KINTOへの申込の約5割が若年層なのはなぜか

12月3日(金)7時0分 JBpress

 サブスクリプション(以下、サブスク)の中でも大きな可能性を秘めている一つに自動車のサブスクがある。トヨタ自動車の「KINTO(キント)」は、2019年に同サービスを開始した。販売店での購買体験イメージが強い自動車だが、KINTOはWeb上での車の購買体験という新たな領域を確立させるとともに、20〜30代の若年層から多くの支持を得ている。そんな同サービスは、どのような歩みを進めてきたのか。 イメージ戦略の軌跡と共に、同社マーケティング企画部副部長の藁谷直樹氏に聞いた。


不安の見える化がサブスクへとつながる

 従来の車の購入といえば、販売店へ足を運んで購入後、保険やメンテナンスなどの必要経費を都度支払いながら乗り換えなどのタイミングまで所有するのが一般的だ。しかし、KINTOは月額費用に保険、税金、メンテナンス料などが全て含まれる定額サービスだ。契約期間中でも、中途解約や一定条件を満たせば乗り換えが可能になるのが、従来の所有との大きな違いとなる。

 トヨタ自動車は、販売店を通じた地域密着型のきめ細かな営業活動を行ってきた。そんな同社が車のサブスクを開始した背景には、時代に合わせた柔軟な選択肢を提供したい思いがあった。車で自由に移動して楽しむ価値は、年代を問わず今も昔も変わらない。しかし、経済的な理由や検討のプロセスに何らかの不便を感じ、所有へ至っていないケースが一定数あったのだ。KINTOが申込から契約までをWebで完結できるようにした理由も、そのニーズへ応えるためだった。

 車の所有経験のないユーザーにとって、所有に伴う経済的負担は大きな不安要素だ。20〜30代を中心とする若年層を中心に、車体費用以外に発生する任意保険やメンテナンス費用などの負担を危惧する声が多かった。そして、その不安を解消するために販売店へ行こうとしても、そもそも車がないので行きにくい。
「若年の車離れが加速する中で、お客さまの不安解消と多様な選択肢を追求した結果が、どんなお客さまでも一定月額で利用できるサブスクリプションモデルでした。Webサイトで車種も月額費用も全てご確認いただけるので、何度でもゆっくりご検討いただけます。契約まで完結できるのも新たなメリットです」と藁谷氏は話す。


新たな顧客層の獲得とその理由

 2019年2月に東京で実証を開始。その後、同年7月より全国展開を開始した。しかし、サービス開始当時は周囲からの心配の声が多かったと藁谷氏は当時を振り返る。

 KINTOは販売店とWebの両方で契約ができる。そして、Webで契約したお客さまも、近隣の販売店を選択して納車とその後のメンテナンス等を受ける仕組みになっている。これはユーザーにとって大きな安心感がある上、販売店にとっても新たな顧客との接点が増えるので互いにとってメリットだ。

 新たな購買体験となるWebは、ある程度の時間をかけて徐々に伸ばす算段でいた。しかし、意外にもメインターゲットとなる若年層のニーズと、KINTOが構想した多様な選択肢を提供する新たな顧客体験の交差部分が大きく、ポジティブな反応が徐々に拡大していったのだ。

 これは、サービス開始から2021年6月まで集計グラフだ。KINTOは今まで車を保有していなかった新たなユーザー層の獲得に成功した。この背景の一つに、2020年からのコロナ禍の影響による、「移動手段の見直しと意識の変化」がある。以前は必要時にカーシェアを利用していた方も、パーソナルな空間や、より自由な移動手段の確保へと意識の変化が起きていた。そこにKINTOサービスがフィットしたのだ。

 そして、顧客の年代層は20〜30代のお客さまが約半数を占める。そして、全ユーザーの6割、若年層に至っては約8割が検討から契約までをWebで完結させている。

「お客さまはさまざまな方法で商材を調べているとは思いますが、Webで車を購入するハードルは想定より低かった。新たな選択肢として自然と受け入れていただけたと思う」と藁谷氏は語る。

 このように話すのは、「むしろ、なぜWeb購入がなかったのか」と、疑問を抱く20〜30代の声があったからだ。ECでの購入体験が日常化している中で、商材に対するバイアスは少なく、利便性と選択肢の広がりを肯定する意見が多かった。

