「敵基地攻撃」能力の保有に踏み出す日本

12月8日(金)6時8分 JBpress

F35ステルス戦闘機(2017年6月29日撮影、資料写真)。(c)AFP/JACK GUEZ〔AFPBB News〕

「敵基地攻撃」可能な
巡航ミサイル導入に踏み出す日本

 北朝鮮が核ミサイル開発によって日米韓への挑発を続けるなか、わが国政府は敵基地攻撃も可能なミサイルを日本として初めて保有する方針を固め、購入に必要な経費を平成30(2018)年度予算案に計上する。

 12月5日のFNNニュースで明らかになった。

 政府が購入する予定の装備は、ノルウェーなどが開発中の「JSM(ジョイント・ストライク・ミサイル)」。

 最大射程500キロ以上の空対艦・空対地の能力を持つ巡航ミサイルで、今年度から航空自衛隊(空自)に配備される最新鋭ステルス戦闘機「F-35」に搭載される予定である。

 さらに、射程が900〜1000キロ程度の米国製空対地ミサイル「JASSM(ジャズム)−ER」と、遠距離から対艦、対地攻撃ができる「LRASM(ロラズム)」も平成30(2018)年度予算案に計上する方針で、日本海上空からでも北朝鮮を攻撃できる。

 これらは、喫緊の課題となっている敵基地攻撃能力の有力な手段であり、わが国としても、対北朝鮮・対中国戦略上、大きな前進が図られることになる。

「敵基地攻撃」には
オンタイム・ピンポイントの目標情報が不可欠

 しかし、敵基地攻撃の論議がここで止まってしまっては、何の意味も持たない。

 というのも、例えば、わが国にとって死活的な脅威である北朝鮮の核ミサイルは移動式、あるいは地下格納(サイロ)式になっているため、それを攻撃するには、核ミサイルの所在(目標情報)をオンタイムかつピンポイントで把握しなければならないからである。

 特に移動式については、今、ここにあるという確実な情報が不可欠であるが、それを偵察衛星などのハードウエアで偵知することは困難である。

 最後は特殊部隊や潜入工作員(例えば米国のCIA)などのヒューミントに依存せざるを得ないのである。また、攻撃後の戦果の確認も大事であるが、それもまたヒューミントの出番となる。

 つまり、敵基地攻撃能力については、「目標発見⇒捕捉追随⇒攻撃⇒戦果確認」のサイクルをしっかり確立しなければならないのである。

 1990年1月17日に始まった湾岸戦争では、イラクが隣国のサウジアラビアやイスラエルにソ連製のスカッド・ミサイルを撃ち込んだ。

 同ミサイルは移動式のため、偵察衛星などではその所在を掴めず手を焼いた米軍は、英軍の特殊部隊などを地上から投入し、移動式スカッド・ミサイルの位置を特定し、その誘導によって航空攻撃や砲撃などを行い、ようやく制圧に成功した。

 いかに軍事科学技術が発達しても、「戦場の霧」を晴らすには、最後は人間の力に頼らざるを得ないのである。

米朝戦争において
米軍を悩ます「戦場の霧」

 米国の民主党上院議員で元軍人のテッド・リューとルーベン・ガレゴ両氏は9月下旬、ジェームズ・マティス米国防長官に宛てた書簡で、米朝戦争になった場合の詳しい被害予測を発表するよう要求した。

 米統合参謀本部議長室を通じた回答には、「戦場の霧」に関する内容が含まれている。

 その回答の中には、「北朝鮮が開発した核兵器や関連施設をすべて発見し、完全に破壊するためには、地上侵攻しか方法がない」と明記されている。

 それは、核兵器のみならず、生物・化学兵器などの兵器・弾薬の保管場所や関連施設、地下に造られた指揮所や攻撃拠点、金正恩政権の内部情報などを正確に把握するのは至難の業であり、まだ、十分に解明されていないことを意味している。

 最終的にはヒューミントに頼るしか確実な方法はないことを示しているのである。

 米国の対北軍事作戦には地上侵攻は不要と断言する軍事専門家と言われる人もいるようだが、明らかに米軍の見解と異なり、また、情報の欠陥や不確実性に関する軍事常識を欠いた議論にほかならない。

「戦場の霧」を晴らす
実効性ある「敵基地攻撃」能力の保持

 前述のとおり、敵基地攻撃能力を保持するためには「目標発見⇒捕捉追随⇒攻撃⇒戦果確認」のサイクルをしっかり確立しなければならない。

 わが国は、目標を発見し捕捉追随する決め手となるヒューミントの能力を欠いており、その整備が最大の課題である。

 陸上自衛隊(陸自)には、平成16(2004)年に創設された中央即応集団隷下の「特殊作戦群」が存在する。

 部隊の性質上、その任務や訓練の内容、保有する装備などは一切公表されていないが、アメリカ陸軍特殊部隊(グリーンベレー、デルタフォースなど)と同様、他国における特殊偵察や直接行動、情報戦などの多様な任務を遂行することができる世界水準の特殊部隊を目指していると言われている。

 海上自衛隊(海自)にも、能登半島沖不審船事件を機に、平成13(2001)年、全自衛隊で初めて特殊部隊としての「特別警備隊」が創設された。

 海上警備行動発令下に不審船の立ち入り検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、不審船の武装解除などを行うための専門部隊として新編されたものである。

 米海軍「Navy SEALs」に代表される海軍コマンドと同様に、海岸・沿岸地域の偵察や陸上における人質救出作戦などの多様な任務にも耐え得るものとみられている。

 また、空自は、ヒューミントではないが、「長距離を飛行し、空から超高性能なカメラを使って地上の様子を分析し把握するための航空機」である「RF-4E/EJ」偵察機を保有している。

 まずは、これらの部隊に、朝鮮半島や中国大陸において、特殊作戦に従事できる任務と能力を付与し、その目的に資するよう早急に育成することである。

 この際、敵基地攻撃は統合作戦をもって遂行されることになろうから、陸海空の特殊部隊を統合部隊として編成することも検討課題の1つとなろう。

 また、例えば、朝鮮半島有事には、在韓米軍と韓国軍が中心になって戦うため、米韓両軍のカウンターパートと共同連携できるような体制を整えておく必要があろう。

 他方、現在のところ、政府の敵基地攻撃能力保有の方針は、空中発射の巡航ミサイルに限られている。

 しかし、航空機の運用には、航空優勢の帰趨や天候気象条件に左右されるなどの問題点や欠点があり、地上発射あるいは海上・海中発射の対地攻撃ミサイルなど、多様な手段を準備し、相互に補完・強化できるようにしておくことが重要である。

 例えば、陸自は地対艦ミサイル(SSM)と呼ばれる巡航ミサイルを装備しているが、その射程を伸ばし、対地攻撃能力を持たせ、また、海自の水上艦艇や潜水艦に、米軍のトマホーク巡航ミサイルを搭載するのも有力な選択肢である。

 政府の決断によって、わが国の「敵基地攻撃」について大きな前進が図られようとしているが、それを実効性ある戦略に高めるためには、「戦場の霧」を晴らすなど、まだまだ為すべき措置対策の多いことを重々認識し、わが国の「敵基地攻撃」能力のシステム構築を急がなければならない。

筆者:樋口 譲次

JBpress

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