日産ナンバー3が電撃退任! 凋落する日本自動車産業に未来はあるか?

12月29日(日)6時0分 文春オンライン

 クリスマスイブの夜、発足したばかりの日産自動車の新体制が崩壊した——。


 日産自動車の執行部門ナンバー3で副最高執行責任者(副COO)の関潤氏が近く退任し、2020年4月以降にモーター大手の日本電産社長に就任する見通しが明らかになったのだ。日産は西川廣人・前社長兼CEOが社内規定に反した報酬を得ていたことが発覚、9月16日に事実上の引責辞任に追い込まれた。それを受けて、社外取締役らで構成される指名委員会が10月8日、後任に内田誠専務を昇格させることを決めた。


 同時にナンバー2であるCOOにルノー出身のアシュワニ・グプタ氏、副COOに関氏が就くことも決め、トップ3の「トロイカ体制」での事業推進体制にした。2020年1月1日までに新体制に移行する方針を示していたが、1カ月前倒しして12月1日付で新体制が発足したばかりだった。



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関氏を“排除”したルノー・スナール会長


「トロイカ体制」では、内田氏が主に筆頭株主であるルノーとの交渉や協業、グプタ氏が生産や販売などの通常業務、関氏が経営再建計画と商品企画、次世代モビリティをそれぞれ担う体制になった。序列がナンバー3とはいえ、関氏の担務が日産の早期業績回復のためには最も重責で、氏が「影の社長」と見る向きもあった。


 日産関係者がこう説明する。


「実は社長には関氏が就く可能性が最も高かった。日産社内も販売店も、部品を供給する取引先もそれを望んでいた。なぜなら、この3人の中では、実績、経営者としての能力が断トツだからです。3人の中では関氏だけが生え抜きで、生産、販売、商品開発などグローバルに幅広い経験をしており、人望もあった。社内をまとめて一丸となって再生するためにも関氏が適任だった」



 ではなぜ、社長に最も適任と見られた人物が社長になれなかったのか。ズバリ言うが、指名委員会が判断ミスをしたからだ。


 前出・日産関係者が語る。


「6人で構成される指名委員会でも社長に関氏を推す声が強く、いったんは関氏で決まりかけたが、指名委員になっているルノーのスナール会長が『関はルノーと距離を置こうとした西川前社長に近いからだめだ』と言って強硬に反対し、流れが変わった」


 ある日産幹部もこう解説する。



「指名委員会委員長である筆頭社外取締役の豊田正和氏(元経済産業審議官)が関氏で押し切ればよかったのに、スナール氏の顔色をうかがい、すり寄った結果、新社長は内田氏に変わってしまった。


 しかし、内田氏には社内をまとめて今の難局を乗り切る手腕はないので、関氏をナンバー3に位置付け、仕事だけは最も重い役目を担わせた。所詮、豊田氏は元官僚で忖度上手。民間企業の経営の経験もなく、誰が社長に適任かという見識をもっていない」



 一見、柔和で紳士に見えるスナール氏は、実は、ゴーン氏に負けず劣らず策士で、凄腕の経営者だと言われる。関氏は、実は「西川派」ではないが、スナール氏はそう決めつけた。実際のところは、関氏の経営手腕を手ごわいと見て、ルノーの言いなりに動かないであろう関氏を排除したかったのだと筆者は見る。「内田氏は勉強熱心で紳士的ではあるが、決断力に欠け、上の指示に従順に動くタイプ」(前出・関係者)と言われる。スナール氏にとって、内田氏は「傀儡」にするにはうってつけだったのだ。


日本電産・永守会長の老獪さ


 こうした日産のトップ人事の動きを、裸一貫から日本電産を売上高1兆5000億円の企業に育てた永守重信・同社会長は見逃さなかった。同社の内情に詳しい関係者によると、永守氏は19年春頃から関氏を何回か誘っていたが、氏が断わっていたという。日産の人事が決まった直後に再度、関氏にアプローチし、社長ポストを約束して口説き落とした。



 日本電産は現在、電気自動車(EV)向けの車載モーター事業を成長戦略の柱の一つにしている。日産でグローバルに幅広い分野を経験した関氏の手腕がぜひとも欲しかったと見られる。58歳の関氏にしてみれば、これが大企業の社長をやれる、最後のチャンスと判断したのであろう。


 日産にしてみれば、貴重な人材を、老獪な他企業の経営者にさらわれた形だが、日産の指名委員会が関氏を選んでいればこうした事態にはならなかったであろう。日産はゴーン前会長が会社を私物化していたことへの反省から、外の目で経営をチェックしようと、19年6月の定時株主総会で社外取締役が過半数を占める指名委員会等設置会社に移行し、ガバナンス強化に動き出したばかりだ。


