「入浴で酒を抜く」「サウナでととのえる」に潜む心臓リスク…"ハダカで突然死"を避ける1万円以内のアイテム

2024年12月10日(火)8時15分 プレジデント社

2009年10月27日、東京のマンダリン オリエンタル 東京で行われた映画『サヨナライツカ』の記者会見に出席した女優の中山美穂。 - 写真提供=ゲッティ/共同通信イメージズ

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俳優・歌手の中山美穂さん(54)が自宅浴室の浴槽内で発見され、死亡が確認された。医師の筒井冨美さんは「年間の浴室内での死亡件数は、交通事故死の2倍以上あります。注意が必要なのはヒートショックだけでなく、飲酒後の入浴には溺死リスクがあり、ブームの“サ活”は心臓リスクが大きい」という——。
写真提供=ゲッティ/共同通信イメージズ
2009年10月27日、東京のマンダリン オリエンタル 東京で行われた映画『サヨナライツカ』の記者会見に出席した女優の中山美穂。 - 写真提供=ゲッティ/共同通信イメージズ

■年末の突然すぎる訃報


年末が近づき、年賀欠礼ハガキの季節となった。多くは80〜90代の父母の永眠を報告するものだが、中には40〜50代の現役世代の死去もあり心が痛む。そんな年の瀬にもたらされた訃報だった。


12月6日、俳優・歌手の中山美穂さん(54)の死去が発表された。同日に東京都渋谷区の自宅浴室の浴槽内で発見され、その場で死亡が確認された。当時、自宅玄関は施錠され、中山さんに目立った外傷はなかった。


同日夜には大阪市内でコンサートを行う予定だったそうで、2025年には「40周年ツアー」が予定されるなど精力的に活動しており、体調不良の報道もなかったので、突然の訃報は日本中を大いに驚かせた。


6日午前2時半までは難なくメールを送信していたようで、親交のあった芸能人も「受け止めきれず、うまく言葉に出来ません」「事実を受け入れられない」などの追悼コメントを発表していた。8日、中山さんの所属事務所は遺体解剖の結果を踏まえ、「事件性はないことが確認され、死因は入浴中に起きた不慮の事故によるものだと判明した」と発表した。


■注目集まる「ヒートショック」とは


中山さんの訃報とともに、急に検索されるようになった単語が「ヒートショック」である。気温の変化によって血圧が上下し、心臓や脳血管などの疾患が発生することを「ヒートショック」と呼ぶ。正式な病名ではないものの救急救命部門などで広く使用されている。


特に冬場に多く「暖房の効いた居間→寒い脱衣所→熱い浴槽にドボン」など10℃以上の温度差のある環境で血圧が乱高下することは、心筋梗塞などを誘発するリスクが高いとされている。


しかしながら、中山さんの自宅があった渋谷区の超高級マンションで、室内に極端な温度差があったとは考えづらい。


■「入浴によってかえってアルコール分解が遅くなる」


また、中山さんはお酒とパーティーが大好きだったようで、高級レストランで芸能人や経営者などセレブが集まったパーティーに参加する姿は過去に何度も報道されている。6日の浴槽内死亡も飲酒が関係している可能性は高そうだ。


「飲み過ぎたからお風呂に入ってアルコール分を早く抜く」などは日常生活でよく聞くセリフだが、医学的には「入浴によってアルコール分解が遅くなる」ことが知られている。


入浴することで全身の血流はよくなるが、肝臓への血流が相対的に減るため、アルコール分解が遅れるからである。その他「浴槽で寝込んでしまいそのまま溺れる」「酩酊状態で足元がふらついて転倒」などのリスクも高い。飲酒後の入浴はリスクが高く、特に中山さんのような一人暮らしの中高年にはお勧めできない。


どうしても「飲酒後だけど体を洗いたい」などの場合には、シャワーか「ぬる湯に短時間」の「烏の行水」をお勧めしたい。


■交通事故より多い浴室内死亡


政府統計ポータルサイトによれば、家庭内の事故死は年間約1万6000件と報告され、そのうちの死因トップが浴槽内溺死(約6000件)、次いで誤嚥(2500件)である(2022年データ)。同年の交通事故死2610人(警察庁データ)に比べて倍以上となっている。


