「森友事件」元凶は財務省の弱体化にある

12月8日(金)15時15分 プレジデント社

産経新聞の社説(12月3日付「主張」)。見出しは<「森友」と財務省 官僚としての矜持見えぬ>。

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大蔵省(現在の財務省)は、かつて「官庁の中の官庁」といわれた。それは各省庁の予算を握っているからだけではない。徴税を担当する国税庁を通じて、政治家の脱税を摘発する能力をもっていたからだ。だが、「安倍1強」で、その能力は弱体化している。ジャーナリストの沙鴎一歩氏は「弱体化の結果、『森友事件』が起きた」と指摘する——。


産経新聞の社説(12月3日付「主張」)。見出しは<「森友」と財務省 官僚としての矜持見えぬ>。

■「けじめを早くつけろ」


久しぶりに納得のいく新聞記事を読んだ。12月3日付の産経新聞の「主張」(社説)のことだ。


国有地売却で鑑定価格の85%以上に当たる8億2000万円もの値引きが問題になっている森友学園事件。事件の核心はこの異常な値引きにある。


産経社説は問題の値引きをした財務省に対し、真っ向から「けじめを早くつけろ」と主張する。さらに値引きを認めた当時の理財局長(現国税庁長官)の責任も厳しく追及する。


森友学園事件の元凶は財務省にあることは間違いない。これが沙鴎一歩の指摘である。


■財務官僚の誇りはどこに消えた


産経の社説は「森友と財務省」というテーマに「官僚としての矜持見えぬ」との見出しを掲げる。矜持とは誇りやプライドのことだ。霞ヶ関官庁の予算をすべて握り、官僚中の官僚といわれる財務官僚の誇りはどこにいってしまったのかと産経社説は嘆く。


それでは産経社説を最初から読み進めてみよう。


冒頭から「佐川宣寿(のぶひさ)国税庁長官はどんな気持ちで質疑を聞いていたのだろう」と核心を突く。


続いて「衆参両院の予算委員会では、学校法人『森友学園』への国有地売却をめぐる、ずさんな値引きが再び批判された」と書き、「近畿財務局と学園側とのやり取りを記録した音声データの内容を財務省が認めたため、『適切に処分した』としてきた前国会での答弁はぐらつきはじめた」と指摘する。


■佐川国税庁長官は真に説明責任果たせ


そのうえで「その答弁者こそ、前理財局長の佐川氏である」と疑惑の渦中にいる佐川氏を登場させる。うまい書き方である。


さらに佐川氏の疑惑の一端を指摘する。


「夏に国税庁長官に任命されてから、就任会見さえ開かず今に至っている。この問題を追及されるのを嫌ってだろう」

「かつての答弁との整合性を何とか保とうと、後輩は『金額の話はしたが価格交渉ではない』などと苦し紛れに答えている」


そしてこう批判する。


「これが『官庁の中の官庁』とまで言われた財務官僚の姿、振る舞いだろうか。財務省としてのけじめを早くつけた方がよい」


ここまで批判されれば、さすがの佐川氏も知らぬ存ぜぬでは済まされないだろう。国税庁長官任命の記者会見はもちろんのこと、国会の求めがあれば、参考人招致や偽証罪にも問われる証人喚問に出席すべきである。そうすれば国民も野党も納得するはずだし、それができて初めて自らの説明責任を真に果たしたといえる。



■税務署の仕事にも悪影響が……


産経社説は返す刀でこうも批判する。


「財務省の予算編成作業が大詰めを迎えている。年が明ければ、国税庁は確定申告の季節である。国民の信頼を失ったままでは、本来の業務に支障が出よう」


予算編成にどこまで支障が出ているかは知らないが、確かに税務署の仕事には全国で障害が出ている。


たとえば佐川氏の長官就任直後から多くの納税者から「佐川さんは国会で国有地売却の交渉記録について『破棄した』と答弁していたけど、書類を破棄したといえば許されるのか」とか、「いまの税務署に公正な税務は期待できない」といった苦情が寄せられているという。


個別の税務調査でも「もう税務書類は提出しない」といわれ、税務行政が滞っているとも聞く。


産経社説に戻ろう。


国有財産の管理について産経社説は「政府が国有財産の管理手続きを見直すのは当然である。だが、何が問題だったのかをはっきりさせないと、的確な見直しなど望めないだろう」と書き、「売却価格をめぐる対応の不備を認め、その経緯と責任の所在を明確にすることだ。以前の答弁は事実に即していないと修正するしかあるまい。官僚としての矜持(きょうじ)さえ保てなくなる」と厳しく批判する。


ここまで社説で書かれて財務省はどう動くのか、これからの動きが見物である。


■産経は「安倍首相批判」もする


今回の産経社説は最後まで主張が一貫していた。


「財務省のみならず、政権全体で厳しく受け止めるべき問題だ。何よりも、低レベルな答弁を強いている政治の責任があることを、忘れてはなるまい」


政権全体の問題であり、そこには政治の責任があるというのだが、まさしくその通りである。


ここで沙鴎一歩の意見をいわせてもらえれば、今回の財務省の問題は財務官僚が「安倍1強」に忖度したところから始まった。その財務省で担当部署のトップの理財局長であった佐川氏は忖度が評価され、人事異動で国税庁長官という栄誉ある地位に就いたのだ。


