瞬きの回数が少ない人ほどニコチン依存症になりやすい…寿命を縮めるのにタバコをやめられない科学的理由

2024年12月9日(月)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

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なぜお酒やタバコがやめられなくなるのか。依存症専門医の山下悠毅さんは「『お酒が飲みたい』『タバコが吸いたい』といった欲求や衝動は、そもそも自分の意志で選んではいない。何かをやめたければ、まずは脳の仕組みを理解するところから始めよう」という——。

※本稿は、山下悠毅『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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■お酒やタバコが「おいしい」と感じるのは、脳内で快楽物質が出るから


最初はまずかったはずのお酒が、なぜおいしくなるのか? なぜやめられなくなり、依存していくのか?


その答えは、お酒を飲むと脳内で「ドーパミン」や「βエンドルフィン」などといった、快楽物質が出るからです。


快楽物質は、「好きなものを食べる」「性行為をする」「仕事を終える」「褒めてもらう」——こうしたタイミングで分泌され、「快」という感情をもたらします。


一方、お酒には吐き気や頭痛などの「不快」をもたらす副作用もあり、飲酒し始めたころは「快」より「不快」が強いため「まずい」と感じます。しかし、繰り返し飲むことで徐々に慣れてくると、「快」が副作用の「不快」を上回り、「おいしい」と感じ、ハマっていくのです。


この理屈は、コーヒーや煙草でも変わりません。摂取すると、快楽物質が分泌されて「快」を感じる。しかし、副作用の「不快」の方が強く感じる。そのため、コーヒーであればミルクや砂糖をたっぷり入れたり、煙草であればメンソールにしたり、タールの低いものを選んだりすることで、副作用の不快を減らすわけです。


ところが、やがて副作用に身体が慣れてくると、「通はブラックで」「メンソールなんてダサい」などと話すようになるから不思議です。脳は同じ刺激にさらされると、同じ刺激では快楽物質が出づらくなる特性があります。


どんなにおいしいお寿司や焼肉も、食べ続けると飽きてしまうし、苦痛にさえなる。しかし、アルコールやコーヒーは、毎日飲むことができる。その理由は「おいしい」でも「好き」でもなく、「依存」だからです。


■酩酊によって生じる「不快の緩和」


お酒を飲むと、脳の「前頭前野」の血流が下がります。前頭前野とは、サルが人間へ進化する際に最も発達した箇所で、人間の理性を司っています。


理性とは、その人の人格のベースであり、食欲や性欲といった本能に対するブレーキです。人は理性が働くことで、「本能に上手にブレーキをかけながら」欲望や行動をコントロールしています。


お酒は、そうした人の理性を下げてしまう飲み物です。アルコールによって前頭前野の血流が下がり、機能が落ち、IQが下がります。そのため、人は酔っぱらうとバカ騒ぎをしたり、同じ話を何度も繰り返したり、言ってはいけないことを言ってしまったりします。


一方で、IQが下がることのメリットもあります。


私たちはいつだってさまざまなことに悩んでいます。「あの仕事はうまくやれるのか」「自分は頑張りが足りないのでは」「嫌われていたらどうしよう」——。こうした際、酔っぱらうことで、「ま、いっか」「なんとかなるだろう」と悩みが消えていく。これをアルコールによる「脱抑制」といいます。


「脱抑制による酩酊」——。これこそが、人がアルコールに依存するもう1つの理由です。快楽物質による「快の獲得」と、酩酊によって生じる「不快の緩和」、この2つが絡まり合うことで、人はお酒に惹かれていきます。


■「不快の緩和」が依存を深めていく


ドーパミンやβエンドルフィンといった快楽物質による「快の獲得」と、酩酊によって生じる「不快の緩和」、この2つの因子により、人はお酒に依存します。


では、より依存を深めていくのはどちらでしょうか。


お酒に限らず、大麻でも覚せい剤でも、答えは後者の「不快の緩和」と言われています。


なぜなら人は、「飽きる」特性を持つからです。先述したように焼肉でもお寿司でもどんなにそれがおいしくても、食べ続けると飽きるし苦痛に変わります。これはドーパミンの「耐性」と呼ばれる特性で、同じ刺激にさらされると、ドーパミンが出づらくなったり、ドーパミンの受容体の数が減ったりしてしまうからです。


「不快の緩和」が依存を深めていくことを裏付ける調査や研究は、枚挙にいとまがありません。


「依存症の本質は快楽ではなく、苦痛にある」


これは米国のエドワード・J・カンツィアンという精神科医の言葉で、「自己治療仮説」と呼ばれているものです。依存症者は楽しみのために依存行動をとるのではなく、つらい感情や経験から逃れるためにアルコールや薬物に頼るという考え方です。


