「生産能力2割減、9000人の人員削減」日産は復活できるのか…"ルノーとの縁切り"に注力しすぎた経営陣の失敗

2024年12月6日(金)10時15分 プレジデント社

日産自動車日産NISSANの看板、ロゴ。=2024年9月30日 - 写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ

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■競争が激化する中で、世界戦略が描けずにいる


日産自動車が苦境に陥っている。ここ半年の業績が大幅に悪化、対応策として世界で生産能力を20%削減し、9000人の人員削減を行うと発表した。強力なリーダーシップで日産を牽引してきたカルロス・ゴーン元CEO(最高経営責任者)が突然退場して6年。懸案だった仏ルノーからの「自立」は実現したものの、競争が激化する中での世界戦略が描けずにいる。さらには、米国でドナルド・トランプ氏の大統領復帰が決まり、主力工場であるメキシコからの米国への輸出にも暗雲が漂う。果たして日産は復活を遂げることができるのか。


写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
日産自動車日産NISSANの看板、ロゴ。=2024年9月30日 - 写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ

11月に発表した2024年4〜9月の半期決算には衝撃が走った。連結売上高は5兆9842億円と前年同期比1.3%の減少にとどまったが、本業の儲けである営業利益は329億円と前年同期の10分の1に減少、純利益は192億円と何と93.5%も落ち込んだのだ。表面的には何とか黒字を維持した格好だが、自動車事業の営業損益は1430億円の赤字になった。本業から上がってくる現金である「営業キャッシュフロー」も昨年上期の3727億円の黒字から一気に悪化、2340億円の赤字になった。


■米国で盛り上がるHV人気


背景には深刻な販売不振があるとみられる。小売りベースの販売台数は159万5884台と1.6%の減少に留まっている。他の自動車メーカーとの競争で比べられる台数はこれで、日本や北米の落ち込みを欧州やその他地域での販売で補ったとしている。ちなみに日本国内は2.4%減少、米国は2.7%減少、アジアは6.7%減少だ。


だが、日産グループ間や業者向け販売などを示す連結売上高ベースの販売台数は126万5242台と5.2%減少、日本国内は9.9%減、米国は5.2%減、アジアは18.4%減となっている。


決算書では、米国市場での「市場占有率は前年同水準の5.7%」とされているが、販売台数を維持するために、ディーラーなどに支給する販売奨励金(インセンティブ)などを積み増したとみられ、これが大幅な利益の悪化に結びついていると見られる。


ここへきて米国では、電気自動車(EV)の人気が一服し、ハイブリッド車(HV)人気が盛り上がっている。日産はHVのラインナップを持っていないことから、積極的にHVのラインナップを揃えた他社の後塵を拝する結果になっている。米国市場でのHVのけん引役であるトヨタは、米国で販売するガソリン車のほぼ全車種のHV版をそろえている。


■「買いたくても欲しい車がない」日産ファンの声


日産はゴーン時代にEVに特化する戦略を採り、HVの開発には力を入れてこなかった。本格的なEV時代が到来し、HVは環境規制から普及しないという読みだったが、日産の主力市場のひとつである米国で、予想外にHV人気が盛り上がっている。車体価格がEVに比べて安いことや、ガソリン代など運用コストが低いことがHV人気に拍車をかけている。トランプ大統領になって環境規制が強化されないとの見方も、HV人気を後押ししている。


中国は国家戦略としてEVへのシフトを一気に進めているが、中国メーカーがEV生産を拡大しており、日産が中国市場で中国メーカーに勝つ構図は見えてこない。


日産の販売は日本国内でも苦戦している。「買いたくても欲しい車がない」という声が日産ファンからも出るほど、ヒットした車がほとんどない。新型コロナウイルスの蔓延が終息した2022年以降、半導体不足から自動車の供給が滞り、購入を待つ予約が膨らんだため、日産も2023年3月期、2024年3月期は売上高、利益とも、大幅に改善した。ここへきて各社の供給体制が整ってきたこともあり、「車種の強み」が販売に響くようになってきた。


写真=iStock.com/michelmond
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/michelmond

■トランプ大統領の就任でメキシコ工場からの輸出に影響


こうした販売の落ち込みに対して、日産は世界生産の20%削減を打ち出した。2024年4〜9月の半年ではすでに生産調整を開始、米国での生産台数は15.5%減少、日本の生産も13.4%減った。景気が悪化している欧州でも、英国での生産が7.5%減っている。今後、どのマーケットの生産を削減していくことになるのか、大いに注目される。


