大使館から怒られた「初雪や一番目立つインド人」 7カ国対抗! 外国人新春句会【大根編】

1月2日(火)17時0分 文春オンライン

宗匠役に俳人・金子兜太を迎えた外国人句会。正岡子規の臨終の住まい子規庵を舞台にした 【初夢編】 に続く2回戦の季題は「大根」。7カ国対抗俳句バトル、スタート!



スリランカでは蕪は食べるけど、大根は食べなかった


金子 では2回戦「大根」に行きましょう。大根は冬の季語ですが、みなさんの国では食べるんですか?


 和食で初めて食べました。


ゾペティ ヨーロッパにはあまりないんじゃないかな。


ヴルピッタ もう20年も前になりますが、イタリアの種屋には大根の種があって、私は栽培してました。


ウイッキー スリランカは蕪は食べるんですが、大根は食べなかったな。



アントン・ウイッキー(タレント・スリランカ代表)


金子 では13句お披露目です。



大根煮芥子たっぷり汗が出る


大声で抱きあげられて桜島


キス奪ひ大根の味愛しいぞ


手にさげる大根の葉にくすぐられ


雪けむり湯畑はたく大根かな


初雪や大根の肩は冷えるかも


だいこんのセール目立てる商店街


青皿の大根おろしの雪景色


妻睨む大根作家のままかな


大根や雨に妖しき白の列


湯上りに鰤大根を北の旅


軒先に大根干して陽を誘う


人参に囁きかけて紅白に



大根を季題に、13句


ありゃりゃ、すけべえだなあ


金子 最高は4点句で、2句ありました。まずは「大根や雨に妖しき白の列」。


 畑に並んでいる大根を実際に見たことはないんですが、雨でもやもやしている時には女性の脚にさえ見えるんじゃないかな。そんな連想がふくらむ面白い句でした。


ピーター 雨で土が流されて、畑から顔を出している白い大根の列が鮮やか。一瞬なんだろうと思わせる風景を観察力の強さで詠んでいる。



©iStock.com


ゾペティ 「妖」の字が効いていますよね。妖艶、妖精、美しいという意味でのあやしさを気に入って取りました。


ウイッキー 私も女性の脚を想像しました。スリランカの人は女性を脚から見ていくんですよ。それで日本に来て間もないころにワイフにそんなことを話したら「ダメよ、私大根足だから」って言うんです。


金子 ありゃりゃ、すけべえだなあ。



トリビアルな視線で「青皿の大根おろしの雪景色」


ウイッキー いやいや、それではじめて大根足という日本語を知ったんですが、以来大根というとどうしても脚が思い浮かぶ。


ビナード 妖しい大根足の句だとしたら相当すけべ。ぼくは干してある大根なのか、畑の大根なのか、判断し兼ねて取らなかった。


金子 私もそこがわかりにくくて取らなかった。ただこういうバタ臭い感覚がヨーロッパ的に思えてユニークです。日本人じゃなかなかこういう発想にならないんじゃないか。では、もう1つの4点句「青皿の大根おろしの雪景色」。ゾペティさん。



デビット・ゾペティ(小説家・スイス代表)


ゾペティ 大根という冬の季語から雪景色を連想させ、青い皿に大根おろしが映えている、という重なり合うイメージがぴったりで、すばらしい句です。


金子 絶賛だね。フランクルさんはどうですか。


ピーター 青皿と青空の音が近いでしょう。だから青空に映る雪までも想像できて趣のある句でした。


ウイッキー この句が描いている感覚は体験したことがあります。思わず選びました。


金子 この作者は日常の些細なところを詠んでいるんだけど、そこに詩を感じているんだろうな。トリビアルな視線が好ましくて私も取りました。


ヴルピッタ 私はやや人工的に過ぎる句だと思って選べませんでした。素朴な句がお好きなゾペティさんが選ばれたので驚いた(笑)。


ビナード いってみれば、1つの比喩がそのまま1句になっているわけで、ちょっと選べなかったな。


「大根煮芥子たっぷり汗が出る」汗の前に涙じゃないの?


