「動く点P」はなぜ動くのか…「数学を勉強しても意味がない」と絶望する受験生に、東大生が伝えていること
2024年12月6日(金)16時15分 プレジデント社
※本稿は、西岡壱誠『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』(笠間書院)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332
■数学は「大人になってから絶対必要になる」
「数学なんて、勉強しても意味なくない?」
この質問は、いろんな場所でよく聞く問いです。おそらく数学が苦手な多くの人が子供の時に一度は思ったことがあるのではないでしょうか? 英語であれば「外国人と話すため」だと納得できますし、国語であれば「文章を読めるようになるため」と考えることができます。しかし、数学はパッとやる意味が思い浮かびませんね。
算数であれば、「計算ができるようになる必要があるから」と言えるかもしれませんが、数学は難しいですよね。「なんでXとかYとか勉強しなきゃならないの?」「微分積分の問題とか、大人になってから解かないんでしょ?」と言われることも多いのではないでしょうか。
でも実は、数学の勉強って、大人になってから絶対に必要になってくるんですよね。特に東大生の親御さんは、数学の勉強について、「社会で活躍するための技能」としてお子さんに紹介している場合が多いです。
我々もよく、学生から「なんで数学の勉強やんなきゃいけないの?」という質問をされます。
それに対してしっかりと「こういう役に立つ」ということを提示できると、「それだったらやってみようかな」と納得してもらえて、成績が上がることもあります。
“納得しているかどうかなんて成績の向上に違いを生む要素ではない”と考えてしまう人も多いかもしれませんが、そんなことはありません。
本人の納得感は学習意欲や理解度に大きな差を生みます。「数学を勉強する意義」に納得できるかどうかが、数学が得意になれるかどうかという違いを生んでいるのです。今回の記事では、子供たちに伝えたい数学の意義についてお話ししたいと思います。
■「お得にタクシーに乗る方法」を考えてもらう
まず、よく聞くのが「点Pがなぜ移動するのか」という話です。「点Pがこう移動するとしたら、60秒後にはどこにいることになるか答えよ」みたいな問題が数学では頻出ですが、なんでこんな問題と解かなければならないんだ、と考えてしまうという人も多いかもしれません。
「移動する点P」に疑問を抱く生徒に対して、筆者はこんな問題を出して考えてもらっています。
友達と遊びに行くとしよう。タクシーを使って移動をするとき、大型タクシーなら2台、小型タクシーなら3台呼ばないといけないという状況。
●大型タクシー
1台につき【最初の1kmまでが1000円】
その後【320mごとに200円が加算される】
●小型タクシー
1台につき【最初の1kmまでが700円】
その後【480mごとに20円が加算される】
この場合、“小型を使うほうが安い”距離は何メートルか?
実はこれは、移動距離と速度に関する東大の問題をベースにした“問い”です。さすが東大の問題だけあって難しくはあるのですが、「点Pがどう移動するのか」という問題を学んだ延長の知識で、中高生でも図解などを通じて考えることができます。回答例は以下です。
▽1000mから1320mであれば
大型2台だと2400円、小型3台だと2700円で、「大型の方が安く」なる
▽1320mから1480mであれば
大型2台だと2800円、小型3台だと2700円で、「小型の方が安く」なる
ですから、答えのひとつは1320mから1480mです(答えは複数あります)。
■「こんな風に役立つ」と提示することが大事
実際に日常生活でありそうなシチュエーションですよね。もしどっちでもいいでしょ、と当初から考えてしまっては、損してしまうかもしれません。
この問題と解説をもとに「移動する点Pをちゃんと学んでおけば、得するんだよ」ということを伝えると、「へえ、こんな風に今までの数学の勉強は実社会で役に立つのか」と納得感を得られることが多いです。解けたかどうかにかかわらず、物事を数学的な思考で考えてもらうことに繋がります。それが狙いです。
このように、一見するとあまり役に立つタイミングがないように見える問題でも、数学が役に立つケースはたくさんあります。
例えば、グラフを使った問題ってありますよね。例えば中学生に上がると、「X軸」「Y軸」を使った問題を解くようになります。
「点PのX座標は3でY座標は4だから、P(3,4)とおく」とか、そんな感じの問題が出てきますが、これに対して、「なんでxとかyとか勉強しなければならないんだ? こんなの大人になってから使わないじゃないか」と考える中学生は多いと思いますが、実はそんなことはありません。実際に大人になってから使う場面が多いのです。
■「夏休みの宿題」をグラフに落とし込んでみる
例えば、こんな問いを考えてみましょう。
「夏休みの宿題をなんとかしたいけれど、どれから手を付ければいいかわからないとします。この場合、どうやって優先順位をつければいいでしょうか? それぞれの宿題は、以下の通りです」
・英語の問題集 8月20日まで 結構残っていて大変
・読書感想文 8月20日まで まだ本を読んでいない
・数学の宿題 8月25日まで もう少しで終わりそう
・国語の宿題 9月3日まで もう少しで終わりそう
・日記 9月1日まで 貯めてしまっているので時間がかかりそう
・自由研究 9月1日まで とりあえず題材は決まった
一見するとややこしそうに見えますが、こんな時、X軸とY軸を導入すると、次のようなグラフ(図表1)で表すことができます。
『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』より
これは、
X軸「すぐに終わるか時間がかかるか」
Y軸「締め切りが近いか遠いか」
でグラフを作り、それぞれのステータスをプロットしたものです。
