CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?
2024年11月22日(金)4時0分 JBpress
国際情勢の緊迫化、サプライチェーンの混乱、原材料費や人件費の高騰、サステナビリティへの関心の高まり——。調達を巡る環境が複雑化する中、日本企業の多くが調達機能の重要度を十分に認識せず、理解のギャップが拡大している。その溝を埋め、環境変化に適合した調達機能へとアップグレードすることは喫緊の課題と言っていい。本連載では、『BCG流 調達戦略 経営アジェンダとしての改革手法』(ボストン コンサルティング グループ 調達チーム編/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集し、調達機能のあるべき姿と機能向上に向けた取り組みを解説する。
第5回は、CPO(Chief Procurement Officer:最高調達責任者)を設置することから始まる、調達業務の変革に向けたポイントを解説する。
「CPO」を置き経営アジェンダとしての重要性をアピール
日本企業においては、そもそも経営陣としてのCPO(最高調達責任者)が置かれているケース自体がまれである。当然ながら、CPOが置かれていない限り社内においては調達が重要な経営アジェンダであるとは認識されない。まずはCPOを置くことから調達ガバナンスが始まる。
CPOおよび調達部門の配置は、各社の事業体や歴史的背景、同部門が置かれた目的・ミッションによって色が出るところとなる。
おおむねは、①調達部門が独立した組織として配置される、②調達部門が生産などのサプライチェーン組織の傘下に配置される、③調達部門が財務や総務などの本社間接部門の傘下に配置される、という3つに大別できる。
まず、①のタイプは1つの理想的なスタイルではあるが、日本企業においては実は例が少ない。一見、部門として独立しているように見えても、管掌役員が生産などの役員を兼務しているなど、独立性が確保しきれていないケースが多い。本来は、既に経営アジェンダとして調達の重要度が高まっていることから、独立した一組織として立てられるのが1つの将来像といえる。
②のタイプは、特に製造業においては最も一般的なスタイルだ。まず原材料・部品といった生産財の供給や原価管理に力点が置かれた組織形態である。
生産サイドとの一体性が強くコミュニケーションがとりやすい一方、生産財以外、例えば間接材などは守備範囲から外れることが多く、また生産側の“下請け”になりがちで格が上がりにくいというデメリットがある。加えて、生産側が事業ラインに沿って分かれているようなケースで、そのひもづきの調達部門も分散しかねないという組織上のリスクがある。
③は、調達組織の発足の目的が支出管理の適正化に寄っている場合などに採られるスタイルだ。直近では製薬業界や一部の金融機関においてしばしば見られる。CFOの傘下に置かれることから、調達コスト削減や調達リスクの管理などは進めやすい。また支出の全体像が把握しやすいため管理が漏れがちな間接材もカバーしやすい傾向がある。
一方で、②の対極となるため、生産財市場におけるコミュニケーションの機動性、調達を通じた外部のイノベーションの取り込みや生産・開発部門などのバリューチェーンへのフィードバックがしにくいというデメリットがある。
ただ、いずれのタイプにおいても、全社を横断的に管理する組織としての力に強弱はあれど、CPOがシニアマネジメントの1人として経営陣に組み込まれない限り、それが社員から見て経営アジェンダとして受け止められないことを、経営側には認識していただきたい。
人材の育成を加速させる
日本企業においては、前述のような背景から、専門性の高い調達人材は社内に育っていないケースがほとんどである。首尾よく社外から採用できればよいが、そもそも労働市場に調達人材が出現する可能性はきわめて低く、ほぼすべてのケースで社内の人材を育成することとなる。
また、調達を専門とした外部研修も、残念ながら日本では発展していない。人材育成には一定の期間を要するため、この取り組みに着手する際には、早々に手を付け、当人に積極的に経験を積ませる必要がある。
調達人材のスキル要件としては、分析力と調整力が挙げられる。もちろん、社内の各部門とのコミュニケーションが発生することから、社内ローテーションの場合は出自の部門の業務知識や同部門との人脈も重宝される。
翻って分析力については、供給市場の動向や各サプライヤーの状況、自社とのパワーバランスなど、加えてESG動向や技術トレンドなどについても分析を行い、担当カテゴリーの調達戦略を立案する必要がある。
調整力については、サプライヤーとの交渉のみならず、社内の購買要求部門はもちろん、コスト管理面で予算管理部門、調達システム面でIT部門、さらにはESG推進部門などとの調整も求められる。ただ、このような能力や知識をフルセットで持っている人材はまれであるため、その見込みのある人材を見つけて調達部門内で育成していくのが常道となろう。
BCGが支援するプロジェクトでは、人材育成専門の検討グループを立ち上げて、スキルセット(部員共通/職位別にどのようなスキルが調達部門に必要なのか)とキャリアパス(どのようなパスを経て職位を上がっていくべきか)を整理し、現在の調達部員の強み・弱みの評価や不足するケイパビリティの分析を行う。その不足を埋めるために、外部研修を活用したり、社内の育成パスを設計したりするなど具体的な施策を策定している。
さらに、先進企業ではスキルセットや調達カテゴリー知識を50〜100項目程度に細かく分解してKPIを設定したり、社内でのバイヤー認定制度を制定したりするケースもある。リソース・ケイパビリティの課題は、人材不足など現場の課題を解決しながら次段階への布石を打つ必要があるため、人事部門を巻き込んだ取り組みが必須である。
人事ローテーションやキャリアパスにも組み込み、エース人材を回す
古今東西を問わず企業においては、部門の利益、ひいては部門長自らの評価のために、優秀な人材を手元に置きたがる傾向が強い。しかし、それでは前述のような調達人材が社内で見いだせず、調達部門が育たない。マネジメントには、転換点に立つ調達機能の重要性を改めて認識したうえで、短期的目線でなく中長期目線で調達部門も配属先とした人材ローテーションを企図いただきたい。
なお、人事ローテーションには、優秀な人材確保以外に、2つの目的がある。1つは、社内でのプロモーションもしくは部門間連携の一環としての役割、もう1つはサプライヤーとの癒着の排除である。
定期的に人材がローテーションされれば、社内人脈の課題は自然に解消に向かう。人材ローテーションがないと部門横断での取り組みが進みにくく、人材ローテーションが進むカテゴリーにおいては改革が促進される傾向がある。例えばR&D部門からの人材ローテーションによりR&Dカテゴリーの調達戦略が進化する、といった具合だ。
また、サプライヤーとの癒着の排除も忘れてはならない。当然、同じ部門、チームに長くいることで専門性が蓄積できるという側面はあるが、新興国への進出などを経て痛い目を見た先進企業においては、バイヤーは調達部門内の配置替えを含め、必ず4〜5年以内の周期でローテーションが行われている。また、定期ローテーションが行われる前提で、引継ぎや組織知化などの仕組みが織り込まれている。
<連載ラインアップ>
■第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?
■第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?
■第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?
■第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?
■第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?(本稿)
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筆者:ボストン コンサルティング グループ 調達チーム