 そして、若年層の、「車という資産を若いうちは保有したくない」という価値観も大きく影響している。内外からの変化が多い世代にとって、ライフスタイルの変化に順応することが重視され、3年後の状況が分からないまま従来の購入方法で重荷を背負うのは不安が大きい。ならば、毎月の支出が明確で解約や乗り換えの自由度が高いKINTOを支持する声が多かったのだ。

 これらを合わせると、若年層は商材に対して、検討から利用までの包括的な自由を追求しているといえるだろう。選定時の場所や時間、価格も含めた商材、変更や継続などの自由さなどを兼ね備えたサービスなのか。そして、自らの人生とともに自由に変容する適応力がサービスに備わっているのか。それらを念頭に置いて情報収集を行い、共感するサービスを選択していくのだ。

 これらの観点からも、KINTOが受け入れられた理由は明確だ。そして、そんな若年層へ向けたコミュニケーション施策も、共感と認知拡大を後押しする大きな要因となっていた。


新たな体験を提示するコミュニケーションを

「KINTOが適しているお客さまに対して適切にサービスを伝える。それが、KINTOのコミュニケーションです」

 KINTOの認知度を高めた背景にテレビCMがある。サービス開始時から2021年まで、年々変化する訴求内容に藁谷氏の言葉の意味が垣間見えた。

 サービス提供開始時は、車の所有に対する改革を示す意図で、「まだ車買ってるんですか?(これからはサブスクです)」というキャッチコピーの元でメッセージを伝えた。これに関して藁谷氏はこう振り返る。

「注目度は上がりましたが、同時に、車を買って何が悪いんだ!という厳しいご意見も頂きました。新しい体験を提示したい思いがありましたが、多くの反省がありましたね」

 そこで2年目は、若年層を中心に、「近しい存在(サービス)」というイメージを抱いてもらうために、菅田将暉さん、二階堂ふみさん、矢本悠馬さんにご出演いただき、「車がある楽しさ」を表現するコミュニケーションへ転換を図った。この舵切が若年層を中心に高評価を得たのだ。

「撮影ではシナリオを作らず、お題のカードを置いてフリートークをしていただきました。飾らないリアルな会話が、若年層を中心に多くの共感を得たのだと思います」
 このような大胆な施策や方向転換は、同社のマーケティング指針によるものだ。仮説を立てて適切なPDCAを回すことも重要だが、ある局面では大胆に攻めることが必要だとされている。

「着実な施策はもちろん大切ですが、偏り過ぎるとジャンプアップの壁をいつまでも突破できなくなる。直観的な右脳と、ロジカルな左脳を行き来するような両面を持つことが極めて重要だと思っています」

 そして、3年目は前作よりブランドメッセージを強めた、「やっぱクルマっていいな」というメッセージを中心に、広い世代へKINTOの世界観を発信している。繰り広げられるフリートークも、サービスが持つ多様性にあわせて今後も常にアップデートされていくのだろう。


モビリティに関する多彩な選択肢を提供する

 藁谷氏は、「大切なのは車で移動する楽しみを感じていただくこと。車を所有する選択肢の一つとして今後も展開していきたい」と力を込めて抱負を語った。

 2021年4月には、多様なモビリティサービスを提供するオンラインプラットフォーム「モビリティマーケット(モビマ)」を開設。通信、旅行会社、キャンピングカーレンタル会社など、さまざまな企業と連携した約100ものプログラムを提供している。まさに、「新しい移動のよろこび」を発見できるWebサイトだ。

 このほか、2021年9月には、KINTOで契約している車を契約者と仲間同士でシェアできる、「わりかんKINTO」アプリの提供も始まった。これも、新しいサブスクの楽しみ方の提案と言えるだろう。

「これからもお客さまのご要望をお聞きし、世の中の動きに対応した新しいサービスを展開して、日本でKINTOをご利用しているお客さまが、海外でも簡単にモビリティサービスをご利用いただけるようなことを目指していきたいですね」

 単に、「所有か利用か」といった二者択一ではなく、車にまつわる多様な選択肢と新しい体験を提供していこうとしているのがKINTOなのだ。

筆者:下原 一晃

JBpress

「KINTO」をもっと詳しく

「KINTO」のニュース

「KINTO」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