2020年の将棋界 注目は渡辺明三冠の最高勝率と藤井聡太七段のタイトル挑戦

1月3日(金)6時0分 文春オンライン

 2019年の将棋界を振り返ってみると、豊島将之竜王・名人の誕生、渡辺明三冠の復権、永瀬拓矢の相次ぐ二冠奪取、木村一基の悲願でもある初タイトル王位獲得の実現など、タイトル戦だけを見ても多くの出来事があった。



木村一基王位誕生は、「中年の星」として将棋界を超えたニュースとなった ©文藝春秋


 女流棋界では里見香奈による史上初の女流六冠達成と、その里見をタイトル戦で連続して破った西山朋佳女流三冠による二強時代が形成されている。


 もちろん、史上最年少棋士の藤井聡太七段にも引き続き多くの注目が集まった。惜しい所でタイトル戦の登場は実現しなかったが、新たな年を迎えて、ますます期待がかかる。


失冠した広瀬はすぐにタイトル奪回のチャンス


 では、2020年の将棋界はどうなるだろうか。棋界の1年は王将戦七番勝負から始まるが、渡辺明王将に挑戦するのは広瀬章人八段だ。昨年末、豊島に敗れて竜王を失ったが、すぐにタイトル奪回の機会があるのは実力だけでなく、運も感じさせる。渡辺との番勝負は昨年の棋王戦五番勝負以来で、1勝3敗で敗れた雪辱を果たせるかどうか。


 そして王将戦とほぼ並行の形で行われる棋王戦五番勝負、こちらもタイトルを持つのは渡辺だが、挑戦権を獲得したのは新星の本田奎五段。佐々木大地五段との若手対決となった挑戦者決定戦を制して勝ち上がってきた。タイトル初挑戦からの奪取が実現すれば、2018年の叡王戦における高見泰地七段以来の快挙となる。



年度史上最高勝率の0.855を更新する期待も


 早速1月4日に対局があり、年明けからのハードスケジュールが確実になっている渡辺だが、昨年末時点での成績は28勝5敗の勝率0.848と、恐るべき高勝率を挙げている。タイトル2連戦だけでなく、他棋戦でも強敵との戦いが続くため、実現は簡単ではないが、中原誠十六世名人が1967年度に記録した年度史上最高勝率の0.855を更新する期待もかけられている。


 この新記録を実現するためには、勝ち数を増やすこと以上に「負け数を増やさない」ことが求められる。そのためにはどのような条件が必要なのだろうか。


 まず王将戦と棋王戦のタイトル戦だが、2棋戦を合わせて昨年同様に7勝1敗(昨年は王将戦が4勝0敗、棋王戦が3勝1敗)の0.875以上と、挑戦者をほぼ圧倒する必要がある。仮に両棋戦を1敗ずつで防衛しても7勝2敗と勝率が8割を切ってしまうので、高勝率の維持に結びつかない。



タイトルを持ちつつ高勝率を維持するのが、いかに大変か


 そして、王将戦と棋王戦を除く他棋戦では、年度末までにどれほどの対局があるかを考えてみたい。以下は昨年の同時期における該当棋戦と比較しての推測である。


・竜王戦、1組5位決定戦を1局。

・順位戦、残り3局。プレーオフの可能性もあるが、それは渡辺が2敗以上するのが絶対条件なので、勝率記録更新の可能性が低くなり、ここでは除外する。

・叡王戦、挑戦者決定三番勝負までを含めて4〜5局。

・王位戦、年明けに予選決勝が1局。リーグ入りを果たせばさらに1〜2局。

・王座戦、本戦シードのため、0局。

・棋聖戦、タイトル保持者のため、0局。

・朝日杯、本戦を最大4局。

・銀河戦、パラマストーナメント最上位のため対局がつかず、0局。

・NHK杯、本戦を最大4局。

・JT杯、まだ新規トーナメントが始まらない時期なので0局



 最大で見積もって20局だが、これはトーナメント棋戦をすべて決勝まで勝ち上がるという前提であり、途中で負ければ当然対局数は減る。仮に15勝5敗だったとしよう。そして王将戦と棋王戦の7勝1敗を昨年末までの成績に足すとどうなるか。


