なぜトヨタは先端技術を持ちながら純EVを量産しないのか

12月6日(水)7時0分 NEWSポストセブン

ハイブリッドカー「プリウス」に代表されるトヨタの電動車両

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「21世紀に間に合いました」というキャッチフレーズとともに世界初の量産ハイブリッドカー「プリウス」が登場したのは1997年12月のことだった。


 それから間もなく20年が経とうとしている今、世の中はバッテリー式EVの話題で持ちきり。その中で、世界有数の自動車大国である日本はEV化で出遅れたとしばしば評されている。なかでもプリウスを生み出したトヨタは「ハイブリッドにこだわりすぎてEVを軽く見ていたのではないか」と、批判を浴びせられている。


 そんなネガティブイメージを払拭したかったからなのか、トヨタは11月下旬、ジャーナリストやアナリストなどを集め、電動化技術説明会なるイベントを行った。


 説明会が行われたトヨタのショウケース、お台場の「メガウェブ」の一角には、トヨタの代表的な電動車両が並べられた。ハイブリッドカーのプリウス、充電可能なプラグインハイブリッドカーの「プリウスPHV」、水素で電気を起こしながら走る燃料電池EVの「MIRAI(ミライ)」、そして2012年に少量をリリースしたバッテリーEVの「eQ」の4台である。


 その中で、電動化技術に携わるエンジニアたちが、トヨタの電動化戦略の骨子、およびEVづくりの3大要素技術、すなわちバッテリー、モーター、パワー制御の各分野について、トヨタの技術開発の先進性について力説した。


 だが、中身については目新しいものはなし。主軸はハイブリッド技術で、プリウスのシステムが第1世代から現行モデルである第4世代までのあいだにどれだけ性能と生産性が上がったかということを、部品を展示することで示しただけであった。


 電動化に関するトヨタの将来技術で最近話題になったのは俗に全固体電池などと呼ばれる固体電解質リチウム電池だ。


 これは現在のリチウムイオン電池に置き換わる次の一手と期待されているもののひとつ。性能がよく、耐久性に優れるものを作れる可能性があることから世界の電池メーカーが開発に注力している。トヨタは自動車に適したスペックに落とし込んだ固体電解質リチウム電池を開発中と報じられた。


 会見では当然、この電池に関する質問も飛んだ。展示やプレゼンで次世代電池に関する具体的な言及がなかったからだ。トヨタのエンジニアはまだまだ課題が多々残っているとしながらも、2020年代前半には何とかなるのではないかという実感を持っていると語った。説明会のなかで語られた将来の技術的なビジョンはこのくらいだった。


 このように、中身としてははなはだ薄いものであった電動化技術説明会。今の時期にトヨタがこれを開催したのは、もっぱら電動化技術で後れを取っているわけではないということをアピールするためで、それ以上の意味合いは薄い。


 だが、見るべきものがまったくなかったかといえば、そんなことはない。展示されていたトヨタの市販車のEV部品は、押しも押されもしない世界最先端のものだった。


 特に印象的だったのは駆動用モーターと出力制御のためのパワーコンディショナーで、初代とは比べ物にならないほどの小型軽量化がなされていた。第1世代プリウスから20年の間に着々と進化を遂げてきたトヨタの技術的なアドバンテージは依然として大きいと思わせるに十分だった。


 筆者は今年の春に、充電可能な大型電池を積み、数十kmならEVとしても運用可能なプラグインハイブリッドカー、プリウスPHVで650kmほどドライブしてみた。そのドライブの中でとりわけ驚かされたのは、EVとしてのエネルギー効率の高さだった。


 神奈川の相模原で容量の80%まで急速充電を行い、ところどころ混雑した国道246号線を通って東京の靖国神社近くまで、47.9kmにわたってEV走行オンリーでのドライブにトライした。


 エアコンONで交通の流れにしっかり乗って走るという、省エネ走法とはほど遠い普通の乗り方であったが、果たしてプリウスPHVは一度もエンジンを使うことなく、電気だけでその区間を走り抜いた。


 市街地および郊外路の平均電力消費率は1kWh(100ボルトで1000Wのドライヤーを1時間使うのに相当する電力量)あたり約10km。この数値はEVドライブとしてはきわめて良い値だ。


 このところフォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーなどのドイツ勢がプラグインハイブリッドで押してきているが、同じような重量のモデルで同じように走った場合、電力消費率では3割以上プリウスPHVにビハインドを取っている。ドイツ勢はじめライバルもこれから電動化技術のレベルをどんどん上げてくるであろうが、現状ではトヨタはドイツ勢に影も踏ませていないと言える。