写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

私も一理あると思っていますが、あくまで「一理」に過ぎません。依存や依存の進行については、自己治療仮説は正しいと思います。


しかし、アルコール依存症では、解雇や離婚、精神科への入院などを経て、本人も「アルコールや薬物が苦痛の緩和にはならない」ことを嫌というほど理解している方も多いのです。「苦痛の緩和」だけでは彼らが飲み続けてしまう理由には無理があるため、私は「一理」と考えています。


■ドーパミンが出る脳の仕組み


ドーパミンについて、より掘り下げて説明しましょう。下の図表1を見てください。


出典=『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)

この「ドーパミンが出るタイミング」はすべて、個体の生存に有利になる場面であり、ドーパミンが出ると人は幸せな気持ちに包まれ、思考が前向きになります。目は輝いて自然と笑顔もこぼれます。


「おいしいものを食べるとドーパミンが出る」と書いていますが、厳密には「食べたときに脳内でドーパミンが放出されると『おいしい』と感じてしまう」が正確な説明となります。


おいしいものを食べる→ドーパミンが出る→幸せな気持ち

ではなく、本当は、


食べる→ドーパミンが出る→幸せな気分に→これはおいしい(と認知)

このようになるわけです。


そのため、本来は単なる小麦粉の塊であるスナック菓子やカップ麺なども、油で揚げたり、アミノ酸を添加する=「食べるとドーパミンが出る」ように設計すると、「おいしい」と感じてしまい、やめられなくなるのです。


昔、好きだった人や別れた恋人の写真を見返して、「この人のどこがよかったんだろう」と感じる方はたくさんいると思います。それは現在、その相手との関係において「ドーパミンが出ていない」ため、相手を「ありのままの見た目」で認知するようになったからです。これが、アルコールでドーパミンが出れば「おいしい」と感じてしまい、パチンコをしてドーパミンが出れば「楽しい」と感じてしまう“しくみ“です。


■“欲望や衝動”は自らの意志で選んではいない


また、人はお腹がすくと、「何か食べたい」と感じます。やがて、頭の中は食事のことでいっぱいになり、「何でもいいから食べたい」という強い欲求にかられます。


これも脳内でドーパミンが放出されることで、「食べものが欲しい」という衝動が生まれるからです。好きな人ができた際も同様です。


「また会いたい」「会って話をしたい」「2人だけで話がしたい」、私たちはこうした激しい欲求にかられますが、これも脳内でドーパミンが分泌されているからです。


「○○が欲しい」「○○に会いたい」——。こうした欲求を、私たちは「自分の意志で選んでいる」と思っています。しかし、それらはすべて、あなたが出会った対象に対する脳の反応であり、脳がドーパミンを分泌しているからです。


つまり、欲望や衝動とは、あなたがコントロールしているのではなく、ドーパミンがあなたをコントロールしているということになります。


■ドーパミンが出にくい人は依存症になりやすい?


講演会などで「どんな人が依存症になりやすいのか」と尋ねられることが多いのですが、脳科学的には「生まれつき日常生活でドーパミンが出にくい人」と説明ができます。



山下悠毅『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)

普段の生活の中で、興味や関心が乏しい人はドーパミンが出づらいために、お酒や煙草で「なんとかドーパミンを出し生きている」のです。


事実、この「ドーパミンの出やすさ」については人それぞれの遺伝子の違いがあるということがわかっています。


例えば、瞬きをする回数は生まれつき個人差が大きく、この回数はドーパミンを増やす薬(パーキンソン病の治療薬)を服用すると増加します。


もちろん「瞬きの回数が多い=ドーパミンが多い」とは言い切れませんが、実際、「瞬きの回数が少ない人ほどニコチン依存症になりやすい(喫煙率が高い)」というデータは複数あります。


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山下 悠毅(やました・ゆうき)
ライフサポートクリニック院長 精神科専門医
1977年生まれ、帝京大学医学部卒業。2019年12月、ライフサポートクリニック(東京都豊島区)を開設。「お薬だけに頼らない精神科医療」をモットーに、専門医による集団カウンセリングや極真空手を用いた運動療法などを実施している。大学時代より始めた極真空手では全日本選手権に7回出場。2007年に開催された北米選手権では日本代表として出場し優勝。(著者近影:撮影=矢島泰輔)
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(ライフサポートクリニック院長 精神科専門医 山下 悠毅)

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