きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入

2023年12月19日(火)4時0分 JBpress

 日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長が、先進企業の生成AI活用法を大公開。本連載では、生成AIを企業に導入する手順、既存システムとの連携法、プロンプトエンジニアリング術にいたるまで実践的に解説した『生成AI導入の教科書』(小澤健祐著/ワン・パブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。国内企業のベストプラクティスを題材に、生成AIを生かしたビジネス変革の方法に迫る。

 第1回目は、日清食品ホールディングスにおける生成AIの活用事例を取り上げる。

<連載ラインアップ>
■第1回 きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入(本稿)
■第2回 ベネッセグループ1万5000人が使う「Benesse Chat」は、なぜ生まれたのか?(12月26日公開)
■第3回 ベネッセグループに学ぶ、生成AI導入「5つのステップ」と「壁」の乗り越え方(1月9日公開)
■第4回 日本最大級の求人情報サイト「バイトル」を運営するディップの生成AI活用法(1月16日公開)

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日清食品ホールディングス:圧倒的スピードでシステムを導入

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CIO(グループ情報責任者)

成田敏博さん 

——まずは、日清食品グループがどのように生成AIの活用に取り組まれているのか教えてください。

成田 現在は、〝NISSIN AI-chat poweredbyGPT-4〞という名称のシステムを導入し、誰もがチャットベースで生成AIとセキュアに対話できる環境を構築しました。このシステムはOpenAIのGPT4を基盤にしており、モバイル版とPC版の双方を提供しています。

 きっかけは、2023年の4月の入社式です。弊社の代表取締役社長・CEOである安藤宏基が新入社員向けのメッセージとして、ChatGPTで生成した文章を何パターンか披露しました。それらを通じて「テクノロジーを賢く使いこなすことで、短期間に多くの学びを得てほしい」というメッセージを伝え、新入社員一同を激励しました。安藤CEO自ら、入社式でChatGPTが生成したメッセージを披露したことで、出席者した役員や社員はみな「全社的に業務で生成AIを活用していくことになる」と感じたと思います。

 そこで、私たちIT部門はすぐに生成AI導入の検討を始め、1か月ほどの短期間で〝NISSIN AI-chat poweredbyGPT-4〞を社内で公開するに至りました。

——1か月とは凄まじいスピード感ですね。〝NISSIN AI-chat powered by GPT-4〞の仕組みについてもう少し詳しく教えてください。

成田 特にこだわったのは、コンプライアンス面でのリスクを軽減するために、利用する社員に向けて注意喚起のメッセージを表示するなど、自然とコンプライアンスを意識してもらえるようにした点です。さらに、初回ログイン時には安藤CEOからのメッセージが表示され、内容を承諾するボタンを押したうえで、注意事項を一つひとつチェックしなければ利用できない仕組みも取り入れています。もちろんガイドラインも策定しましたが、それだけでは十分と言えません。ですから、ユーザーインターフェースそのものに注意喚起の仕組みを実装したわけです。

 システム構成では、ユーザーインターフェースをMicrosoftのPower Appsを活用することで、トライアルアンドエラーを行いながら柔軟かつ効率的にアプリを構築していきました。また、バックエンドではBing Search APIと連携させてインターネットの情報を参照できるようにしたり、社内ストレージと連携して社内情報を分析・検索できるようにしたりする環境も構築しています。分析ツールを活用し、組織別、ユーザー別の利用動向をチェックできるようにもなっており、全社的な利用促進を進めています。

——コンプライアンスを意識させる設計になっているんですね。どのような流れで〝NISSIN AI-chat powered by GPT-4〞の開発を進めていったのでしょうか。

成田 先ほどもお話ししたとおり、4月3日の入社式が終わった直後にプロジェクトチームを立ち上げました。セキュリティ面における堅牢性の高さや機能構築の進めやすさなどを考慮してAzureOpen AI Serviceの採用を決めました。その後は、法務、内部監査、マーケティングや広報など社内の各部門と連携しながら、4月25日に〝NISSIN AI-chat powered by GPT-4〞を公開しています。

