騒然!トヨタの「奥」に踏み込んだ経済小説が再登場

12月13日(金)6時0分 JBpress

 世間を騒然とさせた小説『トヨトミの野望』(講談社)から3年——。この12月、その続編となる『トヨトミの逆襲』(小学館)が発売され、再び経済界、なかでも自動車産業界がざわつき始めている。


筆者は「覆面作家」

 一読すれば、誰もがトヨタ自動車をモデルにした作品と気づくのだが、そこに描かれたストーリーは、もはや「企業小説」の域を超えていると言っていい。フィクションの「形」を借りて、トヨタの内部を鋭くえぐった作品だからだ。「カイゼン」「カンバン」「ジャストインタイム」……これまで、世界に冠たる「ものづくり大国・日本」の象徴のひとつ、トヨタ生産方式を紹介するビジネス書などは巷間あふれているが、莫大な広告予算でメディアの生殺与奪の権を握る巨大企業だけに、トヨタ「奥」でいったいどんな人間模様が繰り広げられているのかについてまで踏み込んだ書き手はいなかった。

 本書のプロフィールによれば筆者は経済記者だが、本作では正体を隠し、「覆面作家」梶山三郎を名乗っている。

 その梶山氏の手による前作『トヨトミの野望』では、28年ぶりに豊田家以外から社長に抜擢された奥田碩氏がモデルの武田剛平と、豊田章一郎氏・章男氏父子を思わせる豊臣新太郎・統一の創業家の親子との確執をベースに、ハイブリッド車「プリウス」開発の舞台裏、リコール問題対応時の詳細など、トヨタが実際にくぐってきた出来事を膨大な情報を交えながら、臨場感あふれるドラマに仕立てられていた。作中で、剛腕社長・武田剛平は、トヨトミ自動車の経営を立て直し、アメリカ大統領やイギリスの首相を手玉に取って、あっというまに売上高27兆円、世界一の自動車企業に押し上げていく。ところが、豊臣家の所有と経営の分離を図る「持ち株構想」という名の“クーデター”が事前に発覚し、社長を追われてしまう。このストーリーも実話に基づく部分がかなり占められているという。

 筆者の梶山氏は、前作『トヨトミの野望』の発売後、珍しくNewsPicksのインタビューを受け、執筆した動機をこう語っている。

「(トヨタの)創業家である豊田家の持株比率というのは、わずか2%ほどに過ぎません。しかし、実際には豊田家の本家がいまでも厳然たる力を持っています。奥田さんは、そんな豊田家のあり方についても言及した、めずらしい経営者でした。そうした経緯もあって、実はトヨタが制作している『トヨタ自動車75年社史』(2013年刊行)からも、奥田さんという経営者の存在はほとんど消されているのです。

 また豊田章一郎名誉会長の半生について、日経新聞の紙面上に掲載された連載『私の履歴書』(2014年4月)でも、奥田さんについてはほとんど言及されませんでした。

 トヨタをモデルにした大型テレビドラマ『LEADERS リーダーズ』(佐藤浩市主演・同年3月放映)に至っては、豊田喜一郎、豊田章一郎、豊田章男というトヨタ創業家の3代にわたる活躍が露骨にクローズアップされました。ある意味で豊田家は、トヨタの歴史を作り変えようとしているのではないでしょうか」(NewsPicks「トヨタを騒然とさせる『覆面作家』の独白」)


水面下で起きている不可解な人事

 トヨタ中興の祖であった分家の豊田英二氏は、章一郎氏が『私の履歴書』を書く前年の2013年秋に亡くなっている。経団連会長までつとめた奥田氏はいまにいたるまで『私の履歴書』は書いていない。「歴史は勝者がつくる」といわれるが、梶山氏は、豊田家本家がつくる「正史」の裏に埋もれたもう一つの物語を描こうとしているのではないだろうか。

 今作『トヨトミの逆襲』の物語は、2016年初夏から始まる。まさに現在進行形、つまり現社長・豊田章男氏のトヨタでいまおきているドラマを下敷きにしたと思われる小説なのだから生々しいと言うほかない。モデルとされるキャラクターたちに、それぞれの思惑を胸の内でつぶやかせつつ、社内のライバルを蹴落としたり、上司にすり寄ったりする姿を描いている。

『トヨトミの野望』につづき、なぜ梶山氏は、『トヨトミの逆襲』を執筆したのか。梶山氏の代わりに担当編集者はこう説明する。

「本書の舞台はCASEとよばれる新たな技術群の波が押し寄せ100年に一度の大変革期に突入した自動車業界です。巨大IT企業がこの産業に参入し、勢力図が混沌とするなかで、日本一の巨大企業となったトヨトミ自動車とて安泰ではなく、同社の“生きるか死ぬか”の苦闘が描かれています。

