入れ墨は「温泉NG」なのに「銭湯OK」の意外なワケ

12月26日(木)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/QOcreative

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多くの温泉やスーパー銭湯は、入れ墨をした客の入浴を禁止している。一方、街の銭湯にそうした掲示はない。理崎智英弁護士は、「銭湯は地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設であり、公共性が高い。そのため、入れ墨をしているという理由だけで入浴を拒否することは、法律に違反する可能性がある」という——。

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■「公衆浴場法」という法律


私はよく子どもを連れて銭湯に行くのですが、入れ墨をしている人も普通に入浴しているのを目にします。私は特に気にはしませんが、怖いと感じる人もいるかもしれません。


銭湯側は入れ墨をしている人の入浴も認めているということですが、それでは、銭湯側は、入れ墨客の入浴を拒否することはできないのでしょうか。


入れ墨客の銭湯入浴拒否について法律上の問題点について検討したいと思います。


公衆浴場法では、伝染病にかかっていると認められる人に関しては、銭湯側は入浴を拒否しなければなりません(公衆浴場法4条)。


また、同法では、銭湯側は、浴槽内を著しく不潔にし、公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為をする人については、入浴を拒否することができると定められています(公衆浴場法5条)。


なお、いわゆるスーパー銭湯や温泉は、「その他公衆浴場」に分類され、物価統制令による入浴料金統制を受けません。つまり、低料金で統制されている銭湯よりも公共性が低く、入浴客を選ぶ権利も比較的あるとされています。そのため、スーパー銭湯側の判断で、特に法律の根拠なく、入れ墨客の入浴を拒否することも容認されていると言えます。



■入れ墨は公衆浴場法4条及び5条に抵触しないとされた


しかしながら、入れ墨をしているだけでは、伝染病にかかっているとは言えませんので、公衆浴場法4条に基づいて入れ墨客の入浴を拒否することはできません。


それでは、入れ墨客が「浴槽内を著しく不潔にし、公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為」をする可能性があるとして、公衆浴場法5条に基づき、入浴を拒否することができるのでしょうか。


平成29年2月21日、政府は、民進党(当時)の初鹿明博衆議院議員からの入れ墨がある人の公衆浴場での入浴に関する質問に対して、下記のような回答(閣議決定)をしています。


「御質問は、入れ墨がある者(以下「対象者」という。)が入れ墨があることのみをもって、公衆浴場法第4条に規定する伝染病の疾病にかかっている者(以下「り患者」という。)に該当するか否か、又は入れ墨があることのみをもって、対象者による公衆浴場における入浴が同法第5条第1項に規定する浴槽内を著しく不潔にし、その他公衆衛生に害を及ぼすおそれのある行為に該当するか否かというものであると考えられるところ、入れ墨があることのみをもって、対象者がり患者に該当し、又は当該入浴が当該行為に該当すると解することは困難である。」

■銭湯側の判断で入れ墨客を拒否しているところもある


すなわち、銭湯側は入れ墨がある客に対して、入れ墨があるという理由だけでは入浴を拒否することができないというのが政府の考え方です。


むしろ、政府としては、来年のオリンピックに向けて海外からの旅行客の増加が見込まれ、旅行客の中には入れ墨(タトゥー)をしている人も多くいることが予想されることから、日本温泉協会などに対して、入れ墨をしていることだけを理由に入浴を拒否するのは適切ではない旨の通知をしているくらいです。


しかしながら、入れ墨は暴力団の象徴ですので、銭湯を利用する客の中には、入れ墨客に対して恐怖心を抱き、同じお風呂には入りたくないと思う人も少なくはないと思います。


そのため、入れ墨をしていない客に対する配慮から、銭湯側の判断で、入れ墨客に対しては入浴を拒否するという対応をとっている銭湯もあるそうです。


上記のとおり、銭湯側が、入れ墨客に対して入れ墨をしているという理由だけで入浴を拒否することは法律に違反する可能性がありますので、入れ墨客から不当な入浴拒否をされたことを理由に慰謝料の支払いを求められて裁判を起こされた場合には、銭湯側が敗訴する可能性はあると思います。



■外国人の入浴を一律に拒否した銭湯をめぐる裁判例


ここで、銭湯側が外国人に対して一律に入浴拒否をしたという事案において、拒否された外国人が銭湯側に対して損害賠償請求をしたという裁判例がありますので、ご紹介します。


銭湯側としては、土足で入場する、浴室に酒を持ち込み、飲酒しながら大声で騒ぐ、体に石けんをつけたまま浴槽に入るなどの迷惑行為をする外国人の入浴客が多く、他の利用者からの苦情が相次いだことから、外国人の入浴を一律に禁止したものであり、営業の自由に基づく措置であるから適法であると主張して争いました。


しかし、裁判所は、公衆浴場の公共性に照らすと、銭湯側は、可能な限りの努力をもって、マナー違反者を指導したり、指導に従わない場合にはマナー違反者を退場させたりするなどの方法を実行すべきであり、当該方法が容易でないからといって、安易にすべての外国人の利用を一律に拒否するのは明らかに合理性を欠くものというべきである、としたうえで、外国人一律入浴拒否の方法によってなされた入浴拒否は、不合理な差別であって、社会的に許容しうる限度を超えているものといえるから、違法であって不法行為にあたるとの判断をしました。


■一律に禁止するのではなく、柔軟な対応を


そして、結論としては、原告1人あたり100万円の損害賠償請求が認められました(札幌地裁平成14年11月11日判決)。


入れ墨客の入浴拒否についての裁判例はまだありませんが、上記札幌地裁の考え方が参考になるかもしれません。銭湯側としても、入れ墨客を一律に入浴拒否するという対応をとるのではなく、特定の曜日や時間帯に限ったり、入れ墨をシールで隠してもらえれば入浴を認めるなど、入れ墨客に対する配慮をしているのであれば、銭湯側の責任が認められない可能性は高いとは思います。



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理崎 智英(りざき・ともひで)

弁護士

1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。

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(弁護士 理崎 智英)

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