大赤字のソフトバンクを救った孫正義「話術の深謀」

12月4日(水)6時0分 JBpress

11月6日、2019年の7-9月期決算を発表するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(写真:アフロ)

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 トランプ大統領の演説と熱狂的な支持者の様子を見ていると、スピーチ力があれば破壊的パワーで世界すら揺るがせる怖さを感じてしまう。言いたい放題に感じられるスピーチが、支持者を惹きつける理由は何か?

 内容なのか、技術なのか?

 解明のヒントは、赤字決算で注目を集めたソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんの中間決算会見でのスピーチに隠されている。


孫正義のスピーチ力を解剖する

「今回の決算は真っ赤っかの大赤字・・・」「ボロボロでございます」と隠しようのない結果をまずあけすけに語る。

 ソフトバンクは危ないのではないか?という投資家の不安の声をこれでもかというほど羅列した挙句に、「こういう評価はある意味で正しい」、「少なくとも市場はそう思っている」と、聴衆の感情を肯定してみせる。普通だったらいきなり反論を始めたくなるところを、いったんすべて肯定してしまうのだ。

 こうした発言をされるとかえって投資家は「少なくとも孫さんは、自分の憤りや不安を全部わかってくれているのね」と瞬間、心がおだやかにさせられる。

 しかも、大赤字と言いながら自信ありげに、ニヤリと笑ってみせるのが役者だ。投資家は儲けたいと思っているが、経営者に期待しているのは「強さ」だ。そこを孫さんは外さない。

 冷静に投資家の動揺を抑えたうえで、「業績は悪くとも投資先の株式価値は上がっている」と、今度は一転して論理的に説明する。

「皆さんからしてみれば訳が分からず、信じたくない事実でしょう」と挑発までしてみせる。論理と感情を絡めて「真実は一つ」と導いていくわけだ。その後に続く数字の説明も極めて分かりやすい・・・と思わしめる。自分が伝えたいメッセージの裏付けとなる数字のみ選び示し、他に頭が回る状態を作らせないのだ。

 こうして孫さんは投資家の不安を落ち着かせることに成功した。

 トランプ大統領と孫さんのスピーチには共通項がある。話が単純明快、数字は持論を裏付けるもののみ簡潔に示す・・・要は、勧善懲悪の時代劇のように白黒がはっきりしているのだ。

 ただ、それ以上にスピーチの影響力を高めている理由は、話の組み合わせの妙にある。


聞き手の信頼を得る3つの教訓

 それは次のように構成されている。

①感情のマッサージ(情緒)

②”適切なる”現状分析(論理)

③持論に対する不理解への挑発と、新たなる期待の提示(情緒と論理)

 平たく言えば、「相手の頭や心の中に完全に入り込んで、相手の言葉や気持ちを思いのままに操りながら自らの持論に導いていく技」に優れているのだ。

 さて皆さんだったら今回のソフトバンクグループの決算をどう説明しただろうか?

 まず(1)思わず最初に頭を下げて詫びてしまうのではないか。次に、(2)もういったんは謝ったのだからとすかさず反論を始めてしまわないだろうか。そして(3)間違ってはいけない、正確であらねばならないと、示す数字を絞り切れずたくさん提示してしまうのではないか。

 これでは全く、投資家の信頼を得られない。1つずつ「教訓」を示して説明してみよう。

(1)最初に頭を下げて詫びてはいけない

 なぜなら投資家は経営者に儲けさせてほしいのであって、謝罪してほしいのではないからだ。会社を見限っていたら、そもそも話を聞きに来たりはしないだろう。

ここから導き出されるスピーチの教訓は、こうだ。

 (教訓1)相手の感情の深い読み込み

(2)謝罪のあとの反論は最悪

「謝られたって困る!」と聞き手の感情がもやもやしているところで、いきなり反論が始まっても、人は心を閉ざしてしまうものだ。

 ここからは次の教訓が得られるだろう。

 (教訓2)Noではなく条件付きYESの思考回路の日頃の訓練

(3)正確性を期そうと数字を羅列してはいけない

 シンプルなストーリーを裏付けるために必要最小限の数字のみ提示すれば、即座に反証されることはない。羅列した数字は質問を増やし、こちらが思いもよらないストーリーに、誘導されるリスクが高まってしまう。

