正月映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』監督・谷垣健治が語るカンフーの国の冒険【後編】「ドニーと仕事をすると『世界で最高のアクション映画を作っている』という自信がもらえるんです」

1月2日(土)6時0分 週プレNEWS


現在、全国公開中の映画『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』は、ブルース・リージャッキー・チェン、サモ・ハンなど、先人たちが築き上げてきた香港のアクション文化財を太ったドニー・イェンにたっぷり詰め込んだ、香港映画史に新たに灯った"発福星(幸せそうに太った星)"だ! 監督を務めた日本人・谷垣健治氏が、インタビュー【前編】に続き
本作の魅力や裏話をじっくり語る!

【画像】作品について語る谷垣健治氏と映画の場面写真

■ドニー・イェンの新境地を拓く!

現在、全国公開中の映画『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』は、サモ・ハンの『燃えよデブゴン』(1978年)を下敷きにした、アクション・コメディだ。ラブ・ストーリーでもある。超・要約すると、太っていてめちゃくちゃ強い主人公が香港と東京を舞台に大活躍して恋人とうまくいくお話。

けれどもサモ・ハンと違って、ドニー・イェンはもともと太ってはいない。なぜ彼を『デブゴン』にしたのだろうか?

谷垣「6年くらい前に、太ったドニーとやせたドニーが家の中で追いかけっこする、っていうCMを僕が監督したことがありました。その後、次の企画を考えてる時に『あのCMのキャラを使って映画ができないか』とドニーが言い出したんです。『映画もケンジ、お前が監督だ』っていつの間に話が進んでいきました(笑)。

太った達人を主役にするなら、やっぱりデブゴンだよな、と自然に決まって、タイトル(原題『肥龍過江』)もそっくりちょうだいしたわけです。

毎日のようになにか問題が起きる大変な現場でしたが、ドニーと仕事していると『いま自分は世界で最高のアクション映画にたずさわっているんだ』という自信がもらえるんです。ドニーからは細かいアイディアとかアドバイスもたくさんもらいましたが、一番はやっぱり気持ちの面でね、安心感がありました。

この作品が『燃えよデブゴン』のリメイクか、オマージュか、と受け取られるとちょっと違うかな、と思います。そもそもサモ・ハンの『デブゴン』自体がブルース・リーの『ドラゴンへの道』(1972年)をオマージュしてるわけで、その関係も踏まえて、そこからさらに40年間の蓄積を知る僕らがやっている。オマージュと言うなら、それこそ『香港アクションオマージュ』といえるかもしれません」

その言葉通り、『デブゴン』は一粒で何度もおいしい作品だ。見所をいくつか、監督とともに紹介してゆこう。

物語の序盤では「体重66キロの敏捷な刑事」を自負する主人公フクロン(ドニー・イェン)がコミカルなアクションを見せてくれる。だが、ある事件をきっかけに失意のどん底に沈んだフクロンは、暴飲暴食を繰り返したあげく、120kgまで太ってしまう! 

谷垣「フクロンが肥えてゆく過程を見せたのはドニーのアイディアです。『6か月後』といったテロップで済ませばいいと思ってたんですが本人が『やっぱり過程を見せたい』ってやる気満々で。ドニーは、太ってからも基本的には動き方を変えないことに強くこだわっていました。鈍くなったり、体がつっかえたり、体重がハンデになる描写は必要ない、と。『この体型でそれまで通りに動くからおもしろいんだ』って。そこはブレなかったです」


本作では、スリムだったフクロン刑事が暴飲暴食の果てに激太りしていく過程をちゃんと見せる
本作では、スリムだったフクロン刑事が暴飲暴食の果てに激太りしていく過程をちゃんと見せる