 現実を見ても、自動車産業は全就業人口6500万人の1割近くが従事する日本経済の大事な屋台骨ですが、いま大きな軋みが生じています。ゴーン・ショックで『船長なきまま漂流する巨大船』となった日産の業績悪化や、トヨタが筆頭株主になっているメガサプライヤー・曙ブレーキの経営危機など、異変や不祥事が報じられていますが、その予兆となる不可解な人事や出来事は、報道されない水面下ですでに起きています。そうしたリアルで新たな情報が、前作発表後から梶山さんのもとに多々寄せられました。その情報を届けてくれた人の大半は自動車業界の現状に危機意識を持っていた方々だそうです。そうした方の思いに報いようということもあって、梶山さんは前作刊行後、すぐに取材にとりかかってくれていました」(加藤企画編集事務所・加藤晴之氏)


CASEの波、GAFAの脅威、部品メーカーとの関係

 CASEとは、コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化という大波の総称だ。この波についていけない自動車メーカーに、おそらく未来はない。

 一方で、CASEシフトが進めば進むほど、複雑なガソリンエンジン車の開発・製造のために積み上げてきた技術と系列サプライヤーの多くは不要になり、電池やモーターといったデバイスの開発が必須になる。さらにCASEの世界で競争相手になるのは、GAFAのような巨大なIT企業だ。虎視眈々とこの分野に足場を築いている彼らに、さすがの自動車メーカーでも資金量ではそうそう太刀打ちはできない。

 トヨタのような完成車メーカー以上に苦境にあるのが、系列の部品メーカーだ。実際、完成車メーカーが過去最高の決算を記録する陰で、さらなる原価低減を突き付けられた部品メーカーからは悲鳴があがっているという。しかも彼らは、電動化によって取引が先細る不安も拭えない。

 こうした環境の中で、日本を代表する自動車メーカー「トヨトミ自動車」の創業家出身の「豊臣統一」社長は何を考え、どういう判断を下しているのか。電気自動車開発で遅れを取った焦燥、取り巻き達の追従、幹部社員の背信など、リアルな描写。作中で描かれているストーリーは、現在と近未来の自動車業界を知る上で多くの示唆に富んでいる。


どうしても気になる登場人物のモデルたち

 梶山氏は、取材で得た分厚い情報をもとに本作も書いているのは間違いない。それだけにトヨタ自動車や、一次、二次、三次とすそ野の広い下請け企業群を形成する自動車業界の今を理解するうえで、これほど参考になる“資料”はなかなかお目にかかれないだろう。

 そこで、ネット検索の結果も踏まえ、「この登場人物のモデルはこの人」と思われる対照表を勝手に作成してみた。自動車業界を取材するジャーナリストによれば、ここに挙げなかった人物も、やはり実在のモデルがいるという。

『トヨトミの逆襲』登場人物のモデル(推定、敬称略)

豊臣統一:豊田章男(トヨタ社長)
豊臣太助(始祖):トヨタグループ始祖の豊田佐吉
豊臣勝一郎(トヨトミ初代社長):豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)
豊臣新太郎:豊田章一郎(豊田章男の実父でトヨタ名誉会長)
豊臣史郎:豊田英二(トヨタ元社長)
豊臣芳夫(トヨトミ元社長):豊田達郎(トヨタ元社長で豊田章一郎実弟)
豊臣博芳(尾張電子常務):豊田達也(デンソー元常務役員、豊田達郎長男)。デンソーセールス副社長に転じた後に同社も退社。その後の役職は不明
藤島保己(藤島ブレーキ社長):信元久隆(曙ブレーキ工業前社長)
笠原辰男(トヨトミ専務):上田達郎(トヨタ執行役員)
照市茂彦(トヨトミ副社長):寺師茂樹(トヨタ副社長)
向田邦久(トヨトミ専務):牟田弘文(トヨタ元専務、現日野自動車副社長)
林公平(尾張電子副会長⇒トヨトミ相談役⇒トヨトミ副社長):小林耕士(元デンソー副会長、現トヨタ副社長)
武田剛平(トヨトミ元社長):奥田碩(トヨタ元社長)
岸部慎介(内閣総理大臣):安倍晋三(内閣総理大臣)
宋正一(ワールドビジョン・グループ社長兼会長):孫正義(ソフトバンクグループ会長兼社長)
沢田宗太郎(沢田自動車創業者):本田宗一郎(本田技研工業=ホンダ創業者)
バーナード・トライブ(米大統領):ドナルド・トランプ(米大統領)
ジャッキー・ワン(アラジン・グループ創業者):ジャック・マー(アリババ創業者)
北岡良平(日商新聞元トヨトミ担当デスク、トヨトミに出向して豊臣統一の秘書):西岡貴司(日経新聞経済部次長、2019年10月1日付でトヨタの総務・人事本部付に)
内海加奈子(元レースクイーンでキャラクター・デザインの制作会社経営):奥野静香(元キャンペーンガール、キャラズ代表取締役。故人)

 梶山氏がモデルにしていると思われる人物を思い浮かべながら読むと、なおリアルで生々しい自動車産業のさまざまな現場が立ち上ってくる。

 ちなみに、その実名は教えてもらえなかったが、本作で陰の主人公ともいえる、三重県・伊賀の山里にある小さな会社を率いて奮闘する森敦志(森製作所社長)も「モデルが実在する」(加藤氏)のだそうだ。

筆者:阿部 崇

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