“異業種組”が宿泊業界に続々参入 空前のホテル供給ラッシュを素直に喜べない理由

12月3日(火)6時0分 文春オンライン

 ホテルをはじめとする宿泊業界が活況を呈している。一口に宿泊業といってもその形態は様々だ。旅館業法においては宿泊施設として、旅館、ホテル、簡易宿所、下宿などが定められている。また18年6月には近年台頭してきた民泊について新たに「住宅宿泊事業法」を施行し、民泊を法的に位置付けた。


 それでは宿泊業におけるそれぞれのカテゴリーは現在どんな状況にあるのかを見てみよう。



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2009年まではホテルよりも旅館の方が多かった


 実は日本ではつい最近まで、宿泊業においてはホテルよりも旅館が圧倒的に多かった。2005年では旅館は軒数で5万5567軒、客室数で85万室を数え、ホテル8990軒、69万8000室をはるかに凌駕していた。


 この数値が客室数において逆転するのが2009年。そして2017年現在では旅館は3万8622軒、68万8000室と軒数で約30%、客室数で約19%も減少している。いっぽうホテルは同年で1万402軒、90万8000室と軒数で約16%、客室数で約30%もの高い伸びを示している。


 旅館と聞くと、温泉宿など観光地にある宿というイメージが強いが、もともとは都会にも数多く存在し、ビジネス客や、東京などに出てきて子供に会ったり、観光したりする地方からの客たちでにぎわってきた。こうした旅館は比較的小規模な家族経営のところが多かったために、時代の進展とともに一部はビジネスホテルなどに看板を書き換えながら細々と生きてきたが、多くの旅館は経営者の高齢化や相続の発生などで事業承継が叶わずに廃業したために、その数を急激に減少させてきたのである。



安く泊まれるカプセルホテルが急増


 旅館経営を圧迫したのはホテルの隆盛ばかりではない。旅館業法上、簡易宿所と呼ばれる宿泊形態の拡大もその一因だ。簡易宿所といえば以前は日雇い労働者などがその日の宿泊所として利用するものなどが大半だった。ところが最近ではビジネスマン人口の増加にともなって、通常のホテルよりも安く泊まれるカプセルホテルがその数を急激に伸ばしてきた。


 カプセルホテルは客室としての仕切りがなく、簡易なベッドが大広間にいくつも並べられ、他の客と共同で利用する形態をとる。風呂場や洗面などの水回りを共同化できるために設備投資を抑えられるのが事業者側のメリットだ。



 また16年4月の、宿泊客が10人未満の時は客室面積の規定を宿泊者数×3・3平方メートルでよいとするなどの規制緩和を受け、特に東京や大阪の都心部や京都などの観光地において、「ホステル」という名称で、外国人観光客や宿代を少しでも安くしようとする若者を中心に支持を集めるようになったのだ。


とはいえ「作りすぎ」では……?


 こうした規制緩和や宿泊客の多様化などを背景に簡易宿所数は17年には3万2451軒となり、2005年比で約45%もの急増ぶりを示している。


 民泊も18年6月の住宅宿泊事業法の施行を受けて、一時は「ヤミ民泊」と言われる無許可の民泊の多くが廃業してその数を減らした。だがその後、許可件数は伸び続けていて、19年10月までに、新しい法律の下での届け出数は2万件を超えるに至っている。


 こうしたホテル、簡易宿所や民泊などの急増は、いっぽうで「作りすぎ」との懸念や批判を生んでいる。実際にはどうだろうか。



 19年から21年における国内の主要な都市、観光地における新規開業予定のホテル客室数についてCBREから興味深いデータが発表されている。この調査によると京都では既存の客室数の約5割にあたる客室が新規供給されるとされ、21年には客室数は4万室に、大阪では既存客室数の約3割にあたる客室が新規供給されて、21年には8万室になるという。


紅葉シーズンの京都でも部屋が余っている!?


 すでに影響はこの2つの都市で実際に出始めている。昨年までは客室稼働率が90%を超えるホテルが続出、平均宿泊単価もうなぎのぼりの状態であった京都・大阪だが、今年に入ってから、特にビジネスホテルを中心に稼働率が10%から15%も落ち込むところが出てきている。


 また稼働率の低下に伴って宿泊単価も下落に転じている。大阪市内のビジネスホテルも一時は東京並みに1泊1万円を下らないとされたが、最近では5、6000円で宿泊できるようになった。



 例年であれば紅葉シーズンの11月はホテルの予約がほとんど不可能だった京都でも、かなり部屋が余っている状態。曜日によっては非常に安く宿泊できる状態だ。


 こうした状況は利用者側からみれば、けっして悪い話ではない。宿泊の選択肢が増え、自分の財布や好みに応じていろいろな宿を体験できるからだ。



ホテルの基本を知らない“異業種組”が増えている


 だがいっぽうで、ホテルの供給ラッシュがいろいろな歪みをもたらしていることには注意が必要だ。私はホテルをはじめとする不動産の事業プロデュース業を営んでいるが、最近新規のホテル計画として持ち込まれる案件を見ていて危惧することが増えてきたのだ。


 この供給ラッシュには、急増する外国人需要などを見込んで、これまでホテルなどの宿泊業を行ってこなかった所謂異業種からの参入が増えている、との背景がある。それはそれで結構なことなのだが、ホテルについての基礎知識があまりに欠落した計画が多いのだ。



 たとえばマンション専業デベロッパーなどが、マンションが売れなくなってきたのでビジネスホテルに参入しようとして計画した図面が持ち込まれることがあるが、ただワンルームマンションを小さくしてフロントを付けただけのような安易な計画が目に付く。最近のワンルームマンションは1部屋が20から25平方メートルだが、これを10から15平方メートルに縮め、台所を取っ払って一丁あがり、みたいな企画が多いのだ。


新しいホテルの意外な「落とし穴」


 実際のホテルはリネン室というリネン類をストックする部屋が、できれば各階に必要なことがわかっていない。そして、大きなスーツケースを引きずる客のために廊下幅は1・6メートル以上確保したいのだが、狭小な廊下にしようとする。


 また、マンションの各住戸の玄関扉は通常は外開きだが、ホテルでは内開きが基本だ。ホテルは部屋に踏み込まれる危険性があるため、女性でも全力で扉が押せるように、通常は内開きで設計する。ホテルの共用廊下も、外廊下とするのは安全上の観点から基本的にNGだ。


 エレベーターも、客室を多く確保するために小さなホテルだと1基しか設けない企画が多いが、10階建て以上にもなると朝のチェックアウト時には大混雑となる。また、リネン交換のワゴンを乗せると客がエレベーターに乗れないなどのトラブルに陥ることがあまり考慮されていないのだ。



 宿泊マーケットはひところのような全く予約がとれないような状況から脱し、魅力的な宿泊施設も増えてきたが、利用する側としてぜひ気を付けたいのが、利便性や安全性の問題だ。新しいホテルなどはたしかに設備も綺麗で気持ちが良いものだが、意外と落とし穴が多いのも事実のようだ。気を付けて宿泊したいものだ。



(牧野 知弘)

文春オンライン

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