体型の変化とどう付き合ってゆくか、はそのまま本作がはらむメッセージのひとつになっている。

谷垣「太ったドニーを最終的にどうするかは、脚本段階から悩みました。例えば『ダイエット・ラブ』(2001年)はアンディ・ラウが太って、最後はやせて、という展開でした。20年前ならそれが正解なのでしょう。でも、ドニーの奥さんから「今は違うんじゃない?」と意見をもらいまして。なるほどな、と。痩せたこととハッピーエンドをつなげてしまうと、太っている=ダサい、悪い、と言ってるように見えてしまう。

彼女の言葉がひとつのきっかけになって、『太っていてもカッコいい』『太っているからさらにカッコいい』というストーリーを撮影しながら固めていきました。香港映画って、いちおう脚本はあるけど撮りながらその場の勢いでどんどん変わる(笑)。面白いことに忠実な選択をしていきますから。最後は、道はひとつじゃないし、どんな体型だっていい、というメッセージを込めました」

ドニーがブルース・リーに憧れる役を演じている点も見所だ。『ドラゴンへの道』の物まねを披露する遠藤刑事(竹中直人)にぼそりと突っ込みを入れるシーンなど、世界中のブルース・リーファンをよろこばせてくれる心憎いディテールが散りばめられている。

谷垣「"心はドラゴン"の人ばかりが集まった現場でした。初めてドニーと仕事した時すでに、『この人は本当にブルース・リーを尊敬してるんだな』って思い知らされましたね。アクションが始まるとブルース・リーが憑依してるというか、全力でリーになりきる。中途半端にアレンジしたりしない。だから、ほんとに当ててくる(笑)。

観客にとって、ドニーがブルース・リー的要素を演じるのは初めてではないですけど、今回のデブゴンがうまくできてるのは、『太っている』というまったくブルース・リーっぽくない要素が入ることで、その見え方が全く違う印象のものになるということですね。ブルース・リーなのに太ってる、みたいな(笑)。

太っていても変わらぬアクションのキレを見せてくれるドニー・イェン
太っていても変わらぬアクションのキレを見せてくれるドニー・イェン

■心の師、ジャッキー・チェンへの想い

ドニーのヒーローがブルース・リーなら、谷垣のそれはジャッキー・チェンだ。

谷垣「アクション要素としてはブルース・リーっぽいものだけではなく、ジャッキー映画の要素も至るところに入れました。リアクションのとり方とか、戦うだけじゃなくて逃げたり、ガードレール飛び越えたり、跳ねまわったり、足で砂をつかんでバーッてかけたり。もろジャッキーですよね(笑)。ジャッキー要素とは簡単に言ってしまえば空間を立体的に使うこと。電柱よじのぼったり、壁を伝ったり、ブルース・リーは絶対しないじゃないですか(笑)。

もっと言うと、僕らがアクション・コメディをやるとなったら、80年代90年代のジャッキー映画的なものは入れざるを得ないんですね。中国のコメディというのもあって、それはそれでいいんだけどちょっと特殊だし、自分たちのDNAにないものを目指しても、やけどするだけです。自分たちが観て育ってきたものに倣うほうがいい。そのひとつがジャッキー映画だった、ということです」

ただ、ジャッキー・チェンには変わらぬ敬意を寄せつつも、いまでは作る側の同業者だ。学生時代のスタジオ見学ではなく、『新宿インシデント』(2009年)などでジャッキー作品の仕事も経験してきた。ひたすらあがめるのではなく、心の師に欠けていると思えるものを自作のヒントにしているようだ。

谷垣「最近のジャッキー映画に足りない要素は、強い悪役です。昔はベニー・ユキーデ(『スパルタンX』(1984年)および『サイクロンZ』(1988年)、特に前者で見せたジャッキーとの死闘は語り草)みたいな強い敵がいて、彼らとのタイマンをみんな楽しみにしてたじゃないですか。でも、いまはジャッキー自身が暴力描写を極度に嫌う方向にいっていて、逃げたりするアクションは相変わらずやってるけど、"命のやりとり"をしてない感じがあるんですね。そういう意味でも、最後のタイマンのシーンはしっかりやりたかった。それも素手の戦いあり、武器の戦いあり、場所換えあり、とひとつの勝負にたっぷり時間と段階をかけて」

