「米空母を撃破」中国軍が悲願の能力をついに達成か

11月26日(木)6時0分 JBpress

(北村 淳:軍事社会学者)

 1996年の台湾総統選挙に対して軍事的圧力を加えた中国を威圧するために、アメリカ政府は2セットの空母艦隊を台湾周辺海域に派遣した。中国軍は強力な空母艦隊の出現に対抗する戦力を有しておらず、戦うことはもちろん、何の手を打つこともできなかった。

 こうして中国はアメリカ海軍空母艦隊によって完全に面子を潰された。これ以降、「アメリカ空母を撃破する能力を手にする」ことこそが、中国軍にとって最大の戦略目標となったのである。

 そして中国軍および中国技術陣は総力を結集して対空母戦力の開発に邁進した。その1つが対艦弾道ミサイルである。1996年の屈辱を晴らすために臥薪嘗胆した中国軍は、海洋を航行中のアメリカ海軍超大型航空母艦に弾道ミサイルを命中させる能力を、ついに手にしたようである。


「航行禁止区域」に打ち込まれた対艦ミサイル

 南シナ海での軍事的優勢を手中に収めつつある中国を牽制するために、本年(2020年)7月、アメリカ海軍は2セットの空母打撃群に南シナ海を航行させた。

 一方、中国軍は翌8月、米海軍のこの行動に対抗する形で、大規模海軍演習を南シナ海で実施した。

 すると演習の状況を把握するために、アメリカ空軍はU-2偵察機を、中国側が一方的に設定した飛行禁止空域に侵入させた。

 その数日後の8月26日、中国海事当局は南シナ海西沙諸島南方海域に航行禁止区域を設定する。そして、その航行禁止海域内に、中国ロケット軍がDF-21D対艦弾道ミサイルとDF-26B対艦弾道ミサイルをそれぞれ1発ずつ、合わせて2発を撃ち込んだ。


疑問視されていた中国の対艦ミサイル

 以前より米海軍や米国防総省では、中国が開発したと主張している対艦弾道ミサイルに大いなる危惧の念を抱いていた。ただし、航行中の艦船に、1000〜4000kmもの遠方から発射した弾道ミサイルを現実に命中させるには、極めて高度かつ新機軸の技術力が必要となる。そのため中国側の「開発成功」という主張に対しては疑問の声も上がっていた。

 実際に、ゴビ砂漠で移動目標に対艦弾道ミサイルを命中させる実験が行われているという噂は存在していたものの、海上を航行している標的艦船に対艦弾道ミサイルを命中させたという情報はなかった。

 そのため中国人民解放軍が「アメリカ空母などの大型艦を対艦弾道ミサイルで撃沈させる」とどれだけ豪語しても、「航行中の船に命中させる実験が行われていない以上、弾道ミサイルを数千km飛翔させて30ノットで航行する小型移動目標に命中させる技術を中国が獲得しているとは思えない」と考える人々も多い。

 ただし、現実に中国海軍と対峙する米海軍関係者には、中国が対艦弾道ミサイルを手にしている以上、中国側の主張を完全に否定するべきではないという慎重姿勢も存在する。

 それらの関係者たちは、「実現が困難なため、おそらくプロパガンダにすぎないのではなかろうか?」「対艦弾道ミサイルの威力が真実ならば、米艦艇は極めて危険にさらされるため、真実であってほしくない」といった願望が「プロパガンダであり、真実であるわけがない」という希望的判断に転化してはならない、と釘を刺す。「敵を過小評価すると、かつての真珠湾攻撃やフィリピン失陥のように、とんでもない結果に直面してしまうかもしれない」というわけである。


王湘穂が明かした8月26日の試射の詳細

 中国ロケット軍が対艦弾道ミサイル2発を南シナ海に撃ち込んでから10週間ほど経過した11月上旬、『超限戦』の共著者として高名な王湘穂・北京航空航天大学教授(『超限戦』執筆時は中国人民解放軍空軍大校=上級大佐)が、8月26日に実施したDF-21DとDF-26Bの試射は、内陸から西沙諸島南方海洋にミサイルを撃ち込んだのではなく、当該海域を航行していた標的船に命中させた画期的なステップであったことを明らかにした。

 王湘穂教授は「アメリカ側は中国による対艦弾道ミサイル試射は、単なる戦力誇示であって虚仮威しにすぎないと考えているようである。しかし中国はアメリカ側の軍事的挑発に対抗するために、空母の接近を阻止しうる兵器の試射を実施したのだ。これはアメリカ側がこれ以上軍事的危険を犯さないようにとの警告である」と語っている。

 アメリカが中国に対する軍事挑発姿勢を捨て去らず、中国近海(南シナ海や東シナ海)に空母打撃群を送り込み中国側を脅迫する行動を続けるならば、場合によっては、中国軍はアメリカ空母に弾道ミサイルを撃ち込み、中国はアメリカの軍事的圧力を跳ね返すことができる、というわけである。


米空母に強力な脅威が出現

 王教授に引き続いて他の中国軍関係者も「中国ロケット軍は、海上を航行中の中型〜大型の艦船を、長距離精密攻撃によって撃破する能力を実証した」ことを確認している。また、アメリカ軍当局も、中国側の発表内容を否定してはいない。

 要するに、中国軍が、航行中の艦艇(少なくとも米海軍空母のような超大型艦やそれに準ずる大型艦、たとえば米海軍強襲揚陸艦、海上自衛隊ヘリコプター空母、オーストラリア海軍揚陸艦など)に弾道ミサイルを命中させる戦力を手にした可能性は限りなく高いと考えざるを得ないのである。

 とするならば、過去半世紀にわたってアメリカ海軍が世界中の海に睨みを効かせてきた際の主戦力であり、アメリカ海軍だけでなくアメリカ軍の強大さのシンボルであり続けてきた超大型航空母艦(スーパー・キャリアー)に、強力な脅威が名実ともに出現したことになるのだ。96年の台湾海峡危機の際のように、アメリカ軍が数セットの空母打撃群を東シナ海や南シナ海に派遣するだけで中国軍を沈黙させてしまうことなど、もはや夢物語となってしまったと言わざるを得ない。

 今月(11月)になって王教授はじめ中国軍関係者たちが明かし始めた「8月26日に対艦弾道ミサイルを航行中の標的船に命中させた」という状況に関しては、おそらく米軍情報機関もすでに把握していたものと思われる。そのため米軍側は若干慌ただしい動きを見せているのであるが、その動きに関しては稿を改めたい。

筆者:北村 淳

JBpress

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