永田町で取材して分かった「政治部記者はなぜ態度がデカいのか」

1月3日(水)7時0分 文春オンライン

政治家・田中角栄の謎なら読者も喜んでくれるのでは



『トップリーグ』(相場英雄 著) 角川春樹事務所 本体1600 円+税


 ベストセラーとなった『震える牛』や東芝の「不適切会計」事件をモデルにした『不発弾』で、社会が抱える歪みを描いてきた相場英雄さん。新作『トップリーグ』では政治とカネの問題に斬り込んだ。


 大和(やまと)新聞の記者松岡直樹(まつおかなおき)は、入社15年目にして経済部から政治部へ異動になる。勝手が違う政治部で戸惑いながらも、なぜか官房長官番に抜擢される。一方松岡と同期入社だった酒井祐治(さかいゆうじ)は、かつて政治部のエースだったが、政治を巡るある思惑に巻き込まれ、退社を余儀なくされていた。現在は週刊誌記者として活躍し「都内の埋め立て地で発見された1億5千万円」の真相を追っている。かつて同期だった2人の運命が交錯するとき、昭和史に残る一大疑獄が姿を現す……。


「ロッキード事件がモデルですが、この事件には未解決の部分があって、僕はこういう話が大好き(笑)。昔は空いた時間に未解決事件をよく調べていました。そうすると、小説じゃなければ書けない面白くて怪しい話がたくさん出てくるんです。田中角栄(たなかかくえい)は、政治とカネの問題を考える上で象徴的な人物ですよね。僕も新潟出身で親近感もありますし、死後20年以上を経て角栄ブームが起きるほど人気もある。それくらい強い印象を残した政治家の謎を題材にすれば、読者もきっと喜んでくれるんじゃないかと」


 昭和史の謎と共に読みどころとなるのが、政治家と政治部記者とのひと筋縄ではいかない関係性だ。そもそもこの小説の構想は、政治部記者の振る舞いに対する違和感から始まった。


「僕が経済部記者だったとき、大臣に取材をして運よくコメントが取れたので速報を流そうと思ったら、政治部の記者にガッと肩を掴まれた。何かと思ったら、合わせ(政治家の発言を各社で擦りあわせること)がまだだ、と止められてしまって。経済部は、ロイターに20秒遅れるだけでデスクから怒られる世界なので、唖然としました。また有名な話ですが、田中角栄のロッキード事件が報道されたとき、政治部の記者は『あんなの知ってたよ』ってみんな言ってたらしい。それなら早く記事にしてくれって思いますよね(笑)。つまり事実を掴んでいてもすぐに記事にしないのが政治部のカルチャーなんです。それ以来、政治部って何をしてるところなのかという疑問がずっと頭のどこかにありました」



ラストの主人公の決断には、僕の実感がこもっています


 この作品を書くにあたり、現役の国会議員や秘書など永田町の住人たちに徹底取材を行った。取材を続けるうち、相場さん自身が、永田町の“誘惑”を身を以て感じたという。



相場英雄©三原久明


「政治部の記者って昔から態度がデカかった(笑)。何であんなに偉そうなのか不思議でしたが、今回その理由がわかりました。与党の国会議員ともなると、めちゃくちゃ情報持ってるんですよ。週刊誌の記事とかで『そろそろ解散か』なんて記事が出たあと、国会議員に真偽を聞くと、『あれはガセだよ』とか即答してくれる。すると、この情報を知っている俺は特別な人間だ、みたいな優越感に浸ってしまうわけです。僕ですらその有様ですから、毎日仕事で国会議員たちとつき合う政治部記者が勘違いするのも無理はないなと」


 やがて松岡と酒井は、お互いに取材を進めるうち、現政権を揺るがしかねない秘密にたどり着くのだが……。こう書くと、巨悪を追う記者が腐敗した政治家を追い詰める勧善懲悪の物語を想像するが、そこをひとひねりするのが相場さんの流儀だ。


「読者は納得してくれないかも知れないけど、ラストの主人公の決断には、僕の実感がこもっています。僕ね、正義感を振りまわす奴が大っ嫌いなんです(笑)。性善説は一切信じてないし、僕自身がいつも悪い ことを考えている(笑)。僕の実家は町工場だったんですよ。今は潰れちゃってますけど、資金繰りが悪化すると、親父が借りた金を代理で返しに行ったりしてね。そのときお金が絡むと人間は本性が現われるということを学びました。勧善懲悪の物語は、他の方が書いてくださるので、僕は金に苦労した人間として、今後も自分なりのリアリティを追求していきたいと思います」


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あいば・ひでお

1967年新潟県生まれ。89年時事通信社に入社。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年『震える牛』がベストセラーに。『血の轍』で山本周五郎賞及び大藪春彦賞の候補に。16年『ガラパゴス』が、17年『不発弾』が山本周五郎賞の候補になる。




(「別冊文藝春秋」編集部)

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