 しかし、公開しただけでは業務の生産性向上にはつながりません。いかに多くの社員を巻き込めるかが鍵になります。単に利用を促進するだけでなく、生成AIを利用するスキル自体の向上が必要です。生成AIを活用するスキルについては、上級者、中級者、初級者と習熟度に応じたプロンプトエンジニアリング研修を用意し、特に初級者向けの研修プログラムを手厚く実施しました。

 また、まずは営業部門を対象として、スキル向上に向けた施策を集中的に実施しています。現場から20名ほどの適任者を選抜してプロジェクトチームを作り、生成AIを適用することで効率化できる業務の洗い出し、プロンプトのテンプレートの作成を急ピッチで進めました。今後は、営業部門だけでなく、マーケティングや経営企画、財務経理、人事など、他の部署にも同様の取り組みを横展開し、生成AI活用の土台を底上げしていきたいと考えています。

——〝NISSIN AI-chat powered by GPT-4〞の導入や利用促進は、どのような体制で進められたのですか?

成田 10名強のメンバーでプロジェクトを進めました。具体的には、2名のプロジェクトマネージャーが中心となって、セキュリティ/コンプライアンス、利用促進、スキル向上、業務活用促進、効果検証、システムの高度化、問い合わせ対応など、メンバーで役割を分担して進めていきました。

——数日前の情報が古くなってしまうほどの速さで生成AIは発展しているなか、プロジェクトを進める難しさを感じている企業も多いと思います。

成田 生成AIに関しては、世の中に出てくる情報が目まぐるしく変わり、それまでの前提が変わってしまうことがよくあります。ですから、プロジェクト開始当初は「昨日行った意思決定を翌日には撤回する可能性がある」とメンバーに伝え、不確実性を受け入れながらプロジェクトを進める必要があることを理解してもらいました。曖昧な状況下で、前提を日々確認しつつ、リスクを許容しながらアジャイルに進めていったんです。

——その難しいミッション、どうしてこのスピード感で実現できたのでしょう。

成田 経営トップが新たなテクノロジーを積極的に取り入れていく姿勢を、いち早く全社に示してくれたことが大きいと思います。また、社風的にも失敗を恐れずにチャレンジすることが奨励されているので、安心してプロジェクトを進めることができました。

——現時点ではどのくらい浸透しているのですか。

成田 全社的な利用率はまだ16%程度です。先行して活用を進めている営業部門では、〝NISSIN AI-chat powered by GPT-4〞を利用することでどのくらいの作業時間が削減できるかを定量化し、そのうち17の業務についてテンプレートを作成し、実際に利用を始めています。

 今後は、こうした先行事例を社内で横展開し、各部門・各現場で具体的にどのような活用方法があるかを検討していく予定です。

 業種を問わず企業が生成AIを活用するうえで、最初に直面する課題が「利用率の向上」ではないでしょうか。私たちもまだまだ苦労していますが、これは壁に直面するタイミングが早めに訪れただけだと考えています。

——では、生成AIに関する日清食品グループの今後の展望を教えてください。

成田 生成AIをセキュアに活用できる環境の構築は、最初のステップにすぎません。社内の様々な問い合わせ対応業務の効率化を図ったり、基幹業務システムやRPAなどと連携して自動化・効率化できる業務を増やしたりしていきたいと思います。

 また、現在構築を進めている全社共通データベースについても、ユーザーがチャットベースで話しかけることで、データベースから整理された情報が自動抽出される環境を構築することを視野に入れており、ほかにも様々なユースケースを創り出していければと思っています。

<連載ラインアップ>
■第1回 きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入(本稿)
■第2回 ベネッセグループ1万5000人が使う「Benesse Chat」は、なぜ生まれたのか?(12月26日公開)
■第3回 ベネッセグループに学ぶ、生成AI導入「5つのステップ」と「壁」の乗り越え方(1月9日公開)
■第4回 日本最大級の求人情報サイト「バイトル」を運営するディップの生成AI活用法(1月16日公開)

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筆者:小澤 健祐

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