韓国で増殖する「ビットコイン・ゾンビ」の正体

12月17日(火)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

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韓国で「ビットコイン・ゾンビ」と呼ばれる若者が増えている。どうせまともな仕事には就けないと、お金と時間を仮想通貨につぎ込んでいるのだ。ジャーナリストの金敬哲氏は「史上最悪の失業率や所得格差の拡大によって経済的弱者に追い込まれた韓国の若者たちは、仮想通貨で人生逆転を夢見ている」という——。

※本稿は、金 敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/gremlin
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■世界一熱かった韓国の仮想通貨ブーム


「仮想通貨元年」と言われた2017年、韓国の仮想通貨ブームは世界のどこよりも熱かった。2018年3月7日に発表された、韓国金融投資者保護財団の「2017年仮想マネー利用者調査」(20〜69歳までの都市居住者が対象)によると、回答者の13.9%が2017年中に仮想通貨に投資した経験があると答えた。




金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)

特に、20代の22.9%、30代の19.4%が仮想通貨に投資した経験があるとし、韓国の仮想通貨ブームは若い世代が牽引していることがわかった。韓国最大の仮想通貨取引所である「ビッソム」の資料によると、韓国市場の月別の仮想通貨取引額は、2017年12月に56兆2944億ウォン(約5兆1000億円)と、同年1月(3000億ウォン)の187倍にも達した。たったの1年で、コスダック(韓国版ナスダック)市場の月平均取引額の80%を超える規模にまで成長したのだ。


韓国では現在、300万人以上いると言われている仮想通貨投資者の60%が20代と30代だ。一攫千金を狙う若者たちと、「シードマネー(種銭)」で結婚準備やマイホーム購入のためのまとまった金を作ろうとする若い層が、仮想通貨市場に殺到したのだ。


2018年1月、韓国の地上波放送SBSは、仮想通貨に8万ウォン投資して280億ウォン儲けたという23歳の青年のインタビューを放送した。しかも、インタビューをしている2時間の間に約30億ウォン増え、その場で2000万ウォンを現金化する様子を流し、多くの韓国人を驚愕させた。



■「人生逆転」を夢見る追い込まれた若者


史上最悪の失業率や所得格差の拡大によって経済的弱者に追い込まれた韓国の若者たちは、仮想通貨で人生逆転を夢見ている。


専門家たちは、韓国の青年層が仮想通貨に入れ込む背景として、①所得・貧富の格差など社会格差の拡大、②機会の不平等、③相対的はく奪感などを挙げ、若者たちの間に様々な社会的問題を解決するより現実から逃げようとする態度が広がっていると指摘する。


つまり、正常な方法でお金を稼ぐよりも、一攫千金を夢見る土壌が出来上がっているということだ。就職をあきらめて、お金と時間を仮想通貨につぎ込む若者たちを、韓国では「ビットコイン・ゾンビ」と呼び、大きな問題になっている。


インターネットの仮想通貨コミュニティでは「銀行から融資を受けて、仮想通貨に投資している」という書き込みで溢れており、金融監督委員会は、信用貸出が急激に増加したことと仮想通貨の関連性について調査を行っている。


米国のブルームバーグ通信は2017年12月に「韓国ではビットコインがブームとなって爆発的な広がりを見せ、一種の『グラウンド・ゼロ(爆心地)』状態になっている」と警告したほどだ。


文在寅政権が規制案を示すが…


仮想通貨市場が過熱し、これによる被害が社会問題化すると、韓国政府は仮想通貨取引を厳しく規制する案を速やかに検討すると公式に発表した。これまでに文在寅政権が打ち出した規制案は、韓国内のICO(新規仮想通貨の公開)の全面禁止(海外のICOに対する韓国人の投資は可能)、取引実名制の導入、取引所に銀行が仮想口座を新規開設することの全面禁止などだ。


しかし、政府のこうした規制に対し、韓国の若者たちは怒りの声をあげている。大統領府の国民請願の掲示板には「政府はこれまで一度でも国民が未来を夢見ることを許してくれたことがあったか!」というタイトルで、仮想通貨規制に反対する請願を掲載し、20日間で20万人を超える賛成票を獲得した。


インターネットでは「総選挙の時に、与党や政府を懲らしめてやろう」というスローガンが、長期間、検索語の1位を記録した。今、韓国の若者の間では、いくら頑張っても親から受け継いだ地位を変えることはできない、自分の階層は変わらないという考えが支配的だ。


階層移動ができなくなった社会で、「仮想通貨だけが投資した分だけ稼ぐチャンスを得られる。公正に機会を与えてくれる」と、彼らは主張するのだ。



■エリート大学卒でも見つからない就職先


韓国教育部が発表した「2017年の高等教育機関卒業者の就職統計」によると、大学卒業生の就職率は66.2%だった。その内訳を見ると、医薬系学部と理工系学部の卒業生の就職率がそれぞれ82.8%と70.1%なのに比べ、人文系学部の卒業生の就職率は56.0%と唯一60%を超えることができなかった。日々厳しさを増す韓国の就職市場の中でも、最も不利なのがこの人文系出身者だ。


