“中国製”日米戦映画、米軍人の怒りと感動ポイント

12月5日(木)6時0分 JBpress

映画「MIDWAY」のワンシーン(US版予告編より)

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(北村 淳:軍事社会学者)

 今年(2019年)の12月8日で日本海軍(大日本帝国海軍)による真珠湾攻撃から78年目となる。その真珠湾攻撃から7カ月ほど後の1942年6月4日から7日(現地時間)にかけて、日本海軍機動部隊とアメリカ海軍空母任務部隊の間で壮烈な激戦が交わされた。ミッドウェイ海戦である。


映画「MIDWAY」への観客と評論家の評価

 この海戦に勝利を収めたアメリカ海軍は、戦力的にはいまだに劣勢ではあったものの、軍隊の根幹をなす士気が著しく高まり、太平洋戦域での戦争の潮流が変わるきっかけとなった。このようにアメリカ海軍、そしてアメリカにとっては永遠に語り継がれることになるミッドウェイ海戦を題材にしたアメリカ映画(?)「MIDWAY」が11月7日からアメリカ全域で上映されている。

「MIDWAY」の制作費はおよそ1億ドル強といわれているが、封切りから3週間ほど経った11月末時点でのチケット売り上げはおよそ1億380万ドルと制作費を突破した模様である。米国の映画評論サイトであるロッテン・トマトによると、一般客のスコア(11月末現在)は91%と好評なのに対して、評論家をはじめとする映画関係者のスコアは42%と不評である。

 一般客に好評なのは、圧倒的に優勢な日本海軍に対して勇敢に立ち向かった米海軍急降下爆撃隊が日本機動部隊の空母を全滅させる、という単純な愛国的ストーリーが受け入れられ評価された結果と言えよう。一方、映画関係者たちからは、歴史的出来事をどのように描いているか? という視点ではなく、出演者の演技や口跡(こうせき)、それに映画の構成など「映画学」的観点からの悪評が多いようだ。


これはアメリカ映画なのか?

 筆者は映画評論家ではないので、俳優の演技をはじめとする映画そのものに関する論評はできないが、ミッドウェイ海戦に関するこの映画の内容は、「中国が絡んでいるシーン」以外は、比較的史実に沿って(娯楽映画としてはであるが)描かれていると言える。

 筆者周辺のアメリカ海軍関係者たちも、ミッドウェイ海戦にいたる米側の動きや海戦そのものに関しては概ね筆者同様の感想を持っている。だが、やはり許せないのは「中国が絡んでいるシーン」の存在であると言っている。

 とりわけ対中国強硬派の人々の中には「『中国が絡んでいるシーン』のおかげで1976年版(1976年に公開されたミッドウェイ海戦を題材にしたアメリカ映画「MIDWAY」)よりも、ある意味ではひどい映画になっている」と酷評する者もいる。

 この映画には多額の中国マネーが投入されている。中国マネーが投入されなければ、1億ドルにも上った制作費は調達できず、そもそも「MIDWAY」(以下「2019年版」)は誕生しなかったはずである。そのため、ハリウッドが中国側を忖度して、あるいは中国側の要求を受け入れて、映画を作製するのはやむを得ないとも言える。

 だが、だからこそ対中強硬派はますます怒り心頭に達している。「アメリカを勝利の道へと転換させた、アメリカ海軍が誇りとしているミッドウェイ海戦を題材にした映画が、中国マネーを頼りにしなければ誕生させられなかったとはなんたることなのか」という怒りである。

 いずれにせよ、「2019年版」の上映がスタートすると、漢字の読める者は「これはアメリカ映画なのか」と等しく驚愕するであろう。冒頭の画面に「儒意影业」と中国の投資会社のロゴが映し出されるのだ。「儒意影业」とは「2019年版」の誕生を金銭面で支えた北京儒意欣欣影业投资有限公司の略称である。


日米海軍の登場人物は全て実在

 1976年版では、チャールトン・ヘストン演ずる主役の海軍大佐と、その息子である海軍少尉とその日系人の恋人といった架空の人物のストーリーが、ミッドウェイ海戦の戦史としての流れを妨害していた。

 それに反して2019年版では、主役である腕利きの急降下爆撃機パイロットのリチャード“ディック”ベスト大尉ならびに米海軍きっての日本通情報将校であるエドウィン・トーマス・レイトン少佐をはじめ、米海軍に関係した登場人物は全て実在の人物である。