■ドニーに憧れる少年に、かつての自分を重ねる

本作は竹中直人や渡辺哲など日本人の出演者も多いが、キャストやスタッフに多くの香港人と日本人を起用したことは、予想外の横やりを生んだ。

谷垣「中国の検閲に『これじゃ中国映画にならない』と突っ込まれたんです。向こうにはクォータ制度というのがあって、中国人をどの程度使わなければいけないとか細かく決められてるんです。言われるまで忘れてました(笑)。基準を満たしていないと外国映画扱いされて、中国での上映の機会が減らされてしまいます。それは、中国での撮影はなるべく多く中国人を使うとかして、なんとかクリアしました。ただ、むこうの美術スタッフはいい仕事してくれますよ。アクション慣れしてるからか、屋根瓦を全部ウレタン製で揃えてくれるなど気が利く。それ見たら『屋根の上走らせるしかないだろ』ってなりますよね(笑)」

フクロン刑事をナビゲートする遠藤刑事(竹中直人)
フクロン刑事をナビゲートする遠藤刑事(竹中直人)

本作における唯一の子役、シウフーを演じたチェイニー・リン少年の存在も大きかった。

谷垣「実はキャストのなかで彼が唯一の中国人で、おかげでクォータ制度の条件を満たせたという、功労者です」

リン少年の活躍はそれだけではない。劇中で披露するテコンドー仕込みの足技も見事だが、フクロンに向ける憧れの視線が心を打つのである。

谷垣「あの"視線"は、現場で思いついたんです。リン少年は中国国内のテコンドーの大会で何度も優勝していて、アクションはできるけど、演技の経験はまだそんなにありません。

彼にどう演技をしてもらおうか、と思った時に気づいたんです。リン少年がスターであるドニーをずっと見ているって。その視線は、腕に覚えのある子供が自分よりさらに強いフクロンに会って憧れるっていう、シウフーの役柄とも合うんじゃないか。そう思って『とりあえず、ずっとドニーのこと見てて』と指導しました。変に難しい芝居やらせるより、その方が、気持ちが素直に出るんじゃないかなって。

現場での苦肉の策だったんですけどね。でも、ああいう視線はドニーがブルース・リーを見る視線でもあろうし、僕らがジャッキーに向ける視線でもあろうし、そういうものが重なって伝わったらうれしいです」


●谷垣健治(たにがきけんじ)

1970年10月13日生まれ。奈良県出身。1989年に倉田アクションクラブに入り、1993年に単身で香港へ渡る。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーとなり、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加。2001年に香港映画『金魚のしずく』でアクション監督デビュー。近年の主なアクション監督作は『るろうに剣心』シリーズ(12年、14年)、『新宿スワンII』(17年)などのほか、『るろうに剣心最終章The Final/The Beginning』(21年春予定)や『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(21年公開予定)の公開も控える


『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』
2021年1月1日(金・元日)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:谷垣健治
脚本:ウォン・ジン 
出演:ドニー・イェン、テレサ・モウ、ウォン・ジン、ニキ・チョウ、竹中直人、
丞威、渡辺哲ほか
上映時間:96分

●イントロダクション
熱血刑事フクロン(ドニー・イェン)は、事件を追うあまり大切な約束をすっぽかし、婚約者に見放されてしまう。さらにその事件をきっかけに現場から証拠管理の部署へ異動。やけっぱちに暴飲暴食に走るフクロンは、半年後、ポッチャリ刑事"デブゴン"になってしまった。容疑者を護送するミッションを課せられたフクロンは日本へ。現地の遠藤刑事(竹中直人)と協力し、東京の各地を捜査するうち、ある陰謀が浮かび上がる。太っても並外れた身体能力と正義に燃える心は消えていない! 熱血刑事フクロンがいま立ち上がる!!

(©2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.)

取材・文/前川仁之 撮影/榊智朗


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