ホンダ、ソニー、第一生命…コンサルティングを生かして躍進した企業の共通点とは?
2024年11月27日(水)4時0分 JBpress
年々、規模が拡大しているコンサルティング市場。戦略立案を手がける伝統的な外資系コンサルファームに加え、総合系・会計系、国内系、さらにはベンダー系まで、コンサル業界は百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相だ。一方で、コンサルの質や使う側の姿勢が問われ始めている。本連載では、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の元代表・堀紘一氏と元同社のコンサルタント・津田久資氏が、コンサルティングのあるべき姿を考察した『本物のコンサルを選ぶ技術』(堀紘一、津田久資著/クロスメディア・パブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。失敗しないコンサルの選び方と付き合い方を解説する。
第3回は、成果を出すために有効なコンサルタントとの付き合い方を紹介する。
賢いつき合い方① 戦略決定に参加する
コンサルタントを雇ったから、あとは彼らに任せていればいいという姿勢では、よい結果は生まれない。「一緒に考える」ことが大切なのだ。
戦略策定に関わるとか、業務改善のために、自分たちはこう考えているとか、活発に意見を出して、一緒に議論する。
戦略決定に関わるには、企業側も「結論仮説(問題や原因、解決法がこれではないかという仮説)」を持っていることに越したことはない。
結論仮説があることで、議論はより具体的で生産的なものになるはずだ。
コンサルタントに何とかしてもらおうという受け身の姿勢ではなく、自ら問題設定、問題解決を行う積極的な姿勢を求めたい。
議論に参加し、結論に至るまでの「考え方」を知っていれば、違った問題や課題が生じても対応することが可能だ。考え方を知らず、ただ「答え」を知っただけでは、応用は利かない。
結論に至った過程を知っているのと、知らないとではその後の取り組み方に大きな差が生まれるだろう。
賢いつき合い方② 経営者がリーダーシップを発揮する
企業が大きく変わるためには、経営者がリーダーシップを発揮する必要がある。最近はボトムアップも重視されるが、わが身を切る覚悟がなければ改革などはできない。それには、強いリーダーシップが不可欠だ。
JAL(日本航空)の再生では、稲盛和夫さんという伝説的な人物がトップに立ったが、それくらいのレジェンドでなければ、あのような会社を再生することはできなかった。
私自身、コンサルティングをする中で、癖が強くリーダーシップの強いトップほど、成果も大きかったという実感がある。
ホンダの川本さんにしてもヒロセ電機の酒井社長にしても、ときにケンカ腰になるほどやりあった。逆に言うと、それくらい真剣に向き合えるトップは、自分の考えを持っていたし、リーダーシップも強かったと思う。
最初こそ対立しても、こちらの意図を理解し、いざ実践するとなったときの判断と実行のスピードは早い。
経営者のリーダーシップ如何で、コンサルの成果は決まるのである。
賢いつき合い方③ 無難なC案を選ばない
せっかくコンサルタントを雇っても、彼らが提案したものを実行しなければ意味がない。私は最終プレゼンの前に、A案、B案、C案の3つを用意する。A案は企業変革のために最も有効な案だが、その分改革が必要で、痛みも伴う内容だ。
それに対してC案は、企業側の痛みは少なく受け入れやすい案だ。しかし、その分効果は少ない。B案は、A案とC案の中間だ。
残念なことに、私の経験では8割以上の企業が、最も無難で効果の薄いC案を選択する。安くはないコンサルタント料を払ってC案を採用するならば、そもそもコンサルタントを雇う必要もないのではないかと思ってしまう。そんな案なら、おそらく社内でも考えつくはずなのだ。
数は少ないけれど、A案を採用してくれる企業もあった。それがホンダとかソニー、ヒロセ電機、カプコン、第一生命などだが、いずれもその後躍進している。
残念ながら多くの企業は、組織の論理の中で、結局は無難な案を採択し、思うような結果を出せていないのが現状だ。
コンサルタントを雇うのであれば、それなりの覚悟が必要だろう。
賢いつき合い方④ コンサルの提案を素直に受け入れる
コンサルタントに対して、「キミたちに経営の何がわかる?」というような懐疑的な姿勢を示す役員や社員などが必ずいる。