少子高齢化を反映しているのか、交通事故死が減少傾向であるのとは裏腹に、浴室内死亡は増加傾向にある。「浴室内死亡は交通事故の3倍」と呼ばれる日も遠くなさそうだ。


写真=iStock.com/swalls
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/swalls

また、浴室内死亡は11〜4月に多いことが知られており、前述のヒートショックとの関連が指摘されている。また、男性に多いことも知られている。


予防法としては、「かけ湯をして体を慣らしてから入浴」「ぬる湯に10分以内」「飲酒後の入浴は避ける」「更衣室を温めて温度差を減らす」「手すりなどを整備して、ゆっくり動く」「同居家族に声をかけてから入浴」などが挙げられるが、特に前3案は今夜からでも導入できるので、50代以上の世代が冬期に入浴する際には心がけておきたい。


■脱水×入浴は本当にヤバい


近年のサウナの流行にともない「サ活」「サウナでととのう」というフレーズを目にすることが増えている。「ととのう」とは「サウナと水風呂を交互に繰り返し、副交感神経と交感神経を交互に活性化させることで気分がスッキリする」状態を指すと言われるが、医学的には好ましいとは言えない。


特に心臓へのリスクは大きい。2023年には自然派をアピールしたサウナ施設で、サウナ脇の池で25歳男性が死亡する事故があったが、交代浴による心臓への負荷が関係した可能性もあっただろう。


また、ビール愛好家の中には「湯上り後のビールを美味しくするために、水分補給せず入浴やらサウナに入って、あえて脱水状態になる」タイプが存在するが、これも浴室内死亡リスクを考えたらお勧めできない。中年以降の入浴では、こういうチャレンジャー的な行為は卒業し、十分な水分補給の後に入浴すべきである。特に一人暮らしでは厳禁である。


■隠れ心臓病、気になる人は心電図搭載スマートウォッチを


「私は毎年の健康診断で心電図はチェックしているけど異常と言われたことはない」
「だから私はサ活も大丈夫」


そう安心している人もいるかもしれない。しかし、一般的な健康診断の心電図は昼間の安静時に20秒程度の波形しか補足しておらず、「寝ている間」「走った直後」などに出現する異常波形は発見しにくい。


また、発作時の波形を記録していない状態で「胸がドキドキするんです」と内科を受診しても、医師が不整脈だと診断することはとても難しい。また、医療ドラマなどで描かれる狭心症は「胸を押さえて苦しがる」演技がほとんどだが、現実の狭心症の患者さんは「脇がザワザワする」「歯が痛い」「胃が痛い」などと訴えることも少なくはない。


そして中年以降には、病院で診断はされていないけど隠れた心臓病を持つ人はそれなりに存在している。中山さんも、このような“隠れ心臓病”だったのかもしれない。


Apple WatchやSamsung社Galaxy Watchなど現在のスマートウォッチでは心電図が内蔵されているタイプがある。医療機器としては正式には認可されていないが、不整脈の診断機能もあり、寝ている間も連続的に測定することが可能である。ノーブランド品でよければ、1万円以下で心電図が測定できるスマートウォッチも販売されている。


「家系に心臓疾患が多い」「糖尿病がある」「血圧が高め」「最近、走るのがつらい」など、「自分は心臓病のリスクが高そう」と思う中高年は、普段から心電図搭載スマートウォッチを利用して24時間心電図や脈拍数や血圧などをチェックしておき、異常な数値が出た時には、そのデータを持って循環器内科を受診することをお勧めする。


スマートウォッチの多くは防水性能があるので、入浴中の心臓発作が心配な人は、入浴中も装着し、心電図などをモニターするのも良いかもしれない。入浴中に体調に異変を感じたらスマートウォッチで人を呼ぶこともできる。


最近では「スマートウォッチ外来」と称して、スマートウォッチのデータを積極的に活用している病院が増えている(添付画像参照、河北総合病院=東京・杉並区のもの)。ネット検索すれば簡単に見つけられるので、心臓リスクの心配な中高年ならばチェックしておきたい。


アップルウォッチ・スマートウォッチ外来 循環器内科 河北総合病院(東京都杉並区阿佐谷北)オフィシャルサイトより

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)
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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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