血生臭い世界を劇的に変えたウェストファリア体制

12月5日(木)6時0分 JBpress

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「ルール」が通じない国々に囲まれた日本は、自分たちの身を守るためにどうしたらいいのか。「ウェストファリア体制」は、日本人が野蛮な世界で生き残るのに必要な武器だと言ってよい。世界を劇的に変えたウェストファリア体制誕生の背景と意義を、憲政史研究家の倉山満氏が解説する。(JBpress)

(※)本稿は『ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法』(倉山満著、PHP新書)より一部抜粋・再編集したものです。


「文明国の通義」

 甚(はなは)だしい勘違いが蔓延しています。「古い時代よりも新しい時代の方が文明的である」との思い込みです。

 少し歴史を調べれば、文明が退化した事例など、山のようにあります。その最たる例が、中世です。そもそも、古代・中世・近代の三区分は、西洋人が自分たちの歴史を説明するために考えた、便宜的な物差しです。

 文明的なギリシャ・ローマが古代。キリスト教の公認と国教化によってローマ帝国の文明が廃れた暗黒の世紀(Dark Age)が中世。ルネサンス(再生)によって文明が回復してからが近代、です。

 この一事を以てしても、歴史が常に発展するわけではない、という厳然たる事実は一目瞭然だと思います。

 この意味での中世など、日本には存在しません。同時に、ルネサンスも必要ありません。むしろ、旧ローマ帝国の版図だった国以外の歴史には、古代だの中世だのは何の関係もない区分でしょう。

 しかし、近代は違います。現代、地球上のすべての国はつながっています。世界は一つなのです。「自分は、グローバル化は嫌いだ」と言っても、今さら鎖国など不可能です。

 少なくとも、我々日本人は、外国との関わりなくして生きていくことはできません。

 こうした現代の秩序、「近代」を世界中に押し付けてきたのが、ヨーロッパ人です。現代世界の三大国は、アメリカ・中国・ロシアですが、この三カ国ですら、かつてヨーロッパ人が作ったルールの上でプレーヤーを演じているにすぎないのです。

 本書『ウエストファリア体制』では、このルールの成り立ちと変容、なぜそのようなルールが必要とされ、どのように世界に広がり、そして今に影響を与えているかを解説しています。

 そのルールは「ウェストファリア体制」と呼ばれます。別名は「文明国の通義」、「マトモな国ならば守るに決まっている掟(ルール)」のことです。

 最初に結論を言います。千年を超える暗黒の中世を克服したヨーロッパ人は、後に「ウェストファリア体制」と呼ばれる掟を確立します。

 そして、これを全世界に押し付けました。ヨーロッパ人の力が衰えるとともに、非ヨーロッパの国である、アメリカ・ソ連(ロシア)・中国が台頭し、掟そのものが変容します。大きく歪められているけれども、掟そのものは残存しています。


「世の中の掟(ルール)」

 では、なぜ日本人が「ウェストファリア体制」を学ばなければならないか。理由は、二つあります。

 一つは、「ウェストファリア体制」とは日本人が野蛮な世界で生き残るのに必要な武器だからです。

 東アジアを眺めると、丸腰の日本は核武装した周辺諸国に囲まれています。習近平の中国、ウラジーミル・プーチンのロシア、金正恩(キムジョンウン)の北朝鮮。さらに、核を持っていない文在寅(ムンジェイン)の韓国まで、事あるごとに日本に嫌がらせをしてきます。

 日本はただただ、ドナルド・トランプのアメリカにすがり、周辺諸国のご機嫌を取って生き延びているだけです。

 世の中の掟(ルール)を知っていること自体が、武器です。

 それは国際社会においても同じで、知力は武力や財力と同じように、武器なのです。如何なる超大国も守らねばならない掟である「ウェストファリア体制」こそ、日本人が自分たちの身を守るだけでなく、全人類に光を与える武器なのです。

