赤字続きの国際線をドル箱に変えたANAの戦略

11月28日(木)9時15分 プレジデント社

撮影=北島幸司

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ANAの国際線は長年、赤字続きだった。だがその苦境を乗り越え、2015年度の輸送実績でJALを追い越し、「日本一の翼」となった。背景にはなにがあったのか。航空ジャーナリストの北島幸司氏は「この10年の路線数を独自に分析したところ、ANAがビジネス客の多い路線に集中投資してきたことがわかった」と指摘する——。

撮影=北島幸司

■JALとのすみ分けから猛追、逆転へ


“純民間航空会社”としてスタートしたANAは、かつて国内線が主だった。1954年に国際線を就航させたJALが半官半民の企業として日本の顔となるべく就航路線を増やしていったのとは対照的だった。


それは政府が進めた航空産業保護政策の結果でもあった。1972年に出された運輸大臣通達(航空憲法とも呼ばれた)によって、ANAとJALを含む当時の航空3社は事業領域のすみ分けを余儀なくされた。


この「45.47体制」と呼ばれる規制の枠組みによって、国際定期路線を担えるのはJALの1社に限定された。日本の航空業界を安定的に発展させた一方で、ANAは大きなハンディを背負わされていたことになる。


JALによる独占を認めた規制は1985年に廃止され、ANAの国際定期路線就航は翌1986年になってようやく始まった。JALに遅れること32年。その空白を新規路線開設でJALを猛追し、ANAは2015年度の旅客輸送の規模を表す「有償旅客キロ」(RPK)でJALを超えることとなった(両社のIRページ、月次輸送実績を参照)。


筆者が独自に路線数を計算すると、国際線就航が後発のANAは、羽田空港が再国際化した2010年ごろから徹底的にビジネス路線のシェアを増やしていったことがわかる。これはJALが経営破綻した時期と重なる。今では、JALはビジネス路線では押し切られて、強みを持つのはレジャー路線に限られてしまった。




■JAL経営破綻を横目にビジネス路線を拡充


路線数推移の数字からANAはこの10年間でビジネス路線を2倍以上増やした一方で、JALは2割増に留まることがわかる。ANAの路線数は2010年から269増やし、2019年には532となった。対するJALは62のみの増加であり、今年は371路線の運航に収まった。ANAの路線数拡大が顕著に表れている。


これは何故か。JALの経営破綻後2012年8月10日に国土交通省が発表した「日本航空の企業再生への対応について」(通称:8.10ペーパー)との題名の文書がある。これにより、企業間の公正な競争促進のために政府からJALへの監視が強まり、結果としてANAへの優遇政策ができたためだ。公的資金の入ったJALが過度に有利にならないように監視し、ANAへの羽田空港発着枠配分を増やしたことなどが含まれる。


ビジネス路線の中でANAはJALと比べて多く伸ばした路線がある。東南アジアと中国だ。アジアナンバーワンエアラインを目指すと宣言していたANAは、成長を続ける東南アジアの路線を重視。路線数を10年間で112増やし、その数は147に達した。4.2倍に増やした計算だ。対してJALは10年間で21路線を増加させるに留まっている。中国路線ではANAがこの10年間で45増やしたのに対し、JALは7減らしている。


レジャー路線を含めた全体路線でも、ANAは290路線を増やし、37路線に留まるJALに大きな差をつけた。近距離国際線から増やしていくことは、機材の稼働率を上げることができ、効率化から言ってもセオリー通りだ。


■ANAが次に狙うレジャー路線


次に収益面で大きな影響をもたらすのは長距離路線だ。総便数こそアジア路線にかなわないが、増加の比率が高いことがわかる。日本から直行便で行ける運賃が一番高い場所の一つは欧州だ。この欧州で比べると、ANAは2倍で56便、JALは1.1倍で42便と差がついている。


ここでわかるのはビジネスクラス普通運賃で比べると、ロンドンで約169万円とシンガポールの約55万円では約3倍の差が出る。便数はアジア路線より少なくても、売り上げは大きい。ビジネス路線を制覇したあとのANAが目指すのは、レジャー路線でもJALを圧倒することだ。その第一弾がハワイ線からとなったのは、ANAのシェアが一番低い路線だからだろう。


