沢尻エリカを叩いても解決しない本人の薬物依存問題

12月5日(木)6時0分 JBpress

昨年6月、第21回上海国際映画祭に登場した沢尻エリカ(写真:Imaginechina/アフロ)

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(尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

 2019年は、ピエール瀧田口淳之介(元KAT-TUN)、岡崎聡子(元五輪選手)、國母和宏(元五輪選手)、田代まさし沢尻エリカなど薬物関連による著名人の逮捕が相次いだ年となりました。あってはならないことですが、違法薬物は私たちの周囲に確実に浸透しています。そして、それを常用する人も増えています。こうした状況で、私たちは薬物問題をどのように理解すべきなのでしょうか。

 今回は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表で、依存症問題に詳しい田中紀子さんのコメントを交えながら、薬物問題の問題点について考察してみたいと思います。


問題報道を流布するワイドショー

 以前、芸能人の逮捕を受けてワイドショーで、「薬物更生プログラムを続けている限り、その間に薬物の再使用があっても犯罪として処罰しない」という対策を提案した弁護士がいました。この提案に、猛反対したのが番組の司会者でした。

 しかし、このような依存症の専門知識がない人の意見には問題も多いと田中さんは指摘します。

「司会者は『治療してた方がずっと(薬物を)やれちゃうじゃん』と極端なことを言い出しました。弁護士は『治療中に再発したら何らかの処罰は受けます』ときちんと説明していたのに、司会者は『おかしなことを言ってる』『絶対反対』と頭ごなしに否定していました。こうした態度は、依存症の回復プログラムを続けている私たちへの冒とくで憤りを覚えます。

 中には『再犯の薬物依存症者は10年でも20年でも刑務所に入れろ』などと言う人もいますが、そんなことをしたら刑務所があふれ返り、とんでもない税金がかかる上、刑務所に閉じ込めていても病気は治りませんから、出てきた途端に再発します。刑務所は年間400万円ほどの税負担ですが、治療ならその半分以下の負担で済みます。そしてなにより、再犯者率はずっと少なくなるのです」(田中さん)

 また、別のワイドショーではある放火殺人事件の犯人について、「薬物ってことは考えられないんですか?」などと、覚醒剤の知識のない人が素人発言をしていたことがありました。

「覚醒剤を使いながら仕事をしていた官僚がいたことからも分かるように、覚醒剤を使う人が特殊なわけでも、覚醒剤を使うと明らかに特殊なことをやり出すわけでもありません。そもそも、一人の人間が凶悪犯罪に至るまでには、その人生で長い間の経過があり、要因は複雑に絡まり合っているものです。原因を薬物だけに特定できるわけがありません」(田中さん)

 さきほどのワイドショーのようなコメントが発せられる背景には、薬物の影響が原因と決め付けると事件全体を説明しやすくなることがあるように思います。しかし事件を正しく把握するためには、事件の陰にある心の問題や人間関係、成育歴など深く要因をもっと分析する必要があると、田中さんは警鐘を鳴らします。


薬物問題に社会はどのよう取り組むべきか

 薬物問題は根深い問題ですが、芸能人の薬物事犯に関してだけは、なぜか容易に社会復帰をさせない雰囲気があります。さらに問題なのは、犯罪の側面ばかりが強調され、心の問題、つまり、メンタルヘルスの問題としてとらえる視点が、テレビに出てくるタレントコメンテーターには欠けているのではないかと思われる点です。

 11月19日付のスポニチAnnexによれば、タレントの内山信二(38)がTOKYO MX「バラいろダンディ」(火曜後9・00)に出演し、沢尻エリカ容疑者について「やっぱりな」という感想を持ったことが紹介されています。テレビコメンテーターとして求められれば何かコメントを発しなければならないのだとは思いますが、沢尻容疑者とはそれほど交流があったわけではないようですので、おそらく印象論を述べたのでしょう。ただ筆者は「やっぱりな」と思うなら本人を諭すか、それができないならメディアでペラペラ喋るべきではないと感じました。

 というのも、違法薬物で逮捕された人を批判したり突き放したりするだけでは、問題の解決につながらないからです。

 一般の会社員が薬物によって逮捕されたとします。会社を辞めることになっても懲戒解雇以外であれば他の会社に再就職する機会は与えられます。再就職できればあとは本人の能力次第ということです。ところが芸能人の場合は社会的影響が大きいことから厳正に処分される傾向にあります。「芸能界は薬物に甘い」という声もありますが、筆者は必ずしもそうは思いません。一度逮捕されれば、かなりの期間、活動自粛——ほとんど無収入の状態が続くはずです。かといって、一般社会で生活する術もスキルも身につけていない芸能人の場合、おいそれと勤め人になれるわけでもありません。

 そこで必要になってくるのは、薬物問題の解決につながるような、社会復帰をうながす視点です。

 世界では、違法でも罪には問わず、薬物によるさまざまな悪影響を減らすことを目指す「ハームリダクション」という政策が広がりを見せています。薬物依存症の人に対して、その使用を厳しく取り締まるのではなく、非犯罪化し、公衆衛生や経済、薬物使用による健康への悪影響の軽減を重視した政策です。これを導入している国の一つがポルトガルです。薬物使用者やHIV感染者、若者の薬物使用者数が減少したことが明らかになっています。

 薬物がダメであることは間違いありません。しかし、薬物を使用したから「ハイ終了!」では、思考停止で非現実的です。つるし上げた方が抑止効果があると言う人がいますが世界的にもうまくいっていません。薬物問題はつるし上げでは解決しないのです。そう考えれば、沢尻さんが薬物依存を断つことを前提に、社会復帰させることを考えたほうが得策ともいえるわけです。

 薬物依存から脱却するには本人の強い意志が必要とされますが、短絡的な思考や精神論、道徳論では解決できません。そのため脱却したと認められるまでは何らかの制限を課すことも必要でしょう。判定基準や審査は海外の信頼できるエビデンスなども取り入れ、効果のある薬物対策を講じることが必要です。今がまさにその転換点ともいえるのではないでしょうか。

筆者:尾藤 克之

JBpress

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