 しかし、今回のトップ人事での「失態」を見る限り、指名委員会は健全に機能していない。さらに言えば、ガバナンスをチェックする役目を果たしていないだけではなく、ガバナンスをかき乱しており、本末転倒だ。



ホンダの“伏魔殿”とは


 実は日本の自動車メーカーで、ガバナンス体制に問題があるのは日産だけではない。ホンダも同様である。


 2019年10月に開催された東京モーターショーでは、ホンダは同社を代表する小型車「フィット」の新型車を発表したものの、ブレーキに関する品質問題が解決できないために発売を4カ月も延期した。2013年9月に発売した前モデルも販売開始から1年間に5回の大規模リコールを頻発し、それが引き金となって、前社長の伊東孝紳氏が退任に追い込まれた。こうして品質問題が多発するのも組織や仕事の仕方に課題があるからだ。



 ホンダの2019年4〜9月の中間決算は、売上高が前年同期比1.8%減の7兆7253億円で、本業でのもうけを示す営業利益が8%減の4726億円の減収減益だった。


 ホンダの事業で最も売上高の多い四輪は5兆2810億円、営業利益は1952億円で営業利益率は4%。これに対して二輪は売上高1兆555億円、営業利益1476億円で、営業利益率は14%だ。


 この構造から言えることは、売上高で二輪の約5倍の四輪の営業利益は、二輪の1.3倍しかなく、四輪は二輪に食わせてもらっている状況なのだ。



 主力の四輪は低調ながら「金食い虫」である。2019年度のホンダの研究開発費は8600億円のうち「8割程度が四輪向け」(ホンダ幹部)とされる。インターネットとつながるコネクテッドカー(C)、自動運転(オートノマス=A)、ライドシェアやカーシェア(S)、電気自動車(EV)などの電動化(E)といった、いわゆる「CASE領域」に莫大な投資が必要となっているからだ。


 ホンダ元役員が語る。


「ホンダの研究開発部門は聖域化され、伏魔殿化している。社外取締役がこうした問題をもっと指摘すべきだが、何もやっていないようだ」



「一人勝ち」のトヨタだが……


 業績が安定しているトヨタも決して安泰ではない。25年近くトヨタを取材してきた筆者が見ても、いまのトヨタは決して強いとは言えない。その理由は、トヨタの強みの一つは、部品を供給するグループ企業や下請け企業の強さであったが、それが崩れているからだ。トヨタが儲かれば、グループ企業や下請けも儲かる「共存共栄」できた構図が大きく崩れようとしている。


 たとえば、トヨタグループ大手8社の2019年4〜9月期の決算では、デンソー、アイシン精機、ジェイテクト、トヨタ紡織の4社が営業減益となった。大手8社より規模が小さいトヨタ系中堅7社の決算でも、東海理化、愛三工業、大豊工業、ファインシンターの4社が営業減益。トヨタ本体は儲かっているのに、下請けは業績が悪化している。



 こうした現状について、大手部品メーカーの幹部はこう語る。


「中国市場の減速も響いているが、トヨタからのコスト削減要求が厳しくなっている上、部品メーカーも自動運転や電動化など次世代技術への投資負担が高まっており、収益が出にくくなっている」


 別のトヨタ系部品メーカーの役員はさらに手厳しい。


「トヨタからの値引き要請が厳しくなった。クルマのモデルチェンジに合わせて納入価格が一気に30%下げられることもあり、これではとても経営が成り立たない。共存共栄ではなく搾取の構造になりつつある」


「トヨタ一人勝ち」の現状に対して、「身内」から不満の声が出ているのだ。トヨタが仕掛けるグループ再編に対しても不満がくすぶる。



 こうした気配をトヨタも察してか、虚礼廃止や負担軽減の大義名分の下、毎年2〜3月にかけてトヨタに納入する部品メーカーの集まり「協豊会」総会、設備メーカーの集まり「栄豊会」総会、グローバル仕入先総会がそれぞれ開催されていたが、今年からは3総会を1本化することにした。トヨタは年始に開かれていた取引先との賀詞交歓会までも止める。


 トヨタグループに限らず、世界を見渡しても、これまでサプライチェーンの頂点にあった完成車メーカーと、部品メーカーの関係が大きく変化しようとしている。その先鞭をつけたのがドイツだった——。



「文藝春秋」1月号および「文藝春秋digital」掲載の「 トヨタvs米独連合〈新世界自動車戦争〉の勝者は? 」では、いち早く完成車メーカーと部品メーカーとの関係性を「改革」してきたフォルクスワーゲンをはじめとしたドイツの事例について紹介し、トヨタやホンダなど日本メーカーが持つべき、未来を見据えた「戦略」についてレポートしている。



(井上 久男/文藝春秋 2020年1月号)

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