“機械を前提に”すればビジネスは根本から変わる

12月8日(金)6時8分 JBpress

デジタルトランスフォーメーションはどんな未来をもたらすか。

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「これは、かなりやっかいなオーダーだなぁ」

 住宅設備機材メーカーで生産管理を担当している吉田(仮)が、画面に表示された注文を見てつぶやいた。普段、あまり注文されることのないオプションが並んでいる。しかも希望納期がたった1週間だって!

 また昔の感覚で反応してしまった。そしてまた、いつものように苦笑いだ。

 3年前なら、「バカヤロー!」と営業に突っ返していただろう。しかし、新しいシステムが動き始めた今となっては、そんなストレスを感じることはなくなった。むしろ余裕さえある。

 以前であれば、工程の段取り替え、部材の手配、作業者のスケジュール調整など、個別のシステムとにらみ合って確認し、それぞれの現場に頭を下げてやりくりしてもらわなければならなかった。そして現場もまた大騒ぎで段取りを組み直す。部材の手配もし直さなくてはならないが、それも業者と連絡を取り、無理を通してもらわなくてはいけない。そんな大騒ぎを一通り済ませても仕様変更がスケジュールを狂わせる。どんなに頑張っても1カ月はかかっていただろう。それが、1週間で「余裕」なのだから驚きだ。

 工場の設備、作業者のスキルやスケジュール、部材の在庫、部品メーカーの工程までが、全てリアルタイムで把握され、オーダーや現場の進捗に応じて、スケジュールや手配がダイナミックに変わってゆく。

 最短納期で最低コストを実現するためにはどうすればいいのかをAI(人工知能)が見つけ出し、現場に指示を出し製造設備や搬送装置を制御する。外注先への発注も自動で行われる。もちろん品質についても徹底した検査が行われ、その結果もまたAIで解析されて、製造装置の設定データを常に最適な状態に保っている。

 設備のメンテナンスのタイミングも、それぞれに組み込まれたセンサーデータや稼働状況、スケジュールから割り出し、工程への影響が一番少ないタイミングを教えてくれるので、設備稼働率が3割も向上した。それは製造原価にも反映され、高品質で低価格が圧倒的な競争力となって、もはや他社に追従を許さない。

 数パーセント、あるいは数十パーセントの改善のために、これまで膨大なシステム投資を行ってきたが、それはいったい何だったのだろう。それが限界であり常識だと思っていた。しかし、そんな常識はもはや過去の話だ。

 設備も人も部材も外注先も、全てがセンサーから送られたデジタルデータで把握されネットにつながり、リアルタイムで現場が把握される。いわば、コンピュータの中に「現場の全てが再現」されている。そして、再現された「デジタルな全ての生産資源」を使い、条件を変えながら手配や段取りの最適なやり方をAIが見つけ出してくれる。そして現場を動かし、変化した現場の状況が再びコンピュータに戻され、最適なやり方を更新してゆく。

 コンピュータ世界にある「再現されたデジタルな現場」と「実際の工場の現場」が一緒になってリアルタイムで改善活動を繰り返しながら、最適な手配や段取りを進めてくれる。同じシステム投資でも、かつてとは桁違いの効果だ。

「おっと、また新しい注文だ。これもまたやっかいなオーダーだなぁ」

 また過去の苦労が脳裏をよぎり、また愚痴が口をついてしまった。もう、そんな必要もないのだが。


デジタルトランスフォーメーションの目指す姿

「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」

 そんな言葉をあちらこちらで目にするようになりましたが、その目指す姿がこの物語です。

 何パーセント、あるいは、十数パーセントの改善ではなく、何倍、何十倍の成果を手にする取り組みが、デジタルトランスフォーメーションの目指していることです。センサーやネットワーク、AIなどのテクノロジーを駆使して、ビジネスの仕組みを根本的に作り替えてしまおうというわけです。

 こんな変革の取り組みは、製造業に限った話ではありません。流通業や金融業、サービス業や公共事業にもデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せ、これまでの常識を上書きしようとしています。

 デジタルトランスフォーメーションが注目されるようになったのは、ビジネス環境の不確実性が高まり、変化のスピードが加速しているからです。ビジネス環境の変化に即応し、ダイナミックにビジネスプロセスを変えてゆかなければ、もはや生き残れない時代になりました。

 また、新興国の経済発展は地球資源の枯渇を加速しています。徹底して無駄を排し、効率化を推し進めなくては、サステイナブルな社会を実現することはできません。デジタルトランスフォーメーションは、そんなこれからの社会の要請に応えようとしています。

 ところで、ここで使われている「トランスフォーメーション(転換や変換の意)」という言葉ですが、何から何に転換しようというのでしょうか。

 これまでのビジネスは、人間が働くことを前提に「ビジネスプロセス」が作られてきました。無駄を無くし、効率よく、品質を高められるようにと、仕組みや手順の改善を進めてきました。そのビジネスプロセスをプログラムに置き換えたものが情報システムです。これを現場の人たちに使わせることで、このビジネスプロセスを徹底させ、業務の効率化や品質を向上させてきました。

 しかし、人間が働けば、さまざまな制約条件に縛られます。労働時間や福利厚生、安全管理などは絶対的な条件です。従来は、このような制約の中で、コスト削減や時間短縮、品質向上を目指してきました。しかし、それも行き着くところまで来てしまいました。膨大なシステム投資をしても、人間が働くことの制約がある以上、数パーセント、あるいは十数パーセントの改善が関の山なのです。

 しかし、多くの仕事をロボットや人工知能に任せれば、人間が働くことの制約がなくなります。テクノロジーの進化は、それを可能にしようとしています。そうなれば、ビジネスプロセスも人間の制約を考慮せずに組み立てることができます。その結果、同じシステム投資であっても、数倍、あるいは数十倍の改善や改革が見込めるかもしれません。

「人間を前提」にすることから「機械を前提」としたビジネスプロセスへ転換し、ビジネスのあり方を根本的に変えてしまおう。

 デジタルトランスフォーメーションとは、そんな取り組みを意味する言葉です。

 この連載では、それがどういうことなのかを掘り下げてゆきます。

筆者:斎藤 昌義

JBpress

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