「え? 本当に人文系出身者の就職率が56.0%にもなるんですか。私の周りにまともに就職できた人なんてほとんどいないのに、不思議ですね」


ソウル市立大学・歴史学科4年に在学中の女子学生チェ・チョンミンさん(24歳)は、教育部の統計に首を傾げた。


ソウル市立大学はソウル市が設立した公立大学で、「半額登録金」という安い授業料で学生たちに人気だ。専攻によって違いはあるが、ソウルにある私立大学の授業料が年間800万〜1000万ウォンが相場なのに対し、ソウル市立大学の授業料は1年間に240万ウォンと、全国でもいちばん安い。そのため、今では、全国から優秀な学生が集まる名門大学に成長した。


ソウル市立大学に入学するためには、全国の受験生の上位7〜8%に入る成績でなければむずかしいとされる。チェさんは、1年間の浪人生活を経てソウル市立大学の歴史学科に入学した。しかし、エリート大学の4年生になったチェさんは、もう一度入試の時と同じような地獄を経験している。


「歴史学科は専攻を活かせる仕事があまりないため、就職率が低いので有名です。うちの学科の定員は28人ですが、1年上の先輩たちを見ると、一人も大手企業に就職できませんでした。最も良かったケースが公務員になった先輩だと聞きました。同期の中で今年卒業したのは3人だけで、残りは全員卒業を猶予しています。私は1年間休学したのでまだ4年生ですが、来年の1学期まで卒業猶予を申請して就職活動するつもりです」


■増え続ける「就職準備生」


浪人と休学によって、同期より2歳年上のチェさんだが、就職できるという保証がない限り卒業するつもりはないという。既卒者は新卒より就職市場で不利だという先輩のアドバイスがあったからだ。


「会社側は履歴書に空白がある人を嫌うみたいです。大学を卒業してから何もせずひたすら就職準備をしていたら、活動的でない、実力が足りない、怠けているなどの否定的イメージを持たれてしまいます。だから、最近は卒業を猶予する人がとても多くなっています。うちの大学は、授業料の10%程度を払えば、卒業を1学期先送りすることができるんです」



卒業に必要な単位をすべて修得していながら、卒業論文を出さないなどの方法で卒業を先送りして、就活に邁進する学生たちを「就職準備生」と呼ぶ。就職市場が悪化し、就職準備生は日増しに増加している。


2017年11月、「アルバモン」という韓国の有名就職サイトが卒業予定者らを対象に調べたところ、「就職のために卒業を猶予する」と答えた学生はおよそ55%にものぼった。特に、就職に不利とされる人文系では70.9%が卒業を先送りすると答えた。


■お金を払ってでも学生の身分を買わざるを得ない


しかし、大学側からすると、授業料を払わずに、あるいは少額の授業料だけで学生という身分を維持しようとする就職準備生たちは好ましい存在ではない。そこで、卒業を猶予するためには、少なくとも1科目(単位)以上の履修登録をしなければならないという条件を掲げた大学も多い。


2017年2月、教育部が140の大学を対象に調査した「卒業猶予の生徒数および総登録金現状」によると、卒業猶予制度がある104大学のうち67(65%)の大学が卒業猶予生たちに履修登録を義務づけていた。


1学期の卒業猶予のために1つ以上の単位を履修登録するとすれば、私立大学の場合、平均60万〜70万ウォンの受講料を払わなければならない。よって、学生たちの間では「就職難のせいで金を払って在学生の身分を買わなければならない」という批判が出ている。


就職準備のための塾の費用など経済的な負担が大きい彼らに、必要でもない単位の履修登録を強要する大学に対する不満である。結局、国会は「卒業猶予生登録金の強制徴収禁止法」と呼ばれる高等教育法改正案をまとめ、2018年10月から施行した。


この法律によると、大学側は卒業猶予生に受講や登録金納付を強制できない。だが、大学は、図書館や食堂などの施設使用料や就業科目受講料などの名目で、依然として卒業猶予生から数十万ウォンのお金を徴収している。


法律は受講義務を禁止しているだけだから問題ないというのが大学側の立場だ。結局、法律が変わっても、学生たちの負担は軽くならないままだ。



■就活で何より重要なのがインターンシップ


前出のチェさんは、高校時代から、卒業後は自動的に警察に入れる警察大学を目標としていたが、2回受験に失敗し、代わりにソウル市立大学の歴史学科に入学した。人文系専攻かつ女子学生というダブルハンディを克服するため、チェさんは、大学入学当初から、コツコツと就職に必要なスキルを磨いてきた。