自分たちのやり方に誇りがあって、いまさらコンサルタントの意見など聞けないということもあるだろう。あるいは、以前にひどいコンサルティングを受けたせいで、コンサルに対する不信感を持つ場合もある。
しかし、最初から否定してかかる態度では、せっかくいい案が出てきても素直に受け入れることはできないだろう。
結果的には、大きな損をしてしまうことになるかもしれない。
虚心坦懐に、素直にコンサルタントの話に耳を傾けてほしいと思うことがしばしばある。その点ではユニ・チャームという会社はじつによくこちらの話を聞いてくれた。大いに効果が上がった例として、記憶に残っている。
最初に、社長の高原慶一朗さんから依頼を受けたのは、ペットフードの件だった。当時、同社の商品ラインナップは犬用が30種類、猫用が30種類もあった。そして、赤字が7億円もあった。
私が提案したのは、まず商品の種類を減らして犬用15種、猫用15種に絞ることだった。さらに支店も7つから東京、名古屋、大阪だけにする。「選択」と「集中」だ。
すると高原さんが呆れて、商品も半分、商圏も半分になったら2分の1×2分の1で4分の1になってしまう。そうすると、いまの売り上げ30億が7億になる。赤字の額と一緒じゃないかと。
私は反論した。「いや、現在のように商品も商圏も分散していてはダメだ」と。「もっと絞り込んで、販売する人も商品をよく理解した上で営業できるようにした方がいい。いまなんて商品が多すぎて、よくわからないまま売っている人も少なくないでしょう」と伝えたのだ。
最初こそ疑っていた高原さんだが、私たちの説明を聞いて、「よし、わかった」と言って、こちらの言うとおりにしてくれた。
すると6カ月たったら、売り上げがなんと倍増してしまった。言った通りの結果になったのだ。高原さんはそこから一気に、私たちのことを信用してくれるようになった。
次に任されたのが生理用品で、最後が本命商品のオムツのコンサルティングだった。一番の問題は、当時掛川に70億円を投じて作った製造機械が、すぐに不具合を起こしてストップしてしまうことだった。
実際に工場に行って見てきたが、確かに使い物にならない。そこで高原さんの故郷の四国に古い機械があったのを掛川まで持ってきて、新しい機械をやめて古い機械で生産をすることにした。
投資した新しい機械を捨てるわけだから、トップとしては思い切った決断だ。しかも古い機械を復活させるのだから、普通なら躊躇うだろう。ただし、これも高原さんは実行してくれた。するとすぐに利益率が改善したのだ。
そこで次の問題が、機械を購入した70億円の赤字だ。そのまま決済すると株価が下がり、転換社債の転換ができなくなる恐れが強かった。
「高原さん、品川に70億円の土地を持っていますよね。それを売って会社に寄付したらどうでしょうか」と提案した。
さすがに高原さんも「めちゃくちゃなことを言うなよ」と頭を抱えたけど、70億円の廃棄損失を出して株価が下がり、転換社債がダメになったらどうなるか?
「あなたが持っている財産のほとんどがユニ・チャームの株でしょう? 株価が一気に下がったらその損失の方がずっと大きい。私がちゃんと計算したから、どっちが得か損かはっきりご覧にいれましょう」
実際に数字を挙げて、70億の私財を投げた方がずっと得だと説得したら、これも高原さんは受け入れて実行してくれた。
そんなことがあって、その後ユニ・チャームの株は高騰して2倍、3倍どころか、いまや当時の何十倍にもなっている。高原さんから見たら、私などは実際のビジネスのことなどわからないただの若造だっただろうが、受け入れがたい提案も腹を括って採用してくれた。結果的に、それが現在のユニ・チャームにつながったと思う。
素直に受け入れてくれれば、コンサルティングの効果はとても大きなものになる。自慢や誇張ではなく、実際の話として強調したいと思う。
<連載ラインアップ>
■第1回 元BCG代表・堀紘一氏が、元ホンダ副社長から教えられた「本当のコンサルティング」とは?
■第2回 食事の誘いを断るコンサルタントには、なぜ気を付けた方がいいのか?
■第3回 ホンダ、ソニー、第一生命…コンサルティングを生かして躍進した企業の共通点とは?(本稿)
■第4回 会社のレベルは会議に表れる…コンサルタントから見た、仕事を「しやすい会社」「しにくい会社」とは?
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筆者:堀 紘一,津田 久資