「生涯投資家」村上世彰が東大で語った金銭教育──親子でお金の話をすれば日本経済は復活する

12月5日(木)6時0分 文春オンライン

「お金は経済における血液であり、循環しなければ意味がない」


 村上ファンドを率いて平成の日本市場に旋風を巻き起こし、「物言う株主」と呼ばれた村上世彰氏。その波瀾万丈の半生と投資理念は、ベストセラーとなった著書 『生涯投資家』 に詳しい。現在は投資家として日本経済に働きかける傍ら、子どもたちへの金銭教育に力を入れている。


 その一環として、母校である東京大学で、株投資に関心がある中学・高校生とその父母を集めて村上氏の講演会が行われた。お金のプロ中のプロが教える、「お金との正しい付き合い方」をレポートする。


◆ ◆ ◆



東大・駒場祭の講演会で語る村上氏。巧みな話術はいまも健在だ。


お金との付き合いが嫌いな日本人


 私はシンガポールに移住して10年以上になりますが、世界中で日本ほどお金を嫌っている国はありません。親子でお金の話をまったくしない。このなかで、お父さんの年収を知っているお子さんが何人います? 住宅ローンの額も、一般の家庭では話題にしませんよね。こと程左様に、日本の子どもたちはお金と付き合う機会があまりに少ない。


 実は私も、妻に自分の年収を隠していました。ところが、ある事件の裁判ですべて明らかにされてしまった(笑)。ついでに私自身のことを申し上げると、5歳の頃からデパートで商品の値札を見るのが趣味でした。だから、数字には無茶苦茶強い。学校でも算数には圧倒的な自信がありました。東大に入れたのも数学ができたおかげで、国語なんか平均点しか取れていません。で、何を皆さんに申し上げたいかと言うと、お金や経済の仕組みを理解するうえで、まずは数字に強くなっていただきたいということです。


 いま日本には上場企業が約3600社あり、年間に稼ぎ出す利益は40兆円ほどになります。このうち、株主に還元されるのは40%です。ちなみに、私が投資の仕事を始めた20年前は10%ほどでした。それ以外のお金はどうなっているのでしょうか? すべて内部留保です。会社が貯め込んでいる。それが毎年25兆円くらいになります。


 1990年、日本の上場企業の内部留保の総額は200兆円でした。現在はなんと500兆円にも積み上がっています。何にも使わず、ただひたすら貯め込んできた結果です。こんないびつなバランスシートの国は世界中どこを探してもありません。では、一体何のために? 自分たちの会社が1000年先まで生き延びようとしているからです——。



お金が寝たままだと経済は成長しない


 利益を貯め込むとどうなるのでしょうか? お金が寝ています。お金が寝ると、絶対に経済は成長しません。加えて、日本では設備投資の額も低い。その結果、日本経済はこの30年間、ずっと低迷したままです。


 1990年代に日本の上場企業の時価総額は約500兆円でした。これは当時、アメリカとほぼ同額でした。ところが、いまも日本は500兆〜600兆円程度で推移しているのに比べ、アメリカの時価総額は2000兆円を超えている。3〜4倍もの差がついてしまったのです。



 では、どうすればいいのか。お金が回る仕組みを作れば、経済は回ります。つまり企業の内部留保を吐き出させて、株式市場にお金が来るようにすればいいわけです。なぜ、株主に戻さなければいけないのでしょうか? 企業が毎年貯め込んでいる25兆円が株式市場に入ってきたら、株主である皆さんはどうしますか? そう、必ず再投資する! 自分がいいと思った会社にお金を再投資するんです。


 理由もなくお金を貯めているだけの古い体質の会社には懲罰的な課税をしてでも市場から出て行ってもらい、新しい会社にお金がぐるぐる回るようにする。そうなった時、この国は必ず成長します。


 投資家が経営者を監督する仕組みのことを「コーポレート・ガバナンス」と言います。それを実現するために、通産省の役人だった25年前に研究会を立ち上げて、色々な人に提唱しました。しかし、誰も理解してくれなかった。そこで自らファンドをつくり、実践したわけです。



村上世彰の投資のやり方


 私が投資対象を選ぶときに重要視してきたのは、「私が投資することで付加価値を付けることができる会社かどうか」という点です。このなかで企業のIR(投資家向けの広報)に電話したことがある人はいますか? IRに電話すると、その企業の体質がよくわかります。私が投資対象にするのは、IRに欠点のある会社です。


