韓国人男性が「美容整形」に走る実に不憫なワケ

12月23日(月)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bombaert

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韓国の中年男性は職場でも家庭でも崖っぷちに立たされている。ジャーナリストの金敬哲氏は「中年男性は迫りくるリストラの恐怖と背中合わせだ。韓国社会は人の目を過剰に意識する『体面文化』があるため、美容整形をしてでも外見を保ち、競争に生き残ろうとしている」という——。

※本稿は、金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/Bombaert
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■「犬」と侮辱される韓国の中年男性たち


中小企業で次長を務めるファン・ソンミンさん(47歳)は、自分を典型的な中年とは思っていなかった。しかし、ある日、女性社員たちが、こっそり自分のことを「ゲジョシ」と呼んでいるのを聞いて愕然(がくぜん)としてしまった。




金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)

「ゲジョシ」とは、犬(ゲ)とおじさん(アジョシ)の合成語で、「品の悪い中年男性」に対して、若い世代が軽蔑を込めて使う流行語だ。ファンさんは、自分がなぜ「ゲジョシ」と呼ばれるのか理解できなかった。


失礼だという思いが頭の中を過ったが、だからといって彼女たちを呼んで問いただすわけにもいかない。ファンさんはすぐにインターネットで検索し、〈ゲジョシ・チェックリスト〉というのを見つけ出した。


「ゲジョシ」とは、40〜50代の、権威的で自身の利益のためには他人の迷惑を顧みない男性のことを指す。女性や社会的弱者には強いが、立場が上の人には弱いのが特徴。次の項目のうち、一つでも該当すれば、あなたもゲジョシだ!



■これが韓国の「犬おじさん」リストだ


①コーヒー(お茶)は、女性が淹(い)れてくれたほうがうまいと思う。

②女性あるいは店の従業員が自分より若そうだと、すぐにため口を使う。

③自分が間違っていても、後輩の前ではひとまず自説を言い張る。

④地下鉄で周りの人たちを気にせず、足を広げて座る。

⑤相手をよく知るために、私生活を詳しく聞き出す。

⑥飲み会も業務の延長! 一人残らず出席すべきだ。

⑦部下に、業務以外の個人的な仕事をさせたことがある。

⑧自分の価値観を人に押し付ける。

⑨酔っぱらって、公共の場所で大声で騒いだことがある。

⑩その気になれば、自分より10歳以上若い女性とも付き合うことができると思う。


「確かにゲジョシだ」ファンさんは呆然とした。ファンさんは、月に2〜3回、仕事が終わった後、部下を連れて飲み会を開いていた。すべて自腹である。一人暮らしの部下たちに栄養補給させるとともに、仕事のストレスを解消してやりたいと思ったからだ。


飲み会ではいつも部下の私生活を話題にした。


「君はどうしてまだ結婚しないんだ」「好きなタイプは?」「男っていうのはね……」「私が若いときは……」


可愛(かわい)い部下たちの相談に乗っているつもりだったが、ファンさんのこうした行動は全部、部下には「ゲジョシ」と見なされていたのだ。


■若者たちの反撃。中年男性への厳しい視線


韓国で「犬」という言葉は、相手を蔑(さげす)む接頭辞としてよく使われる。


ひどく汚れた席のことを「犬場(ゲパン)」といい、人をけなす時は「犬のような○○」「犬以下の○○」と言ったりする。人類最高のペットである犬が、なぜ韓国でこれほど冷遇されるのかという議論はさておき、犬をおじさんと合体させた「ゲジョシ」という造語の誕生は、韓国の中年男性に大きな衝撃を与えた。


韓国では、「ゲジョシ」は、既得権者である中年男性に対する青年世代の反撃の狼煙(のろし)と言われる。社会的な強者である中年男性への不満を、若者たちは自分が強者になれる「インターネット」空間で、造語の形で吐き出したのだ。