 日本側の登場人物も、國村隼が演じる第1航空艦隊司令長官兼第1航空戦隊司令官・南雲忠一中将(かなり無能な指揮官として“悪役”仕立てになっているが)、豊川悦司演ずる連合艦隊司令長官・山本五十六大将、浅野忠信演ずる第2航空戦隊司令官・山口多聞少将(後述するように海軍軍人の鏡のように描かれている)など、やはり全員が実在人物だ。

 日米両軍に関係する登場人物が全て実在の人物となっているため、ミッドウェイ海戦に至る経緯や、海戦での戦闘経過などは、極力史実や通説的逸話に基づいて描こうとしている。

 しかしながら、そのように比較的戦史に忠実なストーリーに水を差しているのが「中国が絡んでいるシーン」、すなわち「『ドゥーリットル襲撃』に関連したシーン」である。

 ドゥーリットル襲撃は、1942年4月18日にアメリカ軍のジミー・ドゥーリットル中佐が指揮官となって敢行した初の日本本土空襲である。ドゥーリットル隊による東京、横須賀、横浜、名古屋、神戸などへの空襲により日本海軍のミッドウェイ作戦実施が加速されたというのが(アメリカ側の)通説であるため、ミッドウェイ海戦を語る際にはドーリットル襲撃からスタートすることが多い。

 1976年版でも、映画の冒頭はドゥーリットル襲撃の場面から映画がスタートする。しかし、2019年版におけるドゥーリットル襲撃に関係する部分の内容は、中国側プロパガンダと思わざるを得ないような「とってつけたストーリー」であるだけでなく、軍事的にも深刻な問題を含んでいる(その問題については、稿を改めて論じさせていただく)。


米海軍軍人たちが感動するシーンとは

 中国のプロパガンダのようなジャンクストーリーの反対に、アメリカ海軍将校たちにとって「お気に入りのシーン」がある。それは、一般受けするアメリカ側の勇敢な戦闘シーンではなく、“海軍軍人の鏡”として描かれている山口多聞少将の最期のシーンである。

 ミッドウェイ作戦の中心となった4隻の航空母艦のうち、第1航空艦隊司令長官・南雲中将が乗り込む旗艦「赤城」をはじめ「加賀」「蒼龍」の3隻が、米軍機の攻撃によって撃破される(全て大破したあと自沈処分、南雲中将は駆逐艦に移乗)。その後、第2航空戦隊司令官・山口少将は、自らが乗り込んでいる「飛龍」の残存航空戦力によって米空母に対して反撃を加える。

 この反撃により米空母「ヨークタウン」は沈没することになるが、米艦隊側は残存航空戦力を投入し「飛龍」に対して再反撃を加えた。その結果「飛龍」は大破し、沈没を免れない状態になった。そこで、山口司令官は「飛龍」の全将兵を退去させ、「飛龍」を自沈処分することに決定する。

 その際、山口少将は士官をはじめ乗員たちを前に、「作戦が失敗した全ての責任は私たち指揮官にある。したがって本官は『飛龍』と運命をともにするが、皆は生き残り引き続き国家のために尽くすように」と訓示する。そして、「飛龍」艦長・加来大佐だけには艦への残留を許したものの、全ての将校・下士官・兵を退艦させた。山口少将と加来大佐だけを乗せた「飛龍」は、駆逐艦「巻雲」が発射した2本の魚雷によって海中に姿を消す。

 米海軍将校たちはこのシーンに次のように感動している。

「山口司令官が語ったように、海軍に限らず軍事作戦における全ての責任は指揮官をはじめとする上層指導部にある。したがって、ミッドウェイ作戦発案者であり現場指揮官でもある山口少将が全責任を背負って『飛龍』と運命をともにしたのは、海軍将校だけでなく軍指導者にとってはまさに手本とすべき行動である」

「乗艦と運命をともにするという責任の取り方は米海軍には存在しない。だが、責任を部下に押しつけることなく、全責任を指導者自らが背負うという姿こそ、あらゆる軍隊が理想とするべき姿と言えるのではなかろうか」

(山口少将は戦死後6月5日付で海軍中将に進級、同様に加来大佐も海軍少将に進級した。)

筆者:北村 淳

JBpress

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