 IRの対応が悪く、株主向けの説明会もやっていない会社に投資家は寄ってこないから当然、株価は低いままです。加えて、株主に外国人が多い会社。外国人は純粋に利益を上げるために株を買っていますから、海外のファンドなどが株主に多い企業は、企業価値に対して株価が割安であることが多いのです。


 私がファンドをやっていた当時、東京スタイルという会社がありました。私が初めてプロキシーファイト(議決権争奪戦)をやって、株主総会で戦った相手です。婦人服メーカーですが、時価総額の1.5倍の現金を持っていた。本業のアパレルの売上は時価総額の30%しかありません。当時の社長は会社の金を証券会社で運用し、見返りに自分個人に新規公開株を割り当ててもらったりしていた。「これはひどい」と私は思って、株主代表訴訟で社長を訴えました。


 結局、その会社は吸収合併されて、いまは存在していません。このように、その会社に改善の余地がある限り、私はとことんやります。「株主価値を上げてください」と言うと、「じゃあ、設備投資をします」と会社は答えます。「その設備投資によってどのくらいの利益が出ますか。そのことをあなたはコミットできますか。公の場で発言してくれますか」と徹底的に議論します。


 こういう企業が存在するから、この国は悪くなるんだ。そうなると、もう儲けは二の次三の次で、訴訟費用もバンバン使って、「上場企業のあるべき姿」を追求します。だから、私は嫌われるんです(笑)。しかし、「村上ファンド、いつでもおいで」という企業はもう十分、株価が高いんですね。立派な企業は株価が高い。



 4年前、経産省の私の後輩たちが中心になって、上場企業のための「コーポレートガバナンス・コード」と、投資家に対する「スチュワードシップ・コード」が制定されました。私が従来から主張してきたことが実現されて、涙が出るほど嬉しかった。いままで「村上の野郎め」と思っていた企業も、政府に言われると弱い。しかもそれがOECD(経済協力開発機構)加盟国のスタンダードで、世界基準だと言われると、「それじゃあ……」と重い腰を上げざるを得ないわけです。既得権益の馴れ合いではなく、利益を得るためにきちんと投資する。そんな世の中になりつつあります。



海外で稼ぐ日本企業


 いまは皆さん、株なんかに投資したら、お金がなくなるんじゃないかと萎縮しているように見えます。シュリンクがシュリンクを呼んで、どんどん悪い方へ向かっている。しかし、個別の日本企業を見ると、潜在的な実力はかなりあると私は見ています。特に海外で稼ぐ力が強くなっている。


 現在の日本企業の売り上げの割合は、国内と海外では2対1です。海外が飛躍的に伸びている。シンガポールに住んでいると、そのことを実感します。海外で営業や事業をしている日本人がたくさんいます。だから、私は日本企業に関しては非常に期待しています。


 また、日本は人的レベルが高い。このような講演会を開いても、皆さん熱心に聞いてくれる。誰も立ち上がる人はいないし、ケータイが鳴ることもない。海外とは全然違います。


 私はニッポン放送株をめぐるインサイダー取引の裁判で、お金儲けの権化と言われました。判決には、「安く買って、高く売る。おぞましい」とまで書かれました(笑)。これにはびっくりしました。次の日のウォールストリート・ジャーナルでは「そんな判決が出る日本がおぞましい」と報道されました。私の行為をペナルティだ、とするのは、裁判の結果なら仕方ない。しかし、そういう思想自体が蔓延すると、この国は間違いなく亡びます。



 私は株でお金儲けして、世間的には悪者かもしれません。しかし、そのお金を貯め込むことは一切しません。子どもたちにも残しません。自分のお金は全部、社会に返すことに決めている。そこでチャレンジしているのが、子どもたちへの金銭教育です。


 私は村上財団を通じて、中学・高校生の皆さんに1人あたり最大10万円を渡して、それを元手に株取引を体験してもらうプログラムを実践しています。3000人以上の応募があって、いま500人超が株投資をしています。


 とにかく、若いうちからお金に触れ合ってほしい。失敗してもいいんです。親子でお金儲けやお金との付き合い方について話し合ってほしい。そうすれば、日本はきっとよくなります。


※村上氏を主人公にしたマンガ「 生涯投資家 」が文春オンラインで連載中です。

https://bunshun.jp/category/murakami


※原作『生涯投資家』(文庫版)が好評発売中です。




(「文藝春秋電子書籍」編集部)

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