 日本人特有の生真面目&正確性の呪縛から、日本人は数字を羅列してしまいやすいが、だからこそマスコミのネガティブ・ロジックに情報を供給し、まったく思惑とは違う批判をされてしまうのだ。ここから得られる教訓は、次の通りだ。

 (教訓3)理解されない正確さより美しい簡潔さ


スピーチ力、日本人特有の伸びシロ

 時々日本の経営者の話を聞く機会があるが、多くの場合とても退屈だ。

 実は懇親会などではびっくりするほど上手なのに、昼間の世界では、わざわざ機械的に話をすると決めこんでいる節もある。こんな不作為が許されるのも、終身雇用下で、阿吽の呼吸が成り立ってきたからだ。

 かくいう私は40代後半まで極めてつまらない話し手だった。元々自分に自信がないし、良い仕事をしていれば言葉にせずとも伝わるはず、という根拠なき思い(おごり)もあった。

 ところがあるとき世界のトップに呼ばれて「おまえは話し方を学びなおせ」と言われてびっくりした。続けて「お前の部下から、『社長の話が下手すぎるから、是非彼にプレゼンテーションを学ぶ予算を与えて欲しい』と言われたぞ。お前は本当に部下に愛されているなぁ」と聞かされて、さらにびっくり! それって愛情??(笑)

 異なる価値観をもった人財の寄り集まったグローバル企業では、「語る力」がなければトップに立ってはいけないのだ。

 日本企業も働き方改革の下、それぞれが個性豊かに生きるようになり、人財も考え方も多様性が増した。実は阿吽の呼吸など、とうに成り立たなくなっていたのだ。それなのに、苦手意識の強い話下手を、都合よく正当化してきたわけだ。

 語る力を高めなければならない! これはその後の人生を大きく変える教訓となった。

 日本人は体系的に「語る力」を学ぶ機会がほとんどない。

 逆に言えば、少し学ぶだけで格段に上手になる、それがEATスクール(「人財アジア」)にて生徒のみなさんの成長を見てきた実感だ。

 わかりやすく、伝わりやすく・・・このことに神経を集中させると副産物として大きなリターンを得られることも分かってきた。


スピーチ力をあげる3つのポイント

 まずは、物事の優先順位付け。伝えたいメッセージを1つ、マックス3つに絞り込まないと聞き手を混乱させてしまう。話が上手になっていくにつれて、自身が何を大切にするか、優先順位付けが明確になっていく。

 次に、相手の関心や好奇心に関する徹底的な洞察力。相手に聞く心の準備がなければ、どんな素敵な話もささらないことがわかる。相手の思いを想像する姿勢が身に付くと、日ごろの部下マネジメント能力が高まっていく。

 最後に、思考の明確化、洗練化。手あかのついた言葉は使うなというのが、私が恩師から得たアドバイスだ。たとえば終身雇用の終焉というが、それは具体的に何を指すのか? 定義を聞いてみると人によって随分ばらつきがでる。的確な言葉選びは明確な思考のカガミなのだ。

 多様性時代を勝ち残るエグゼクティブは、今後語る力を高めていかなければならない。語る力の源は、回り回って明確な思考にある。

 外資勤務時代にグローバル本社と日本拠点との間で、よく感情的軋轢が生じた。

 案件選抜に際して最初から損益にこだわる海外と、時間をかけて黒字化を目指す日本とのすれ違いだ。日本の代表として初めのころは、文化の違いを声高に主張したものだ。しかし、それがなんの解決策にもならないと直観してからは、「そうだよね。儲からない案件は自分たちもやりたくない」と相手の肯定から入るようになった。すると意外なことに、「それでは何年で黒字化できそうか?」とグローバルヘッドがたずねてくるようになった。同じ船に乗ったのだ。


グローバルエグゼクティブが選んだ思考法

 それからというもの、自身がグローバル社会の一員として認められていくのを感じた。共通(価値基準の)言語を話してこそともに先を考えられるようになるのだ。

 だから、孫さん方式はまさにグローバルコミュニティの定石を踏んだまでであり、相手目線の思考方法はエグゼクティブの常識だ。

 孫さんのスピーチは、世界から見れば決して奇襲ではない。

筆者:岡村 進

JBpress

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