金子 では3点句。「大根煮芥子たっぷり汗が出る」。これもゾペティさんお取りになっているね。



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ゾペティ 大根煮、大好物です。いつも芥子をつけすぎる(笑)。非常に家庭的な場面を詠んでいますよね。


ヴルピッタ この日常性がよかったです。お酒がすすむ句。私は日本に来てはじめて大根を食べましたが、今では大好物ですね。


ウイッキー 私いまちょっと風邪気味ですから、暖かそうなこの句に反応してしまいました。


ビナード ぼくも大根煮は好きだけど、これは説明の域を出ない。最後の5文字で一ひねりできたんじゃないかな。



アーサー・ビナード(詩人・アメリカ代表)


 私も「汗が出る」に引っかかった。芥子たっぷりなら、まず涙が出る。


金子 えらい科学的だねえ。私もこの「汗が出る」が日常的過ぎたと思って選べなかったんです。



合理的と論理的は違うのです


金子 2点句の「軒先に大根干して陽を誘う」はどうでしょう。


ビナード 大根を干す本来の目的とは別に、陽を誘う効果もあると詠んだところに惹かれました。


ヴルピッタ 大根がカーテンみたいになって太陽を誘っているという発想は大成功でしょう。この句を選びながら作者の感性を羨ましいと思いました。大根で俳句を作るのは難しかった。



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ピーター この短さに言葉と発想を組み込んでいく難しさですね。先日、松尾芭蕉の「夏草や兵どもが夢のあと」のハンガリー語訳を読んだんです。だけどそれは「古戦場に点る春の灯り/12万もの戦士の/走り去る夢の様な人生から/残ったのはこればかり」と長い説明になっていた。



ピーター・フランクル(数学者、大道芸人・ハンガリー代表)


金子 アメリカの人と句会やった時は、彼ら短く作っていましたよ。あれは英語ではなくて口語的なアメリカ語とでもいう言葉なのかもしれませんが。


ヴルピッタ 私は短歌の講師もしているんですが、短歌の場合字数が足りなくて「なり」や「あり」などで調子を整えることがある。しかし、俳句は言葉をそぎ落とす。


金子 合理的というかね、そういうところがあります。だから数学者にとって俳句は取り組みやすいんじゃないですか?


ピーター いえ、あくまで論理的な思考をするので、感情よりも結論を出そうとしてしまう。合理的と論理的は違うのです。


金子 なるほどなあ。


「桜島」で大根を言い表す高等テクニック


金子 では同じ2点句で「大声で抱きあげられて桜島」。


ヴルピッタ 大根にもいろんな言い方があることがこの「桜島」に表れています。


ピーター 桜島というのは桜島大根のことですね。


金子 そうです。他にも青首、練馬、三浦、聖護院。古くは「おおね」、鎌倉時代あたりでは「清白」、今は「だいこ」とも言います。畑から抜くさまを言う「大根引き」も季語。



金子兜太(俳人・日本代表)


ピーター すずしろは七草だから春の季語にならないんですか。


金子 大根としてのすずしろなら冬、七草としてのすずしろなら春なんです。


ウイッキー 大根だけでそんなに言葉のバリエーションがあるなんて豊かですね。大根足しか知らなかった私は恥ずかしい(笑)。



「湯畑はたく大根」ってなんだろう?


金子 1点句に触れていきましょう。まず「湯上りに鰤大根を北の旅」。ビナード選だ。


ビナード 鮮やかな発見はないけど、ノスタルジーがある。


 鰤大根て日本海のほうの料理でしょ。北の旅と言える?


ビナード 北陸だから大丈夫。



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金子 さっきの汗と涙といい、楊さんは実証的だね。この句は『歳時記』で鰤大根の例句になっているような類型的な句なんだな。それで私は取れなかったんです。「雪けむり湯畑はたく大根かな」。これもビナード選。


ビナード 大根をたたいているんじゃなくて、大根がたたいているのか……どういうことだろう。なんでこの句を取ったんだろうな。


ウイッキー 女性の脚が温泉をパタパタやっているんじゃないですか。


ビナード ああそういうことか!


金子 さすが大根足のウイッキーさんだ。私だけ選んだ句が2つあるんですが、まずは「初雪や大根の肩は冷えるかも」。よく育った大根が畑から肩を出している、そこに初雪が降っていると。素朴でいい句ですよ。たいへん叙情的だ。


ビナード 宗匠の今の解説を聞いて、私も取ればよかったと思いました。



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ゾペティ 「かも」と言えばロマノさん。


ヴルピッタ ハハハ。


金子 ロマノかも、ってとこですな。それと「妻睨む大根作家のままかな」。我々だと「ままにかな」と「に」をつけるんですけどね、「ままかな」でも分かります。


ビナード いわゆる作家はこの場に楊さんとゾペティさんだけ。それで妻に睨まれるとしたら……。


ゾペティ バレたか。


金子 楊さん選「人参に囁きかけて紅白に」。この紅白とは何だろう。


 人参と大根だと思いました。大根は直接出てこないけど、人参に囁いているのが想像できる。



楊逸(作家・中国代表)