そして、これがオフラインにまで進出した。韓国の中年層が青年だった時代は、上司や年長者の権威的な行動を容認するムードがあった。かつては部長、あるいは課長、いや係長でさえも、部下たちの前で大言壮語し、気に入らない行動を指摘するのはもちろん、自分が生きてきた時代と比べて「昔はこうだった」と部下を叱った。



しかし、現在の韓国社会は、中年男性にも厳しい視線を向ける。「ゲジョシ」という言葉を作り、彼らが何気なくとってしまう行動を一つ一つ指摘するのだ。職場にお客さんが来たとき、女性社員にコーヒーを頼むと「ゲジョシ」になる。


■「犬」と呼ばれないよう若者の機嫌を伺う


部下に30分早く出勤して会議の準備をするよう頼んでも「ゲジョシ」になる。飲み会で携帯電話ばかり見ている部下を注意しても「ゲジョシ」になる。そんな世の中になったのだ。20年前、青年だった彼らが当然と思っていた上司の行動が、今や社会的な指弾を受ける「パワハラ」になってしまった。


今を生きる韓国の中年層は、「ゲジョシ」というレッテルを貼られないよう不断の努力をしなければならない。前出のファンさんも、ゲジョシからの脱却に向けて勉強を開始した。


「最近、インターネットで『アジェ・ギャグ(親父ギャグ)』を学んでいます。あと、娘や妻に、『こんな話をされたらどう思う?』と訊いたりして、女性社員に対する接し方を学んでいます。仕方ないですよ。管理職である私は、部下からも評価を受けなければなりません。若い部下たちに良くない評価でもされたら、人事で不利益を受けます。私のほうから彼らの機嫌を取るしかないのです」


■化粧品、整形手術も躊躇しない「美容男」


Kポップに続いてKビューティーが、韓流の新しい流れとして注目を集める中、韓国男性の美容ブームは、従来の「グルーミング(grooming)族」からさらに進化して、「グルダプター(Groo-dopter)族」を登場させた。


「グルーミング族」が美容やファッションに惜しみなく投資する男たちを指す造語だとすれば、「グルダプター族」はグルーミングとアーリーアダプター(early adopter)を合成した言葉で、美容のためなら化粧品はもちろん、整形手術も躊躇わない男たちを指す新語だ。


大手IT会社の役員を務めるキム・ギョンジュンさん(仮名・57歳)は、「グルーミング族」とはかけ離れた人物だった。顔が割れるように寒くて乾燥した冬でも、一度もローションを塗ったことがなかった彼が、数年前から百八十度変身し、若々しく見られるためなら整形手術も厭わない「美容男」になった。それは、40代前半の若い御曹司が会長の座に就いたことがきっかけだった。


「初めての役員会議の時、50〜60代の役員たちの間に座った会長が、どんなに若く見えたか。会長を見た瞬間、自分が老けていることに恐怖を感じました」



■「顧客の30%が中年の男性」


キムさんは妻に勧められて整形外科を訪問し、目元の脂肪を除去する手術と、眉間と額のしわを取り除く施術を受けた。おかげで今は「40代に見える」とよく言われる。


キムさんは、「私たちのようなサラリーマンにとって、老けて見えるというのは、ポストを明け渡す時が来たことを意味します。今後は肌の手入れを怠らず、せっかく若々しくなった顔をできるだけ維持したいと思っています」と話してくれた。


ソウルの「ビューティーベルト」と呼ばれる江南で、「バノバギ整形外科」を経営するパク・ジョンリム院長は、「うちの病院の場合、男性患者の割合が10%を超えています。最近は現役で働く期間が長くなったおかげで、若さを長く保ちたい中年男性が来院するケースが増えています」と説明する。


パク院長によると、同じ男性でも年齢によって整形したいポイントが違うという。


「就活を控えた20代の男性の場合は、善良かつ明るい印象を与えるために目や鼻の手術を希望することが多いです。一方、50〜60代の男性たちは、仕事を休まなくてもいい簡単な手術や美容注射を好みます。たとえば、ボトックスなどでしわを改善する治療などが人気です」


