加熱するEVバブルにどうしても感じてしまう違和感の正体

11月23日(火)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 このところ、世界各地でEV(電気自動車)に関する報道や発表が相次いでいる。

 2021年11月18日には、アップルが2025年を目途に完全自動運転EV量産を計画していると、米メディアがアップル関係筋からの情報として報じた。この報道によってアップルの株価は約3%上昇し、過去最高値を記録した。

 これまでもアップルのティム・クックCEOは米メディア等とのインタビューの中で、自動運転EVの研究開発計画とされる「プロジェクト・タイタン」(Project Titan)の存在を認めてきたが、量産化の時期や方法については明らかにしていなかった。

 直近では、iPhoneの委託生産等を手掛け、アップルとつながりの深い台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループ(鴻海科技集団)が2021年10月に自社イベント「ホンハイ テックデー」でEVプロトタイプを発表したが、アップルEVについての発表や、関係者からのコメントはなかった。


足並みが揃っていないCOP26の共同宣言

 各種展示会では、11月17日に開幕した米ロサンゼルスオートショー2021や、同時期に開催される中国広州国際汽車展覧会(広州モーターショー)において、トヨタ、メルセデス・ベンツ、GM(ゼネラルモーターズ)など大手メーカーのほか、中国地場メーカーやベンチャー等が様々な量産型EVを出展した。

 また、日本でも大きく報道されたが、英グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で、33の国や地域が「先進国で2035年までに、またグローバルで2040年までに新車販売100%をZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)とする宣言」に署名した。ZEVとは、EV(電気自動車)と燃料電池車を指す。

 この宣言に、米国のカリフォルニア州政府やテキサス州ダラス市政府などが署名したが、アメリカ、ドイツ、中国、フランス、イタリア、そして日本などは政府として署名しなかった。また自動車メーカーでは、メルセデス・ベンツが独メーカーとして唯一、また米メーカーとしてGMとフォードが署名するにとどまった。「共同宣言」というものの足並みは揃っていない印象だ。

 現在、欧州委員会(EUの執行機関)は欧州グリーンディール政策を推進しており、「2035年までに欧州内の新車100%をZEVとする」方針を掲げている。COP26の「ZEV宣言」の背景には、欧州グリーンディール政策を進めるEUの意向が強く働いているという見方もある。


「日本政府の現実的な選択肢」

 一方で、こうしてグローバルで急速に進むZEV化の流れに違和感を抱く自動車業界関係者も少なくない。

 日本の自動車、二輪車、トラックバスのメーカーでつくる業界団体「日本自動車工業会」は2021年11月18日に開いた定例記者会見で、3期目の会長に就任した豊田章男会長が、COP26のZEV宣言について次のように冷静に語っている。

「世界120カ国以上が2050年(カーボンニュートラル)に向けて大変前向きな議論をしたことを歓迎する。(先進国による)2035年ZEVコミットメントが(グローバルでの)一部(の国や地域)にとどまったことは、日本政府の現実的な選択肢だ」

 また、日高祥博副会長(ヤマハ社長)は、COP26でのZEV宣言や、欧州委員会の欧州グリーンディール政策などに対して、「欧州を中心として、国や地域で、様々な政治の動きがある」と指摘する。急速なZEV化が、顧客や社会からニーズによるものではなく、政治主導の経済政策という側面が強過ぎるのではないかという懸念の表明である。


ユーザーは本当についてくるのか?

 COP26の2040年ZEV化宣言にスウェーデンは政府として署名した。同国の最大手自動車メーカー、ボルボも署名している。

 ボルボ・カー・ジャパンは11月19日、日本国内向けではボルボ初となるEV「C40 Recharge」を正式発表し、国内で販売を始めた。販売はオンラインのみで行う。顧客はオンラインで新車オーダーした後、ボルボ販売店で契約を結ぶ方式だ。

 同社のマーティン・パーソン社長は、「プレミアム市場では今後、一気にEVが広がると予想している。我々はその先駆者となる」と、日本市場のEVシフトに向けた意気込みを語った。

 ボルボは2025年までにグローバルでは新車の50%、日本では35%をEVとし、さらに2030年までにグローバルで新車100%をEVとするEVブランドへの転身を決定している。

 パーソン社長に、こうした急速なEVシフトに顧客はついてくるのかと問いかけると、「要するに顧客のマインドセット(価値観)の問題だ」と述べ、今後1〜2年のマーケティング戦略の重要性を強調した。


疎かにされている「社会全体」の出口戦略

 近年、自動産業界は「100年に一度の大変革期」と呼ばれ、「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)の領域で各国メーカーの研究開発が加速してきた(「CASE」は元々は独ダイムラーが自社のマーケティング戦略として用いていた用語である)。それがここへ来て、政治的な思惑から電動化に対する注目が、さらに急激に高まっている。

 だが筆者が最も気になるのは、ZEV化の本質である「社会全体が大きく変わる」というゴールに向けた出口戦略が、日本を含めて世界の国や地域で明確に示されていない点だ。

 いわゆる「スマートシティ」という理想郷の議論があり、その中でEV普及のために充電インフラ拡張を進める必要性が唱えられている。だが、結局のところ自動車業界が「EV普及」で目指しているのは、ガソリン車等の内燃機関車をEVに置き換えることで、大量生産・大量消費型ビジネスを維持することに他ならない。

 本来ならば、電力供給におけるエネルギーマネジメントとの連携、シェアリングによる効率的なEVの運用、そして有事を想定した平時でのEV活用など、「社会におけるEVのあり方」を問うような議論と検証が必要なはずである。しかし現時点では、自動車メーカー、電力会社、また一部の地方自治体での実証試験や、初期的な事業化にとどまっている状況だ。

 こうした社会全体における、EVの需要と供給のミスマッチが、急速に進むEVシフトに対する違和感の正体なのではないだろうか。

筆者:桃田 健史

JBpress

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