トランプ大統領が利用する「コミュニケーション革命」の正体

12月8日(金)8時0分 Forbes JAPAN

衝撃大統領選後、就任1年が経過したドナルド・トランプ氏の支持率は、歴代大統領の中でも最低水準の33〜34%ほどに低迷しています。彼に大統領の資質があったのか、あるいは彼の政策が適切か否か。このコラムで議論したいポイントはそこではありません。

選挙戦の前から世界中のマスメディアに批判と非難の集中砲火を浴びていた彼は、なぜアメリカ大統領に選ばれたのでしょうか。そしてなぜ今なお、圧倒的な世論の逆風の中でも権力の座に居続けられるのでしょうか。

その答えは、コミュニケーション革命にあります。

人類が最初に手にした情報のアウトプットツールは「文字」です。かつてエジプトでは、文字の読み書きを学び「書記」の仕事に就くことは、絶大な権力を手中にすることと同じ意味でした。もともと難解だったヒエログリフ(神聖文字)およびその文法は、時代の経過とともに、一般の民衆には読み書きができないよう故意に複雑化が進められたといいます。だから古代文字の解読は困難なのです。

つまり「文字」はもともと「暗号」であり、「文字」が表す「情報」とは権力そのものだったのだということがわかります。政治家は情報を独占して、都合の良い事実だけを歪曲して開示することで、大衆を思うがままにコントロールしてきたのです。

その構造は、現代に至るまで大きく変わることなく受け継がれてきました。時の権力者がメディアに介入して情報統制してきた事例は、世界中のあらゆる国と時代に見つけることができます。

たとえば日本の江戸時代においても、幕府の祖である徳川家康を神格化したり、朱子学の思想を反映させた大衆文学を流通させることによって、主君や年長者に従う美徳を奨励し、政権の安定を図っている様子が見てとれます。新聞やラジオ、テレビの時代でも、大筋の流れは変わりません。

情報の伝達が、限られた「1」から大多数の「n」に対して一方的に伝えられてきた「1対n」の時代では、一部のエリート層(政治家とそれを取り巻く権益者層)が、大多数の大衆を適宜コントロールする構造が当たり前に機能しました。権力は、情報の隣にあったのです。

しかし、こうした権力構造は近年の急激なICTの発展によって大きく覆されつつあります。ツイッターやユーチューブに代表される「民間メディア」が、無数の個人が誰の許可を得ることなく情報発信できる自由を創造したのです。無数の「n」が、無数の「n」に情報を伝達する時代。かつての権力者が、個人のスマートフォンと、サイバー空間を行き交う無限の情報をすべて管理することは不可能となりました。

さぁ、現代に話を戻しましょう。

おもしろいのは、トランプが大統領選挙のために集めた資金は130万ドル(約43億8000万円)と非常に少額だったこと。これはヒラリーの4200万ドルに対してわずか32分の1に過ぎません。

ただしメディアに露出した時間で言えばどうでしょうか。トランプは自分のお金をほとんど使うことなく、まわりが勝手にタダで宣伝してくれたおかげで勝利しました。ちょっと過激なことを言っただけで、世界一の広告会社であるフェイスブックや世界一の映画会社であるユーチューブなどが、情報拡散を全力でサポートしてくれたのです(正確には、そのユーザーが、ですが)。

トランプが大統領にふさわしいか否か。それはわかりません。しかし、結果としては、「n対n」の時代に即した戦い方をして、勝利を収めたことは事実です。仮に10年前、今ほどICTが発達していなかった時代にトランプとヒラリーが対決していたとしたら……。結果はまったく違ったものになっていたことでしょう。

従来の世界では、産業は政治にドライブされて発展するものでした。ところが、この先の世界ではその役割は反転されると認識されるべきでしょう。すなわち、「産業が政治をドライブする」時代が来た、その転換点の象徴が、1年前のアメリカ大統領選挙だったのです。

トランプの支持率が低迷する現在、世界中の大手メディアはこぞって政策の不手際を分析する記事や放送を配信しています。中には的を射た指摘もあるでしょう。しかし、情報の受け取り手として注意したいのは、大統領選の開票が始まるまで、大手メディアの大多数は「ヒラリー有利」の報道姿勢に偏っていたことです。

トランプの過激さや政治に不慣れな側面ばかりを過大に強調して、レッテルを貼ろうとしてはいないか。既得権益が変化のタネを潰そうとしてはいないか──。現代の大衆たる我々はそれを見極める手段をすでに手にしています。

「トランプは世界をどう変えるか? 世界を良くするのか悪くするのか」

その議論は、ICTの観点から言えば、少々ピントが外れているかもしれません。時代の変化は、トランプ個人、政治家個人の資質に依存しません。世界はすでに大きく変化していたからこそ、米国ではトランプ大統領、英国ではブレグジットが選ばれたのです。既得権益は解体され、世の中には新たな権力が生まれつつあります。

変化には混乱や困難や不純物の混入は避けられません。大きな変化であればなおさらです。中には、ネット世界の無責任で乱雑な議論に嫌悪を抱く人もいるでしょう。しかし、これこそニューワールドオーダー、コミュニケーション革命です。かつてのエリート層から、コントロールされることのない新しい時代の幕開けを迎えて、むしろ古参に含まれるメディアがどう振る舞うのか、その舵取りにも注目しましょう。

願わくば、扇動的な「トランプ叩き」による批判のための批判ではなく、発展的な未来へ向けての上質な議論を提言する役割を担ってほしいものと思います。

Forbes JAPAN

この記事が気に入ったらいいね!しよう

大統領をもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