同じく江南にある「JF皮膚科」は、中年男性に人気の高いスキンクリニックの専門病院だ。顧客の30%が中年の男性で、大企業の役員から、弁護士や医師、学習塾の講師、さらには聖職者まで、その職業は多彩である。


チョン・チャンウ院長は、こう話す。「私たちの病院を訪れる中年男性の最大の目的は、若くて快活な印象の顔にすることです。ビジネスにおいて顔の印象は、その人の能力や信頼度にまで影響します」。


■人の目を過剰に意識する「体面文化」


チョン院長は、手術に消極的な中年男性のために、手術をせずに顔の輪郭としわを改善する「印象クリニック」を考案した。


「印象クリニックは、来院患者を対象に7年前から始めた講義です。手術なしで若々しい印象にするため、生活習慣の改善を指導しています。口コミで広がり、今は大企業、商工会議所、官公庁からも講義の依頼があります」


祥明大学消費者住居学科のイ・ジュンヨン教授は、韓国男性の美容ブームについて、「人の目を過剰に意識する『体面文化』に起因している」と分析する。



「韓国は基本的に外見に対する関心が強い国ですが、これは他人の目を強く意識する体面文化のせいです。ブランド物を持つのと同じ感覚で、容貌を整えて他人から認められたいという欲求があります。こうした『外貌至上主義』の社会では、外見も、お金や学歴、スキルと同様に、人が持つ資本の一つと見なされます」


韓国化粧品業界によれば、不況の中でも、男性化粧品市場は急成長しているという。2008年に約6000億ウォン(約550億円)だった男性化粧品市場は、毎年10%以上の成長を続け、2013年には1兆ウォンを超え、2018年には1兆2000億ウォンまで拡大した。


厳しい競争社会の中で、若々しい顔を「スペック」の一つと捉え、時間やお金を投資する男性が増えているのだ。


■40代でリストラ候補、過酷な生存競争


韓国の10大企業の一つ「ポスコ」(POSCO)のIT関連会社「ポスコICT」のチョン・ジェヒ理事は、大学でコンピューター工学を学んだ後、1990年に現在の会社に入社した。仕事をしながら大学院に通い、経営学博士も取得。そして、入社から28年後の2018年、ついに理事(平取締役)に就任、役員の座を射止めた。


「私は同期よりも2〜3年遅れて役員に昇進しました。普通なら49歳か50歳くらいで初の取締役になります。しかし、昇進が遅くなったのは、むしろ良かったと思っています。入社同期のうち、すでに半数以上が退職していて、私は今年で54歳だから長く持ちこたえたほうなんです」


「役員に昇進すると、その次からは2〜3年ごとに改選される役員の椅子をめぐって、30人ほどで競争しなければなりません。昇進レースから脱落したら、もう辞めるしかありません。韓国の大手企業の生存競争は殺伐としています。毎朝、出勤してIDカードを当てるとき、オフィスのドアが開かないと胸がどきどきします。とうとうクビになったのかって」


「うちの会社では、今年も100人程度のリストラが予定されています。40代後半から50代で、ここ3年間の実績を基に対象者を選びます。おかげで会社の雰囲気は氷のようです。それでもうちの会社はまだましです。サムスン電子では、40代になると、もうリストラ候補になります」



■「星」を目指したサラーリマンの本音


大手IT企業の東京支社に勤めるユン・ドンウォン次長は、すでに昇進をあきらめている。


「役員への昇進は、もうあきらめました。海外支社の主な業務は、本社から出張してくる役員をアテンドすることです。韓国の本社に勤務していた頃に比べると、ここでは本当に気楽です。私の年齢で海外支社に出されたということは、すでに出世コースからは外れたことを意味します」


