三田村邦彦に『必殺』降板を翻意させた藤田まことさんの言葉

1月1日(水)16時0分 NEWSポストセブン

三田村邦彦が藤田まことからかけられた言葉とは?

写真を拡大

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、後に代表作となった「必殺」シリーズの飾り職人の秀役を引き受け、続けると決めたときの葛藤について語った言葉をお届けする。


 * * *

 三田村邦彦は一九七九年に時代劇「必殺」シリーズの第十五作『必殺仕事人』で仕事人チームの一人「秀」を演じ、一躍人気スターになる。主人公の中村主水は藤田まことが演じた。


「最初は『必殺』は辞めたかったんです。お金をもらって人を殺して正義面をするというのが、嫌で。それでマネージャーに『できない』と言ったのですが、2クールだけやることになって。でも、それが延びると聞いて、プロデューサーに直接『できません』と言いました。


 そうしたら、藤田さんが『ちょっと話そうか』って。それで僕は自分の思いを話しました。そうしたら、藤田さんはこうおっしゃるんですよ。


『わしは中村主水を正当化しようとは思わない。正義面しているわけでもない。でも、あの時代には悪い奴がいるのに、お上が袖の下を貰っているから裁かれることなくノウノウと生きている。コイツを生かしていたら、また犠牲者が増える。それなら、主水はこれを命にかえてでもやっつけなあかん。


 主水もいいことしているわけじゃあない。人を殺しているんだから、いつかは自分も殺される。下水掃除でどぶ板を外したら主水がネズミに食われながら死骸になっている。そんな死に方がええと思っている。秀という役もそういうふうに考えてみたらどうだ』と。


 カッコいいと思いました。『娯楽作品なんだから楽しもうや』くらいに馬鹿にされると思っていたら、凄く真面目に考えている。素敵な生き方をしていると思って藤田さんが好きになり、出続けることにしたんです」


 時代劇初挑戦の三田村を支えたのは、「必殺」シリーズに長年たずさわってきた京都映画(現・松竹撮影所)のスタッフたちだった。


「ちょうど辞めようとしていた頃、カメラマンの石原興さんから撮影中に『あかん、それ。リズム感あらへん』と言われて、どうしていいか分からなくなっていました。そんな時、石原さんから昼休みにコーヒーに誘われたんです。


 石原さんは『これが視聴率悪いと「必殺」は打ち切りになる。だからスタッフ全員必死になっている。レギュラーで未知の力を持っているのはあんただけ。あんたが化けるかどうかに「必殺」がかかっている』と言うんですよ。


『だから、わしらスタッフ全員あんたに賭けている。厳しいこと言ってるけど、それはあんたをどうにかしないと「必殺」は続かへんと思ってるからや。


 家族全員の飯をあんたに賭けてる。時代劇の芝居はわしらが教える』と。しかも石原さんに限らず、誰かが教えてくれるんです。たとえば照明の助手だった中山利夫さん。この方は身軽で、僕が屋根の上を走る場面では見本を見せてくれる。それで、『ここで見栄を切って、一、二、と溜めて。それから飛び降りなあかん』って。これがカッコイイ。


 スタッフの皆さんに現場でいろいろ教わりました。それは今でも僕の引き出しになっています。あの撮影所は、スタッフの全員が演出家なんです」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡正樹


※週刊ポスト2020年1月3・10日号

NEWSポストセブン

「言葉」をもっと詳しく

「言葉」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