「映画業界への就職を目指しています。中華圏で韓流が人気なので、中国語を勉強し、大学2年を終えたところで、1年間休学して台湾へ短期留学に行ってきました。帰ってきて3年になると、映画アカデミーという塾に通って、映画関連会社に就職するためのポートフォリオの作成と映画の実務を学びました。ほかにも、TOEICやTOEICSPEA KINGの資格、コンピューターの資格などを取りました。語学はもっと点数を高くしないといけないので、今も英語と中国語の勉強を続けています」


しかし、就活で何より重要なのは「インターンシップ」だと、チェさんは言う。


「映画配給会社は、大学の専攻に制限を設けていないので、人文系の女子学生に最も人気のある就職先です。私が第1志望として狙っているCJE&Mは、韓国の企業順位で15位のCJグループに属していて、韓国No.1の映画会社です。国内の採用数はいつも一桁なので競争率は数百倍になります。一応、今年9月にある下半期の公採(公開の採用試験)に願書を出すつもりですが、正直、一度で合格できるとは思っていません。むしろ、10月にあるインターン募集が本命です」


■インターンが採用に直結するケースも


韓国の企業は、インターンシップを採用活動に積極的に使っている。正規採用とは別にインターンを募集して、インターン期間中の業務評価を見て、正社員に転換させるケースも多い。


また、インターン後に正社員として採用されなくても、2カ月から長ければ6カ月の間、企業文化や実務を経験することができるインターンシップは、学生たちの就職活動に重要なスペックとなっている。


そのため、インターンになるには就職に負けないくらい狭き門をくぐらなければならないと、チェさんは説明する。



「就職準備生が集まっているインターネットコミュニティで、インターン経験があるという人たちのコメントを見ると、大手企業のインターン採用競争率は数百倍にもなります。地方の某格安航空会社のインターン採用競争率が180倍だったというニュースも聞きました。インターンになるためには、就職と同様に、関連書類を提出して筆記試験と面接も受けなければなりません」


「特にインターン用の自己紹介文は形式が定められた入社試験用とは異なり、自由に書きたい内容が書けるので作成スキルが非常に大事です。私は夏休みから、インターネットコミュニティで出会った人たちとスタディーグループを作りました。4〜5人で定期的に会って、それぞれの自己紹介文を評価し合い、アドバイスする勉強会です」


■使い捨てされる「ティッシュインターン」


正社員への転換率が高く、経歴にも大いに役立つ大手企業や公共企業のインターンは「金ターン(金+インターン)」と呼ばれる。金のように貴重なインターンという意味だ。「貴族インターン」とも言われる。


一方で、中小企業のインターンなどでは、人手不足を補うため単純作業ばかりさせられるケースが多く、わずかな月給で、残業はもちろん、週末まで勤務しなければならない場合も少なくない。


首都圏にある大学の国文科を卒業して、現在、公務員試験の勉強に励んでいるキム・ソンギュンさん(30歳)は、3年前、ある雑誌社で3カ月間、無給インターンをした。


「4年生の時、教授の推薦で雑誌社にインターンとして入ったのですが、給料はまったくもらえませんでした。最初から給料はないという話は聞いていたので、ある程度覚悟はできていたつもりだったのですが、交通費や食事代まで自腹だったので、経済的に大変でした。経験を積むことができるかなと思っていたのですが、資料のコピーや車の運転、記者のインタビューのテープ起こしなど、単純作業ばかりでした。結局、経済的な問題と、就職には役に立ちそうもないと判断し、会社からはインターン期間の延長を提案されましたがお断りしました」


キムさんが経験したようなインターンを指す言葉として、「土ターン」(土+インターン)、あるいは「ティッシュインターン」という流行語がある。


「土ターン」は、韓国の若者の間で最下層を示す「土のスプーン」と「インターン」の合成語だ。「ティッシュインターン」は、ティッシュのように一度使って簡単に捨てられるインターンという意味だ。



■低賃金や無給で働かせる「情熱ペイ」が流行語に


仕事を経験したい若者たちの「情熱」を利用して、低賃金や無給で働かせることから、「情熱ペイ」という流行語も誕生した。


2014年、韓国の代表的なオープンマーケット(インターネットショッピングモール)であるウィメプと有名デザイナーが、この「情熱ペイ」論議に巻き込まれる事件があった。ウィメプは正社員転換を条件に11人のインターンを採用したが、契約期間が過ぎると、容赦なく解雇して批判を浴びた。


元韓国代表フィギュアスケート選手キム・ヨナさんの衣装をデザインしたこともある人気デザイナーの李相奉氏は、10万ウォン(約9000円)の給料でインターンを採用したという疑惑で叩かれた。


インターンの「情熱ペイ」問題は民間企業に限らない。2015年の国会の調査によると、韓国政府が海外公館に派遣した実習インターン生の87%が無給で働いていたという。超競争社会の韓国では、正社員だけでなくインターンにも、激しい競争と序列が存在するのだ。



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金 敬哲(キム・キョンチョル)

フリージャーナリスト

韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て、現在はフリージャーナリスト。

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(フリージャーナリスト 金 敬哲)

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