産経社説は最後に「安倍晋三首相が『適切に処分したと報告を受けていた』と語ったのは、自らの責任をかわすことに力点を置くように聞こえた。佐川氏を含め、行政への信頼回復に資する対応こそ指示すべきだ」と主張する。堂々とした安倍首相批判である。



■「究明の手綱を緩めるな」


他紙の社説は財務省や財務官僚の責任をどう捉え、なにを主張しているだろうか。


12月1日付の東京新聞の社説はそのリードで「衆参両院の予算委員会が終わった。森友・加計両学園の問題も追及されたが、解明に至ったとは言い難い。政治や行政への信頼にかかわる重要問題だ。国会の場で究明の手綱を緩めてはならない」と訴える。


見出しも「究明の手綱を緩めるな」だ。


東京社説は中盤で「委員会では契約直前の二〇一六年五月、財務省近畿財務局と学園の籠池泰典理事長(当時)が協議した際の音声データの一部も紹介され、同省は事実と認めた」と説明し、次のように指摘する。


「籠池氏が『ゼロ円に近い形で払い下げてほしい』と求め、財務局側が『ゼロに近い金額までできるだけ努力する作業をやっている』と応じた、との内容。価格の下限をめぐる交渉にほかならない」


■「文書破棄の背景に、隠蔽の狙いはなかったのか」


そのうえでズバリ批判する。


「にもかかわらず、財務省の太田充理財局長は、金額についてのやりとりはあったが、売却予定価格についての交渉はなかった、と釈明した。いかにも苦しい答弁だ」


前述した産経社説ほどではないが、財務省答弁のおかしさがにじみ出ている。


さらに東京社説は「異例ずくめである。不適切と指摘された国有地売却がなぜ行われたのか。財務省が学園との交渉記録などの文書を破棄した背景に、隠蔽の狙いはなかったのか」と疑いの目を鋭く向け、「学園小学校の名誉校長を務めた安倍昭恵首相夫人や佐川宣寿前理財局長の国会への招致や委員会での集中審議など、国政調査権を駆使したさらなる究明が必要だ」と訴える。


その通りである。いまこそ、国会が自らの機能を果たすときだ。


■朝日は「詭弁」と財務省を批判


次に12月1日付の朝日新聞の社説を見てよう。


「森友問題審議」とのテーマに「無責任すぎる政府答弁」という見出しを付け、「幕引きなどとんでもない。疑問はますます膨らむばかりだ」と書き出す。森友学園の疑惑追及に力を入れている朝日らしい。


朝日社説は「財務省はこんな理屈を持ち出した。『金額』については話したが、『価格』は交渉していない。『口裏合わせ』ではなく、ごみの量を見積もる『資料提出のお願い』をした——」と書き、「うなずく人がどれほどいようか。説得力を欠く詭弁である」と厳しく指摘する。


さらに安倍首相に批判の矛先を向ける。


「安倍首相はこう語った。『財務省から適切に処理したとの答弁があり、そう報告を受けていた。私の答弁は、そのような理解の上で申し上げた』」

「責任は財務官僚にあり、自分は報告を信じただけ。そう言いたいのだろうか。だとすれば、行政府トップとして無責任な発言というほかない」


安倍首相が嫌いな朝日らしさが出ている書きぶりである。



■国税の弱体化は「安倍1強」の弊害だ


霞ヶ関のトップ官庁である財務省には、威厳があった。その財務省のもとで徴税を担当する国税庁には野武士的な財務官僚がいた。役人離れしたキャリア官僚たちが財務省から国税庁に送り込まれ、全国の国税局やその下の税務署をひとつにとめ上げてきた。


財務省キャリア、国税庁採用の国税庁キャリア、ノンキャリアの税務職員という順番の「ピラミッド構造」である。


このピラミッド構造の善しあしはさておき、国税はときには検察と組んで脱税事件にも力を尽くした。元自民党副総裁の金丸信氏の大型脱税事件では、みごとに検察の汚名をすすいだ。ロッキード事件では政財界フィクサーの児玉誉士夫氏に対する査察(強制調査)がなければ、検察は田中角栄という首相の犯罪を立件できなかっただろう。


国税には政治家を脱税の罪に問える調査能力があった。永田町ににらみが利いた。財務省は自らの威厳ともに国税のこのにらみをうまく使った。


しかし、いまは国税の力が弱っている。安倍政権の「1強」のもと、官邸が大きな権力を持ち、安倍政権を忖度した財務官僚に出世の道を与え、国税のトップに添えるような人事がまかり通る。


これこそ安倍1強の大きな弊害だ。ロッキード事件や金丸脱税事件を経験した世代のジャーナリストには信じられない事態である。



(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

プレジデント社

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