 しかも、プリウスはライバルと異なり、パワーが必要な時には発電機とモーターを結合して大出力を得る機構を使っている。この方式は、駆動時にパワー半導体を2個使うため、熱損失は大きくなるのだ。今、モーター1個のEVを作り比べれば、その差はさらに広がる可能性が高い。


 ことほどさようにEVの技術を豊富に蓄積してきたトヨタが、なぜ純EVを本格的に量産しなかったのか。トヨタ関係者いわく「現状ではお客様が買いたくなるような性能のものを買いたくなるような価格で作れる技術水準に遠く及んでいないから」であるという。


 これは、商売としてはある意味、当たり前の考えだ。今日、EVが大いに持てはやされ、すぐにでもEVの時代が来るというイメージが醸成されているが、世界の自動車販売に占める割合はごく低い。


 売れない理由は明白。バッテリーの性能や耐久性が低いことがネックとなって航続距離が短く、充電時間が長いこと、そして何より高価なことだ。


 現在、航続距離が400km、500kmといったロングレンジをうたうEVも出てきているが、あくまで新品のスペックでバッテリー容量をフルに使っての台上計測での話。実際にある程度の長距離走行を連続でこなせるのは、テスラの大容量電池パック搭載車など、ごく一部のプレミアムセグメントモデルにとどまる。それでいて価格はきわめて高いのだ。


 充電網も今後、足かせになる可能性がある。今日、日本では日産自動車がディーラーに積極的に急速充電器を置き、それらを安い月額料金で使い放題にするといった策を打っているためあまり意識されないが、急速充電器の収益は現状では最悪だ。


 経済産業省のリサーチによれば、急速充電器1基あたり数十万円/月の赤字になっているという。これをサスティナブルなものにするためには「EVの台数を大幅に増やして稼働率を上げ、利用料金を30分あたり1000円にすれば収支が均衡するかも」といった有様なのだ。


 EVへの普及策やエンジン車の規制を打ちだす国が世界で増えているが、ドイツの部品世界大手関係者も「社会全体が文化、ライフスタイルのチェンジを迫られること、インフラ整備、コストなどの現実を見据えた議論はほとんどなく、空想に酔っているところがある」と危惧するほどなのだ。


 その実情を見るに、今EVビジネスに積極的にならなくても、電動化技術やEV作りのためのサプライチェーンをがっちり構築していれば慌てる必要はないというトヨタの判断は妥当と言える。


 が、EV化は世間が考えているようには急激に進まずとも、EV販売をビジネスの条件として突きつける中国やカリフォルニア、CO2規制で事実上電動化へのシフトを強制する欧州のような国や地域が増えるにつれ、後退することはないだろう。


 そのなかで、技術の方向性や規制の妥当性などについての発言力を持つという観点では、トヨタはEVに対してあまりにも消極的すぎた。


 たとえばCO2排出量のカウント。大パワーの高級車やスポーツカーであってもプラグインハイブリッド化すれば、実際にはCO2がダダ漏れ状態であっても環境規制には通る。そんな規制は間違っていると世界に対して主張し、相手を納得させるには、自分自身がEVのメジャープレーヤーであることが絶対だ。


 しかるに、トヨタはハイブリッド技術可愛さのあまり、純EVをないがしろにしすぎた。数年前、トヨタのEV開発陣が「少なくともウチではEVについては当分いい話はないと思います」と落ち込んだ表情を見せていたことからも、内情は推して知るべしである。


 本来、高い電動化技術の実力を持ちながら、技術レベルで劣る相手から急に包囲網を敷かれ、正直、浮き足立ちもみられるトヨタ。もちろん中国でEVを一定割合で販売するよう義務付けられたのに伴い、それに対応するクルマを開発するといった策はすでに打っている。


 が、それだけでは足りない。ハイブリッドカー作りで得られた知見を生かし、トヨタが満足できるような性能には満たなくとも、EVとして画期的と言われるようなクルマを、固体電解質リチウム電池など次世代技術の完成を待たず積極的に出せるかどうか。


 今、トヨタが意識すべきはありきたりの正論を言い続けることではなく、われわれの技術をもってすればこのくらいのことができるということを市販車の形で見せつけ、やっぱりトヨタが最大のキープレーヤーだったというイメージを回復させることだろう。


●文/井元康一郎(自動車ジャーナリスト)

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