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NHK大河・井伊直虎 鬼籍に入って初めて女性の幸せ掴んだ

NEWSポストセブン1月1日(日)7時0分
画像:井伊家の菩提寺、龍潭寺の開山堂の前に立つ松平定知氏
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井伊家の菩提寺、龍潭寺の開山堂の前に立つ松平定知氏
画像:井伊家発祥の井戸(龍潭寺山門の南)の前に立つ松平定知氏
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井伊家発祥の井戸(龍潭寺山門の南)の前に立つ松平定知氏

 2017年のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の主人公は井伊直虎だ。井伊家といえば彦根藩を思い浮かべる人も多いが、直虎が拠点としたのは、井伊家発祥の地でもある井伊谷という地域。現在の静岡県浜松市北部に残る直虎ゆかりの場所と直虎の人物像を歴史通で知られる元NHKアナウンサー・松平定知氏の案内で紹介する(談/松平定知)。


 * * *

 江戸末期、幕府大老として開国政策を断行した第15代彦根藩主、井伊直弼(なおすけ)。初代藩主直政は家康を支えて徳川政権樹立に貢献し、「徳川四天王」筆頭格と讃えられた。時代の変革期にかくも大きな役割を果たした井伊家は、実は断絶の危機に瀕したことがあり、それを救ったのが「おんな城主」直虎だ。


 時は戦国、井伊家は有力大名今川氏の重臣で、遠江国引佐郡井伊谷(とおとうみのくにいなさぐんいいのや/現在の浜松市北区引佐町井伊谷)の領主。その第22代当主直盛の一人娘として直虎は生まれた。生年、幼名は不詳だ。


 男子が生まれず、宗家が途絶えてしまうため、直盛は、その叔父直満の長男直親を直虎の許婚として家に迎えた。直親9歳のときである。ちなみにこのアイデアを考えたのは、直虎の祖父の弟、すなわち大叔父で、井伊家の菩提寺龍潭寺の住職となっていた南渓和尚。彼は井伊家の知恵袋で、井伊家が危機を迎えるたびに乗り越えるための策を編み出した。


 ところが、直満と不仲だった井伊家の家老小野政直が、直親が宗家の跡取りになることに反対し、なんと「直満と(その弟の)直義が謀反を起こそうとしている」と今川義元に讒言。それを信じた義元により、直満、直義は自刃させられてしまう。天文13(1544)年のことだ。直親にも累が及ぶのではないか──それを恐れた南渓和尚は、ツテを辿り、直親を南信州の寺にかくまってもらう。


“亡命”は10年に及び、その間、直親の居所は許婚である直虎にすら秘密にされた。直虎は直親の無事を祈りつつも、悶々とした日々を送ったはずだ。直虎には別の縁談が持ちかけられたが、断わっている。直親に操を立てたのだ。なんと健気なことであるか。


 結局、悲嘆に暮れ、直虎は龍潭寺に出家を決意する。そのとき再び知恵を出したのが南渓和尚。直虎がいつか跡取りになる可能性も考え、二度と還俗(げんぞく)できない尼ではなく、還俗できる坊主になるよう勧め、代々井伊家の跡取りが名乗った「次郎」に男であることを示す「法師」を合わせた「次郎法師」と名付けたのである。


 亡命から10年後、井伊家の滅亡を謀った小野政直が亡くなり、直親は南信州から井伊谷に戻り、僧籍に入った直虎に代わって宗家の養子となる。直親は直虎と結ばれることなく、別の女性と結婚し、やがて虎松、後の直政が誕生する。


 ここで南渓和尚の予想通り、直虎の出番がやって来る。永禄5(1563)年、今度は小野政直の嫡男で井伊家の家老小野政次が、今川義元の嫡男氏真に「直親が謀反を起こそうと企んでいる」と讒言し、直親を殺害してしまうのだ。小野が今川に讒言し、井伊の滅亡を謀る──同じことが2代続けて起こるとは恐ろしい因縁である。虎松はまだ3歳。翌年には直虎の曾祖父直平も病死し、3年前の桶狭間の戦いでは直盛が戦死していた。そうして井伊家の跡取りはいなくなってしまった。


 そこで、南渓和尚の説得で直虎が虎松の養母となり、井伊家の家督を継いだ。直虎と名乗ったのはこのときだ。


 直虎は身の丈6尺近く、サラシをきつく巻いて胸の膨らみを押さえ、常に大小の刀を身につけていたという。運命を受け入れ、覚悟を持って生きた人間の緊張と凜々しさが目に浮かぶ。


 今川氏真の圧力に屈し、直虎の城主時代はわずか3年と短いが、残された書面には「次郎法師直虎」の署名とともに、男にしか許されなかった「花押」(署名を文様化したもの)が押されている。歴史上、直虎以外にも女性の城主、大名はいたが、花押を押した例は珍しい。それだけに、直虎がとことん男として振る舞い、また周囲に認められていたことが想像できる。


 直虎は退き、龍潭寺で仏門に戻り、虎松は紆余曲折を経て母の再婚相手の養子となる。そして、天正3(1575)年、南渓和尚や直虎らの画策により、家康の小姓となり、出世の道を歩み始める。


 直虎は天正10(1582)年に40数年の生涯を終える。虎松が元服して直政を名乗ったのはこの後である。すでに22歳で、元服するには数年遅い。元服すれば名実共に井伊家の跡取りとなる。だから、直虎の恩に報いるため、その存命中は元服しなかったのだ。


 今、龍潭寺の境内には井伊家代々の墓があり、直親の隣が直虎である。「いつか一緒に」という夢が叶ったのだ。直虎は、鬼籍に入って初めて女性としての幸せを掴んだのかもしれない。


撮影■太田真三


※週刊ポスト2017年1月1・6日号

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