金子 人参と並んで紅と白になっている……。ちょっとややこしいな。楊さん選はもう一つ。「手にさげる大根の葉にくすぐられ」。


 ぴんとくる風景ですよね。スカートはいてたりすると、手提げからはみ出している葉っぱに足をくすぐられる。主婦っぽい感覚の句ですね。


大根味のキスっていやですねえ


金子 点数が入らなかった句にも触れましょう。まずは「キス奪ひ大根の味愛しいぞ」。


ビナード 相手の唇に大根の味がついていて、いいなあっていうことだよね。


 恋は冷めるよね。なのになんで愛しいの? 大根味のキスなんていや。


ヴルピッタ いやですねえ。


ビナード ま、物好きなんだな。あとで作者の弁明を聞くのが楽しみ。


金子 「だいこんのセール目立てる商店街」も得点なし。


ヴルピッタ 大根のセールってあまり聞いたことがないな。商店街のセールの声が際立つとか、大根の白さが目立つなら分かるんですが……。


金子 「だいこんの白さ目立てる商店街」ならよかったですね。



数学的に言いますと、俳句は黄金比


 これで出揃いましたね。では名乗ってもらいましょう。


<4点句> 大根や雨に妖しき白の列


ビナード ぼくです。ありがとうございました。


<4点句>青皿の大根おろしの雪景色


 はい! うれしい。


金子 初夢ではあんまり得点取れなかった楊さんが大逆転だ。



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<3点句> 大根煮芥子たっぷり汗が出る


ピーター 僕。楊さんの論理的な反論は数学者として痛かった(笑)。


 俳句の5・7・5は数学的に意味がありますか?


ピーター 大まかにいうと五対七の比率は黄金比に近いんです。レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」の構図などに用いられている比率ですね。だから俳句は美しい言葉の並びになると言えるでしょう。


金子 そいつはいい話を聞いたな。


<2点句> 軒先に大根干して陽を誘う


ピーター これも僕。新潟で見た景色がとてもきれいだった。


<2点句> 大声で抱き上げられて桜島


金子 これは私でした。


<1点句> 湯上りに鰤大根を北の旅


ヴルピッタ はい、大根好きの私です。



ロマノ・ヴルピッタ(歴史家・イタリア代表)


<1点句> 雪けむり湯畑はたく大根かな


 はい。ウイッキーさんの読みの通り、女性の脚を詠んでいます。


<1点句> 初雪や大根の肩は冷えるかも


ヴルピッタ かもで終わるのは私(笑)。


<1点句> 妻睨む大根作家のままかな


ゾペティ はい。


金子 好きだな、この句。大根作家っていうのがいいよ。面白い。


<1点句> 人参に囁きかけて紅白に


ウイッキー 私です。


<1点句> 手にさげる大根の葉にくすぐられ


ビナード 主夫感覚のぼくです。


「初雪や一番目立つインド人」って詠んだら大使館に怒られた


<無得点> キス奪ひ大根の味愛しいぞ


ゾペティ 僕です。永年一緒に生活してきた妻が大好きな大根料理を作ってくれて、食後にキスを奪ったら大根の味がしたからいっそう愛しくなったという意味合いなんですけどね。


ビナード 奪うとなると、妻じゃないような気がするけど。


ゾペティ うちの場合は、忙しいとか言われて、奪わないと……(笑)。


<無得点> だいこんのセール目立てる商店街


ウイッキー 私です。ロマノ先生の大根の白さを目立たせるほうがいい、というご指摘になるほどと思いました。



「初雪や一番目立つインド人」


ヴルピッタ そのほうが色の対比が鮮やかです。


ウイッキー 昔「ズームイン朝」の生放送中、初雪が降った日だったので即興で「初雪や一番目立つインド人」と詠んだんです。色の対比は抜群な句でしょう。そしたらインド大使館から「あんたスリランカ人なんだから自分の国使いなさい」って怒られた(笑)。


金子 ハッハッハ、その句は面白い。挽回しましたね。外国の方に俳句を楽しんでいただけて、しかも数学的にも美しいとお墨付きもいただいた。日本の俳句はこれからも安泰だ。この大団円、きっと子規も喜んでくれていることでしょう。私も元気をもらったよ。ありがとうございました。



写真=山元茂樹/文藝春秋



(「文春オンライン」編集部)

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