菅首相の感染防止策、「年末年始は静かに」で終いか

12月28日(月)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 菅義偉首相は、新型コロナウイルス感染症に関して、12月25日に記者会見を開き、さらなる感染拡大を避けるため、この年末年始について、こう述べている。

「家族や大切な方と少人数で静かにお過ごしいただきたいと思います。一日も早く感染を収束させ、感染が始まる前と同様の日常を取り戻し、希望に満ちた社会を実現するために、是非お力をお貸しいただきますようによろしくお願いいたします」

 まったく意味がわからない。

 なぜなら、「一日も早く感染を収束」と「感染が始まる前と同様の日常」を取り戻すとは、どういうことなのか。どうやって感染を収束させるのか、いつまでに感染が始まる前と同じ日常を取り戻すのか、そのプロセスや目標設定がまったく不明だからだ。


「これ以上状況を悪化させないために大人しくしていろ」

 例えば、2003年に中国、香港、台湾で猛威を振るった新型コロナウイルスのSARS(重症呼吸器症候群)は、前年の11月に発生したとされ、WHO(世界保健機関)が「終息宣言」を出したのは7月5日のことだ。その日までに、市中からウイルスを消し去ることができたことを認めてのことだった。私はその時点まで現地で取材を進めていたから、当時のことも重々承知している。

 収束というのであれば、蔓延するウイルスをどのように封じ込めるのか示す必要がある。そうではなくて、首相のいうところは、「これ以上状況を悪化させないために大人しくしていろ」と言っているに過ぎない。


正月休みが終われば「かなりの蓋然性をもって感染拡大」

 菅首相は19日に、都内で開催された2020年報道写真展を訪れ、そこでも記者団にこう語っている。

「このコロナ禍の前の写真のように、多くの皆さんが自由に活動できるような、そんな社会を一日も早く取り戻す。国民の命と暮らしを守るのが私の使命だと、改めて再認識いたしました」

 意気込みと言葉は立派だが、裏付けとなる具体策がまったくない。

 25日の会見では、

「まずはワクチン接種が始まるまでの間、医療体制を何とか持ちこたえられるように静かな年末年始を重ねてよろしくお願いいたします」

 とも述べていることから、ワクチンを期待してのものなのだろうが、それではいつのことになるかわからず、「一日も早く感染を収束」なんて言葉はそぐわない。ワクチンの接種が始まってすぐに以前の日常が戻るわけでもない。

 それどころか、その翌日26日には東京都で感染者が過去最高の949人を記録し、初めて900人を超えた。全国でも3881人と過去最多となり、感染拡大に歯止めがかからなくなっている。

 しかも、25日の会見で横に並んで同席した政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、こう言及している。

「年末年始が始まると、人の流れは一定程度抑制されると思います。しかし、ここで私は強調させていただきたいのは、年末年始が終わりますと、社会経済活動が活発になりまして、感染がまた再び急増する可能性が極めて高いと思います」

「先ほど申しましたように、年末年始の休暇が終わると、ほぼ、かなりの蓋然性をもって感染拡大が行きますので、それを防ぐために今の時期にできるだけ急所を押さえて、なるべく感染を下の方に転化していくことが極めて重要だと思います」

 いまより酷くなることを「かなりの蓋然性をもって」宣言している。


感染抑止失敗のツケを国民に

 同日の会見で首相は「感染対策として最も効果的と言われるのが、飲食店の(営業)時間短縮」とした上で、こうも言及している。

「飲食店の時間短縮については、給付金と罰則をセットで、より実効的な措置が採れるように特措法の改正を検討します」

 ちょっと待っていただきたい。今般の「第3波」と呼ばれる感染拡大をここまで大きくした要因はなんだったのか。

 再び感染が拡大してきた11月の末になって、政府は「勝負の3週間」を設定するも失敗。慌てたように菅首相がGo To トラベルを全国一律で停止することを表明している。つまり、Go To トラベルによる人の移動が感染を拡大させたことを露骨に表すものであって、そのためにこの年末年始を静かに過ごすように呼びかけている。Go To トラベルは明らかに失政だった。飲食店での会食を促すGo To イートに関しては、ウイルスのためにあるようなものだ。

 これを肝煎りで進めたのが前政権の官房長官時代からの菅首相であることは、国民の知るところだ。その停止の時期も遅きに失した。

 今度はその政策の失敗を補うために、国民を罰則で締め付けようとする。

 こんなに酷い政治が戦後の日本にあっただろうか。

 中国共産党より酷い。


収束への具体策も道筋も示さず罰則だけ強化とは

 今年の中国の強硬姿勢は目を見張るものがあった。国家安全維持法を成立させ、香港を呑み込んでしまったことは、その象徴だ。

 それと同じように国内の取締りも厳しい。だが、それでも国家としてまとまっていられる理由のひとつには、経済成長が続いているからだ。国家資本主義も曲がりなりに国民の生活を裕福にさせているからだ。恩恵をもたらしているからだ。新型コロナウイルスの影響からいち早く抜け出した中国は、2020年代の終わりにはGDPで米国を抜いて、世界一になるという見方が出てきている。

 飲食店の時短営業に罰則を設けたところで、いったいいつこのコロナ禍が収束するのか。それ以前の日常をどのように取り戻せるのか。全く道筋が見えてこない。それはもはや恐怖政治に近い。戦前に逆戻りだ。

 目的の曖昧さと二重性による失敗、同じことの繰り返しによる敗北については、再三書いてきた。

(参考記事)対コロナで大戦時の失敗繰り返す「亡国の菅内閣」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63336

 会食を慎むように呼びかけても国民がそっぽを向くようになった事情も書いた。

(参考記事)第3波来襲でも、なぜ人々は会食を止められないのか
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63430

 それで今度は曖昧な言語で先行きを示され、罰則が付いて来るようなら、この国の政治はどうかしている。

 首相の繰り出す言葉には、具体性はおろか、魂すら込められていない。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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