「東京勤務を終えてソウル本社に戻っても、さほど良いポストは期待できません。通常、海外勤務は3年が原則ですが、1〜2年延長も可能です。どうせ出世はあきらめたので、なるべく長くこっちにいて、家族と旅行したり、プライベートの時間を楽しみたいです。韓国に帰ったら、また生存競争が始まりますから」


理事から始まる役員職は、すべてのサラリーマンが目指す「星」のような存在だ。ほとんどのサラリーマンは、この「星」に辿り着けるよう努力を惜しまない。しかし、大半は星に手が届かないまま、途中で脱落するのが現実だろう。


■49歳、54歳、在職は2年…


2014年10月、企業評価サイトの「CEOスコア」は、韓国30大企業グループの上場会社184社を対象に、社員に占める役員の割合を調査した。それによると、入社して役員にまでなれる確率は0.87%。つまり、役員の座につけるのは、115人のうち一人ということだ。


韓国の企業では、実力さえあれば、比較的若い年齢で理事職につける。大手企業の役員人事が行われる5月になると、サムスン電子や現代自動車など、韓国を代表する大手企業で30代の取締役が誕生したというニュースがマスコミを賑(にぎ)わす。


しかし、早く咲く花は早く散るもの。大手企業の役員の平均在職期間はたったの2年だ。企業情報分析会社の「韓国CXO研究所」は、2018年、韓国の売上高上位の10大企業の退職役員を対象に、役員たちの平均年齢と勤務年数などを全数調査して発表した。


これによると、韓国の10大企業で、初めて役員に抜擢(ばってき)される平均年齢は49.6歳、役員から退いた平均年齢は54.2歳だった。役員に抜擢されてから辞めるまでの役員在職期間は、2年が20.9%で最も多かった。次に3年(13.4%)、5年(11.6%)、6年(10.1%)の順である。役員になってからわずか1年で辞めたケースも5.4%あった。


CXO研究所のオ・イルソン所長は、この調査結果を「四九開花(49歳で役員に抜擢)、五四落花(54歳で役員退職)、花二絶頂(役員在職期間は2年)」と表現する。


「法的な定年は60歳だが、実際に企業内部で体感する退職年齢は、50代前半とはるかに低いのが現状です」



■迫るリストラの恐怖、踏ん張るしかない中年男性


大手企業の役員だけではない。大多数のサラリーマンにとって、中年退職は極めて深刻な問題だ。2015年、ソウル市が50〜64歳のソウル市民1000人を対象に実施した「ソウル市の50+(プラス)世代の人生二毛作の実態と欲求調査」によると、ソウルに住む男性の退職年齢は平均53歳、女性は平均48歳だった。


しかも、退職後の再就職率は53.3%にとどまる。平均寿命が82.6歳(2017年時点)の韓国で、50代前半で会社から追い出され、再就職の道も半ばふさがれているのだ。


就職サイトの「インクルート」が2018年に行ったアンケートによると、40代と50代の91%が、「中年失業率の増加を実感している」と答えた。その理由としては、「再就職を準備する40〜50代が増えた」「退職する40〜50代が増えた」「起業を準備する40〜50代が増えた」が挙げられている。


現在、韓国の経済状況は「IMF危機以降最悪」とも評価されている。最も深刻なのが青年の失業問題で、韓国統計庁によると、2019年4月現在、韓国全体の失業率は4.4%、青年失業率は11.5%と、どちらもIMF危機以後、最高水準だ。ここに、社会と家庭の中枢を担う中年の失業率も高まり、大きな社会問題となっている。


韓国の中年男性にとって、退職は死刑宣告と同じだ。若い頃は、良い待遇を求めてあちこち転職することも可能だが、40代半ばになると、いくら実力のあるサラリーマンでも転職はほぼ不可能になる。


迫りくるリストラの恐怖の中で、どうにか生き残れるよう踏ん張るしかないのだ。



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金 敬哲(キム・キョンチョル)

フリージャーナリスト

韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て、現在はフリージャーナリスト。

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(フリージャーナリスト 金 敬哲)

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