漢字を覚えるのに、紙と鉛筆で何度も書いて覚えるはずであり、何画もある漢字をスマホの画面で眺めていただけで覚えられるはずがない。昔の人が書いた手紙などは筆記体であるが、これも読めないのである。最近、ある勉強会で、大学生に英語の答案を手書きさせてみたら、活字体なので、書くのに筆記体以上の時間がかかって閉口した。

 このような学習要項を決める文科省に信を置けと言っても無理であり、筆記体を学習させなかったことで、英語力が向上するどころか、むしろ低下している。

 大臣や都知事のときに、政策について文科省と調整することがあったが、「三流官庁」と揶揄される厚労省から見ても、あまりにも杜撰で、「四流官庁」という蔑称が相応しいように思う。しかも、英語の民間試験導入で話題になっている萩生田、下村両代議士は安倍首相の側近である。教育の公平性という観点からは、そのことから来る弊害もまたある。

 文科省の解体的改革を断行しないかぎり、日本の若者の内向き姿勢は変わらないのではあるまいか。

筆者:舛添 要一

JBpress

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