企業買収ばかり繰り返す孫正義は「虚業」なのか

12月9日(月)9時15分 プレジデント社

2019年11月6日の記者会見で話す孫正義。ソフトバンクグループは7~9月、第2四半期の純損失は7040億円(64億6000万ドル)と発表。 - 写真=NurPhoto/時事通信フォト

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LINE、ZOZO、アスクル……ソフトバンクグループの孫正義会長は、国内大手ネット企業の買収を次々と成功させてきた。だが、企業買収ばかりを繰り返す手法は「虚業ではないか」とも批判される。実態はどうか。経済評論家の加谷珪一が解説する——。

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2019年11月6日の記者会見で話す孫正義。ソフトバンクグループは7〜9月、第2四半期の純損失は7040億円(64億6000万ドル)と発表。 - 写真=NurPhoto/時事通信フォト

■破竹の勢いだったソフトバンクの成長に陰り?


ソフトバンクグループが、急ピッチで国内ネット企業の買収を進めている。傘下のヤフーを中心に、ZOZO(ゾゾ)、アスクル、LINEなど有力企業を次々と取り込んできたが、特にヤフーとLINEとの経営統合がもたらす影響は大きい。ソフトバンクグループは一連の買収によって、事実上、1億人の経済圏を獲得したといってよいだろう。


これだけの規模になれば、国内ネット企業のガリバーとして、多くの利用者を囲い込める反面、買収した各事業の利益相反調整など、オペレーションは複雑になる。一部からは、市場の寡占化が進むことによって、これまで破竹の勢いだったソフトバンクグループの成長に陰りが出ることを指摘する声も出ている。


ソフトバンクグループの有力子会社でポータルサイト「ヤフー」を運営するZホールディングス(ZHD)とLINEは2019年11月18日、経営統合する方針を明らかにした。2020年10月までに、両社の親会社であるソフトバンクと韓国ネイバーが共同持株会社を設立し、この持ち株会社がZHDの株式を7割保有。傘下に事業子会社としてヤフーとLINEを並立させるスキームが検討されている。



■「国民的なITサービス」どうしの統合だが……


両社は対等合併であることを強調しており、統合後のZHDのトップには、ヤフーの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長が、それぞれ共同CEO(最高経営責任者)に就任することが決まっている。だがヤフーの背後には、巨大なソフトバンクグループが控えているという現実を考えると、この経営統合はソフトバンクグループによるLINEの取り込みと考えた方がよいだろう。


ヤフーは6743万人の月間利用者を抱える日本最大のポータルサイトであり、同時にヤフーショッピングやヤフオクといったEC事業も展開している。一方、LINEの月間利用者は8200万人となっており、こちらも国民的なITサービスといってよい。


両社の顧客にはかなりの重複があるが、利用者数を単純に合算すれば、日本の人口を大きく上回ることになり、今回の経営統合によってソフトバンクグループはまさに1億人経済圏を獲得できる。


■なぜ孫正義氏はこれほどまでに事を急ぐのか?


ここ1年、ソフトバンクグループはヤフーを通じて国内ネット企業の獲得に邁進(まいしん)している。


2019年8月には子会社であるアスクルのトップを解任するなど経営関与を強化し、翌月にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するゾゾの買収を決めた。そこから時間を置くことなく、今度はLINEとの経営統合を実現している。


ソフトバンクグループを支配する孫正義会長は、電光石火のM&A(合併・買収)を得意としてきたが、買収のスピード感はさらに高まっていると見てよいだろう。では、孫氏はなぜこれほどまでに事を急いでいるのだろうか。もっとも大きな理由は、孫氏が進めるネット企業への投資戦略に、とうとう成長の限界が見え始めたからである。


これまで孫氏は、成長企業に対する数多くの投資を行ってきたが、ここ数年は、10兆円の規模を持つソフトバンク・ビジョン・ファンドを立ち上げるなど、ネット企業への投資をさらに加速している。孫氏が企業買収に貪欲なのは、買収を通じて「時間」を買うためである。


ネットビジネスは従来型産業とは大きく異なり、成長に必要な限界コストが圧倒的に安く、業績が急拡大しやすい構造になっている。しかも、サービスを利用する人が増えれば増えるほど、その価値が高まるというネットワーク外部性という効果もあり、一定のシェアを超えると加速度的に利用者が増加する。



■グループ総力で取り組まないと、GAFAに駆逐される


だが、サービスを利用するのが人間である以上、経済圏における人口以上に事業を拡大させることはできない。あらゆるサービスをネット化することで、リアルなビジネスから顧客を奪ってくることは可能だが、それにも限界がある。インターネットの黎明(れいめい)期、試着が重視されるファッションの分野は、ネット・シフトが進みにくいと指摘されていたが、ゾゾの躍進を見れば、そのフェーズもすでに過ぎ去ったことが分かる。