■物事を整理し、優先順位をつけられるようになる
さて、この座標に関して、中学生ではX軸とY軸で構成される座標平面の中には「象限」という考え方があるということを習います。(図表2)
『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』より
この図のように、右上、左上、左下、右下の4つの場所を分けるものです。XもYも正の数なら第一象限・XもYも負の数なら第3象限、というようなものですね。先ほどの図で言うなら、読書感想文は第1象限、日記は第4象限になります。
今回の場合、「締め切りが早い」×「時間がかかる」の場所、つまり第1象限にあるものの優先順位が一番高いと考えることができます。今回の場合、そこに位置するのは読書感想文ですよね。そう考えると、読書感想文から実践するべきなのではないかと考えることができます。
このように、「X軸」「Y軸」に落とし込むと言うのは、物事を整理したり、優先順位を付けたりする時に有効な考え方であり、仕事をする上で非常に役に立つものだと言われています。
例えばコンサルティング系の会社では、「X軸とY軸でマトリクスを作って、物事を4つに分けて整理していく」というような思考法は非常によく登場しますし、「もはや使えないと話にならない」なんて言われるくらいのものです。
■「高倍率」「高年収」ほど数学的素養が求められる
ちなみに、コンサルティング系の会社ではよく、就職面接の中で数学の質問をすることが多いと言われています。
「サイコロを2つ振って、その目の合計の値を調べる。この時、出る目の値として一番出やすいにはどれ?」というような質問をして、パッと「6通りある7」と答えられるかどうかを見て、「あ、彼女はこの会社で働ける人材だな」「彼は難しいかもしれないな」というように判断を下すのだそうです。
コンサルティング系の会社以外にも、外資系・金融系の会社では、数学的な質問が就職面接でよく出題されることが知られています。倍率が高く、年収も高い企業では、人材の質を見るために数学の質問をするのです。
なぜ、数学の質問をするのか。それは、先ほどのマトリクスの考え方もそうですが、数学的な素養が身についている人の方が、論理的に物事を考え、適切に優先順位を付ける能力があると考えられているからです。
社会に出て年収の高い会社に就職することができるかどうかは、数学的素養があるかないかによって変わってきてしまうかもしれないわけです。
■“未来を予想する力”も身につく
また、数学的素養がある人の方が、未来を予想する能力が高くなるとも言われています。
例えばみなさんがお店を運営しているとしましょう。1つの商品がどれくらい売れるのか考えて、在庫を買わなければなりません。在庫は、たくさん持ってしまうと倉庫を圧迫してしまいますし、かといってあまり在庫を持たないと売り切れになってしまうかもしれません。「その商品がどれくらい売れそうなのか」は事前に考えなければならないわけです。
この時に重要なのが、高校生で習う「微分」の考え方です。微分とは、「細かく(「微」に)分けて考える」ということで、ざっくり説明してしまうなら一定の瞬間の変化を求めることで変化率を導く方法です。
例えば、1カ月で人気商品がどれくらい売れるのかを考えるとしましょう。このとき、1カ月間、毎日ずっと確認していれば「1カ月で何個売れるのか」の答えを出すことができますが、そんなことをしなくても、「1日で何個売れるのか」を調べれば、1カ月でどれくらい売れそうかは導くことができます。
仮に1日で10個売れるのであれば、30日で300個売れるのではないかと考えられますよね。
■“数学”を使えたほうが活躍の幅が広がる
我々の生活では、この微分の考え方が至る所で使われています。自動車に乗ると時速が表示されますよね。1時間走っているわけでもないのに、「1時間でどれくらい進むのか」が表示されています。あれは、自動車のタイヤの車軸に回転数を測るセンサーがついており、その回転数をコンピューターが速度に変換する計算が行われているからです。
このように、微分の発想で物事を考えることはいろんな場所で応用されており、社会で当たり前に使うものなのです。
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
もちろん社会に出て、「この微分の問題を解け」という問題を直接聞かれることはないですが、「これって、微分を使ったら答えが導けるのではないか」と考えることはできるわけです。そうできる人とそうできない人で、はっきりと差がついてしまうものなのです。
いかがでしょうか? 社会に出てから、数学を使わないで生きていくことももちろんできるのでしょう。でも、数学を活用して、論理的な思考を使って生きている人の方が、社会で圧倒的に活躍することができるというわけです。この話を知っていると、数学の勉強への意欲や納得感が変わり、成績にも良い影響がどんどんあらわれていきます。
■“日常”を例に出すと納得感を得られる
筆者は「なんで数学なんて勉強しなければならないの?」と聞かれたら、「社会に出てから活躍できる大人になるためには、絶対できた方がいい」という方向性ですべて答えるようにしています。
西岡壱誠『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』(笠間書院)
「もし友達と遊びに行くときにタクシーを予約するなら……」「もしお店を経営して在庫を管理するなら……」などと、実生活に近い具体例を挙げて、本人にロールプレイングゲームのような形で考えてもらうと納得感が得られると思います。
数学力は大人になってからの仕事の質に直結し、もっと言うと将来の賃金などにも関わってくるかもしれません。
「使えなくても生きては行けるかもしれない。けれど、使える人とそうでない人では圧倒的な差が出てしまう」という姿勢で、ぜひ伝えていただくのがいいかと思います。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)