ハワイ線に挑むにあたり、ANAでは超大型機のエアバスA380を就航させるという奇策をとった。これはなぜか。国際線の路線拡充は、就航する両国間同士の交渉が必要で、人気のある混雑する空港は発着枠が取りづらい。


路線を増やせても便数が限られて飛ばせるパイロットの数が追い付かないとなると、方向性は航空機の大型化しかない。この策は今年2019年の5月に始まったばかりだ。結果が出るのは少々先になる。



■JALの反撃はこれからだ


ANAの急速な路線展開でのシェア拡大にJALも手をこまねいているわけでは無い。経営破綻後、8.10ペーパーで政府の監視下に置かれていた時期は2016年度末までであり、攻めに転じ始めたばかりだ。この時期と前後して開設したのは、ビジネス路線として成田—バンコク線、羽田—ロンドン線であり、開いた差を縮めようとしている。




撮影=北島幸司

特にロンドン線は、従来にない深夜出発便としたことで、現地到着は朝となり、同じワンワールドアライアンスであるBritish Airwaysの乗継便を多く選択できるようになった。ANAは、先にフランクフルト線とウィーン線で同様の時間帯で飛ばしている。これもスターアライアンスのエアラインであるルフトハンザ・ドイツ航空とオーストリア航空に接続することを想定している。JALはここに来てようやく深夜便1路線を確保できたことになる。


他社との提携関係を強化していることもJALの特徴だ。2017年以降、JALはベトジェットエア、ハワイアン、アエロフロート・ロシア、中国東方、ガルーダ・インドネシア、マレーシアの6社と提携。うちハワイアンとガルーダはANAと提携していたが、それを引きはがして自社に鞍替えさせた。対するANAは同時期で比べるとアリタリア・イタリア、フィリピンの2社(両社コードシェア提携のみを除く)であり、JALの巻き返しが鮮明だ。


■史上初、二社同時期同一路線の新規就航へ


同じ土俵に立った両社は、今後の展開では、同一路線に新規就航することも考えられる。羽田空港の発着枠が増えたことにより、2020年夏ダイヤより両社が増便を行う。日系エアラインが獲得した25枠のうちANAに13.5、JALに11.5枠が割り振られた。新規路線開拓では、今までにない同一路線、同一時期開設の計画も浮上した。


2019年7月29日のプレスリリ−スで発表された情報では、両社ともに成田空港—ロシア・ウラジオストク線の開設を告知した。ANAは2019年冬ダイヤ中の3月16日に就航を決めた。JALは2020年夏ダイヤとなる3月29日としていたが、冬ダイヤ中の2月28日へと時期を早めた。JALは日本初就航にこだわった。このように、政府の監視も終わり、過去にはない路線開設が実現した。



■アジアから世界に目標を引き上げたANA


収益性の高いビジネス路線を制して、ANAは攻めの経営を続ける。経営姿勢をより野心的に変えたANAの戦略をIR統合報告書で見ると次の通りとなる。2012年度までのANAグループ経営ビジョンでは、アジアナンバーワンエアラインを目標に掲げていた。


その後は持株会社制に移行し、ANAホールディングス株式会社となった初めての中期経営戦略で、経営目標を「世界のリーディングエアライン」に引き上げたのだ。航空業界の競争が激しさを増す中、アジアだけではなく世界を代表するエアラインを目指す積極的な姿勢を打ち出した。ここ6〜7年の間に、ANAは大きく成長した。


当初は近距離国際線で始まった路線競争は、今では世界全路線に及んでいる。この先はグループ内のLCC(格安航空会社)も巻き込んで、中・長距離国際線でも競争を激化させる。適切な競争が起こることで航空運賃の低廉化が進めば、利用者にとって健全な消費環境だと言える。



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北島 幸司(きたじま・こうじ)

航空ジャーナリスト

大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。

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(航空ジャーナリスト 北島 幸司)

プレジデント社

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