つまり、2000年前後に本格化したネットビジネスはいよいよ成長の限界を迎えており、近い将来、完全にパイを奪い合う市場に移行する可能性が高い。もしそうだとすると、ゆっくりと事業規模を拡大している暇はなく、シナジーが見込める企業は片っ端から買収して市場シェアを高め、来たるべき寡占化時代に備える必要がある。


ヤフーとLINEは経営統合の理由として「GAFAに対する危機感」を挙げているが、これも同じ文脈で理解してよいだろう。GAFA各社はネットビジネスにおける成長の限界を超えるため、1兆円単位の金額を次世代の成長エンジンである人工知能などに費やしている。


だがヤフーとLINEの2社を合わせた研究開発費はわずか200億円しかなく、GAFAとはケタがあまりにも違い過ぎる。ソフトバンクグループが総力を挙げて取り組まないと、たちまちGAFAに駆逐されてしまうだろう。


■統合メリットを生かす「スーパーアプリ」開発が必須


だが現実問題として、これだけの規模の買収案件をスムーズに進めるのは並大抵のことではない。ヤフーはニュースに代表される各種コンテンツ事業、ヤフーショッピングとヤフオクを中心としたEC事業、PayPayが提供する決済事業などを抱えており、ジャパンネット銀行を通じて金融サービスも提供している。


一方、LINEはメッセージ・アプリを中心に、EC事業、コンテンツ事業、金融事業、決済事業などを行っており、重複するサービスも多い。


両社が持つサービスを統合すれば、消費者の生活をほぼすべて丸ごとカバーできるので、統合メリットを最大限生かすためには、生活に必要なあらゆる機能を盛り込んだ、いわゆる「スーパーアプリ」の開発が必須となる。


ヤフーは中高年層の利用も多く、LINEは若年層に人気なので、その点においては相互補完的といえる。だが利用者の属性が異なる2つの主要サービスを統合するのは簡単ではなく、一歩、間違えると、両方のヘビーユーザーを失うリスクもある。完璧なスーパーアプリを開発できるのか、事業者としての能力が問われているといってよいだろう。



■想定外の追加投資に悩まされるリスクも


重複分野の整理もかなりの困難が予想される。


スマホ決済については、市場が生まれたばかりであり、先行するPayPayとLINE Payが組むメリットは大きいだろう。ヤフ−は、すでに社会インフラとして定着しているジャパンネット銀行を擁しており、金融はこれからというLINEとの間に面倒な重複は発生しない。むしろLINEは人工知能を使った金融サービスの開発に力を入れているので、両者は相互補完できるかもしれない。


だが、ECやメディア、旅行などの分野については、かなりの重複が存在し、サービスの統廃合や利用者のポイント共通化といった作業が残されており、想定外の追加投資に悩まされるリスクもある。


■アマゾンと比べてあまりにも貧弱な物流網


さらに言うと、アスクルとのサービス連携にも大きな課題がある。


現時点において、国内ネット通販の取扱高は楽天が首位となっており、ヤフーがこれを追う図式になっている。だが、楽天とヤフーは、商品のほとんどが出店者による販売・配送であり、楽天とヤフーは出店料を受け取るだけである。一方、アマゾンは多くの商品を自社販売しており、独自配送網の拡充や置き配など、革新的なオペレーションを次々と繰り出している。


商品の販売を出店者に任せている楽天とヤフーは、取扱高こそアマゾンよりも多いものの、サービス品質という点でアマゾンに大きく後れを取っている。ヤフーがアマゾンに対抗するためには、独自の物流網整備が不可欠であり、これが実現できないと、せっかく買収したゾゾの潜在力も100%発揮させることはできないだろう。


■孫正義氏は「虚業」批判を跳ね返せるか?


こうした事情もあり、ヤフーはアスクルが保有する個人向けネット通販「LOHACO(ロハコ)」事業の取り込みを狙っていたが、これが一部のアスクル経営者と対立を生み出し、経営介入強化のきっかけとなった。アスクルの独自物流網はアマゾンと比較すると貧弱な状況であり、アスクルの経営正常化と本格的な物流網の整備にはかなりの紆余(うよ)曲折が予想される。


企業買収ばかり繰り返す孫氏に対しては、常に「虚業ではないか」との批判が寄せられてきたが、ネット経済が成長の限界を迎えたことで、時間を買う買収はそろそろ打ち止めとなる。事業家としての孫氏の真価がいよいよ問われることになるだろう。



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加谷 珪一(かや・けいいち)

経済評論家

1969年、宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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