 この武器を使いこなしたとき、日本は全人類の指導者として世界中から尊敬される国になるでしょう。


「ウェストファリア体制」の中核

 では、なぜ「ウェストファリア体制」が、日本を世界の指導者に押し上げる武器になるのか。これが、我々が「ウェストファリア体制」を学ばねばならない第二の理由です。

「ウェストファリア体制」は、日本語です。なぜ日本語なのかは、本書『ウエストファリア体制』で縷々(るる)説明していきます。

 ヨーロッパの現地読みでは、ヴェストファーレンの地で生まれた掟(ルール)は、日本人の手によって全人類が守るべき文明の法となりました。この歴史を日本人が知らないことこそ、罪なのです。

 私は、ある意味で自虐史観の持ち主です。世間で言われる自虐史観とは、「昔の日本は外国に対し侵略や虐殺など悪いことばかりし続けた国だ」との歴史観のことです。この意味での自虐史観は誤りです。

 私はまったく違う意味での自虐史観を抱いています。すなわち、「大日本帝国が滅んでしまったために、世界が野蛮に逆行した。日本人はこの罪を自覚し、反省し、そして文明に戻すために行動しなければならない」との意味での自虐史観です。

 東アジアの野蛮な国に取り囲まれながら、日本人は無自覚が過ぎます。人類が世界大戦を経て、どれほど文明を失い、ヨーロッパ中世のような野蛮な世界に逆戻りしたかの歴史に。そして日本も含めた多くの国が巻き込まれ、大迷惑している現実に。

 元来、日本人は文明的な民族です。私は「文明的」を「ノンキ」と言い換えます。論より証拠を挙げます。

 まず、3つのことを知ってください。

一 心の中では何を考えてもよい
二 人を殺してはならない
三 お互いの存在を認めあおう

 日本人ならば、何を当たり前のことを言っているのだと思うでしょう。しかし、このような価値観が人類の多数派になるのは、たかだか数百年の話なのです。

 そうした歴史の事実に無知で無自覚だから、日本人はノンキなのです。もっとも、日本人はノンキでいられた幸せな民族ということなのですが。

 この三要素こそ、人類に“文明”をもたらした「ウェストファリア体制」の中核です。この価値観を持つ国家が「ウェストファリア国家」です。


“無”から“有”を生み出した天才グロティウス

 そもそも、「ウェストファリア体制」とは何なのか。

 世界史教科書の説明では「ローマ教皇と神聖ローマ皇帝からの主権国家の独立であり、それら主権国家の並立である」、つまり「主権国家体制」であると記述します。

 でも、これでは何のことやらわかりません。

 これに、「最後の宗教戦争である三十年戦争の時に、ウェストファリア公国(主に現ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の一部)の二つの都市、ミュンスターとオスナブリュックで講和会議が開かれた。

 それぞれの地で結ばれた、ミュンスター講和条約とオスナブリュック講和条約という、1648年に締結された2つの条約を合わせたものがウェストファリア条約である。条約締結後の世界の秩序がウェストファリア体制と呼ばれる」との退屈な説明が付け加えられたりもします。

 日本の法学部や文学部の史学科あたりでは、こんな無味乾燥な、退屈きわまりない教え方しかしていませんが、これで何のことかわかれば超能力者でしょう。

 しかし、説明が退屈だからといって、遠い世界の話ではありません。現に今、我々はウェストファリア体制の世界に生きているのです。

 たとえば、「主権国家の並立体制」です。

 現代社会は俗に“テロとの戦いである”といわれ、テロリストという“国”以外の人たちが頻繁に登場します。それでも、国際連合という場(シアター)に、主権国家というアクターが集まっているのが基本です。国際社会の主体は、あくまで主権国家なのです。

 そして、主権国家であるならば、どんな大国もどんな小国も対等であると考えるのが主権国家の並立体制であり、ウェストファリア体制なのです。

 このウェストファリア体制というのは、たった一人の、人類史に残る天才が考え出しました。フーゴー・グロティウスという人物です。「国際法の父」とも呼ばれます。“無”から“有”を生み出した、真の天才です。

 グロティウスは、当時、オランダ(ネーデルラント)という国すらなく、しかも、「主権」とか「国」が存在しない時代に、「国際社会」を考え出しました。

 国家がないときに、国家間の関係、すなわち、国際社会を考えたのです。主権国家にも色々な問題がありますが、主権や国家が存在しない時代の世界は、はるかに悲惨でした。そして世界は今もなお、その天才グロティウスの恩恵に与(あずか)っているのです。

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筆者:倉山 満

JBpress

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