というのも、上半期の生産台数で最も多かったメキシコの行方が注目されるからだ。上半期は日本と米国が生産を大きく減らして、日本30万7000台、米国25万4000台となったが、メキシコは12.8%増えて33万5000台を生産している。その多くが米国市場に輸出されている。


米国は景気の好調が持続しているものの、自動車市場には大きな変化が予想される。トランプ大統領の就任で、メキシコからの輸入に高率の関税を課すことが予想されていて、日産のメキシコ工場からの輸出も大きな影響を受ける可能性が高い。米国工場に生産が移れば移ったで、コストが上昇するのは目に見えていて、しかも米国市場での人気車種がないとなれば、さらに収益が悪化する懸念があるからだ。


■強烈なトップに盲従するムード


報道では日産は米国での生産台数を17%減らすことを検討しているようで、9000人の人員削減のかなりの割合が米国になるのではないかと見られている。背景には米国内で賃金が大幅に上昇していて、採算が取れない事態に直面しているのではないかと考えられている。


こうした日産の対応は、対処療法で戦略性に欠けるように見える。カルロス・ゴーン元CEOが実質20年近くにわたって日産に君臨した結果、強烈なトップに盲従するムードが培われた。世に長期にわたって全権を握るトップは少なくないが、その人物が死亡したり失脚した後、企業がガタガタになるケースが少なくない。良いか悪いかは別としてゴーンのリーダーシップに依存してきた日産の舵取りがうまくいっていない。


もともと日産は内部抗争の激しい会社で、ゴーンが突然、逮捕されて会社を去った後も、すんなり後継体制が決まらなかった。社長だった西川廣人氏をゴーン体制を支えた人物として放逐し、共同指導体制になるかとみられたものの、ひとりが辞任するなど、すったもんだが続いた。現在の内田誠氏が就任して5年経つが、株価はこの5年でほぼ半分になっている。COO(最高執行責任者)だったアシュワニ・グプタ氏も2023年6月にCOOを辞任して退社した。仏ルノーでの幹部経験もあり、ルノーと日産のアライアンス(連携)を担うひとりだったグプタ氏と内田氏のソリが合わなかったのか。背景には、日産が長年望んでいたルノーとの「対等な関係」への回帰がある。


写真=iStock.com/jax10289
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jax10289

■経営陣が力を入れてきた「ルノーからの自立」


1999年、倒産の危機に瀕した日産は、ルノーから6430億円の出資を受けた。日産の株式の43.4%を握ったルノーは、実質的な親会社となり、送り込まれたゴーンが全権を握ることになった。当初は対等な関係のアライアンスと言っていたが、ゴーンがルノーのトップになると、日産に対して統合を求めるようになった。2019年にはルノーから日産に経営統合が提案されている。ルノーの大株主であるフランス政府の意向が働いているのは明らかだった。


ゴーンが去った後、日産の経営陣はルノーからの自立が最大の課題になった。2023年には、ルノーの保有株を15%にまで引き下げ、日産保有のルノー株の比率と合わせることで、「対等」な資本関係にすることに合意した。差の28.4%分の株式はフランスの信託会社に預ける形でルノーから切り離されたが、結局、その株式は日産が少しずつ買い戻すことになった。2023年12月に4.99%分を1200億円、24年3月に2.5%分を594億円、24年9月には5.03%分を798億円で取得した。さらにまだ信託会社には18.7%分が残る。まだまだ資金が必要になるわけだが、自動車販売の不調でキャッシュフローが厳しい中で株式を買い戻す資金を確保するのは並大抵ではない。


■業界再編に発展する可能性も捨てきれない


結局、内田日産の5年間の仕事は、ルノーとの縁切りに注力したため、世界の自動車市場の中でどう戦っていくのかといった戦略策定が後手後手に回った感が否めない。


日産の業績悪化を受けて、今年3月に業務提携したホンダと「資本提携に発展する」といった見方や、「ホンダが日産を買収」といった説、そこに三菱商事が絡むといった読み筋を唱える向きもある。一見、荒唐無稽に聞こえるが、トランプ大統領の登場で日産が窮地に立たされれば、そうした業界再編に発展する可能性もありそうだ。


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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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