 50勝11敗、0.820となり、新記録にはまったく届かなくなる。とはいえこの数字でも、タイトル保持者としての勝率記録は羽生七冠時代の46勝9敗、0.836に次ぐものなのだから、タイトルを持ちつつ高勝率を維持するのが、いかに大変かということの表れである。


 渡辺が年度末までに50勝したとしても、負け数を8敗以内に抑えなければ記録更新とはならない(50勝8敗だと0.862で更新だが、50勝9敗だと0.847で新記録には届かない)。ここからの3ヵ月で3敗しかできないというのはとてつもなく高いハードルであるといえよう。


 また、タイトル獲得通算23期という実績を持つ渡辺だが、これまで名人戦では挑戦者になったことすらなかった。ところが今期はここまでA級順位戦で6勝0敗と独走状態に入っており、4月に行われる名人戦七番勝負への登場が濃厚になっている。記録達成がかかる年度末には、名人への挑戦権にも同時に注目が集まるだろう。


藤井七段は前人未踏の朝日杯3連覇なるか



 高勝率といえば2017、2018年度に連続して勝率8割を達成した藤井聡太だ。今期は年末の時点で34勝10敗の0.772とさすがに数字を落としているが、以前にもまして強敵と戦う機会が増えたので、これは致し方ないところだろう。


 まずは間もなく決勝トーナメントが始まる朝日杯将棋オープン戦にて、羽生善治九段(2013〜2015年度)以来の3連覇を実現できるかという点に注目が集まりそうだ。



タイトル戦最年少挑戦の記録更新はラストチャンス


 さらには、タイトル戦最年少挑戦、奪取の可能性にも期待がかかる。昨年11月に行われた王将戦リーグ最終局で惜しくも敗れ、あと一歩までに迫った挑戦の実現とはならなかったが、同時にここまで勝ち進んだことにより、檜舞台への登場が現実味を帯びているということにもつながる。


 最年少挑戦の可能性は、第91期棋聖戦という1棋戦に絞られた。現在は二次予選の決勝まで勝ち進んでおり、ここを制して本戦入りすると、さらに4勝で挑戦権獲得となる。


 タイトル最年少奪取は第91期棋聖戦に加えて、第61期王位戦、第68期王座戦、第33期竜王戦の計4棋戦に可能性が残っている。王将戦と同じくリーグ戦で挑戦権を争う王位戦、2期前にはベスト4まで勝ち進んだ王座戦、ランキング戦では未だ無敗の竜王戦と、それぞれ異なる戦場で新星の輝きを見せられるか。


里見と西山の再戦は、秋以降まで待たねばならない


 女流棋戦に目を転じると、里見香奈の覇権に西山朋佳が待ったをかけた形となったが、西山は現役奨励会員という立場もあるため、出場可能な棋戦は現在持っている女王(マイナビ女子オープン)、女流王座、女流王将のみである。そして里見も西山との再戦は、もっとも早く実現しても昨年に奪われた女流王将戦あるいは女流王座戦となるので、秋以降まで待たねばならない。



 むしろ直近の西山で気になるのは、奨励会三段リーグでの成績だろう。第66回奨励会三段リーグ戦では、8局を消化した時点で6勝2敗の5位と好位置につけている。まだまだ先は長いが、3月7日に行われる最終節の17・18局を上位2名の成績で終えることができれば、歴史的な女性棋士誕生の瞬間となる。


 年明けすぐに始まるのは女流名人戦。里見に谷口由紀女流三段が挑戦する。谷口にとっては2016年のマイナビ女子オープン、2016年、2018年の倉敷藤花戦に続く4度目のタイトル挑戦で、悲願の初タイトル奪取を実現できるか。



羽生世代の復権はあるのだろうか


 元号は令和の2年目を迎えるが、平成の棋界を引っ張ってきた羽生世代の復権はあるのだろうか。世代を代表する羽生善治は、昨年1度もタイトル戦に出ることがなかった。1989年の第2期竜王戦で初出場を果たして以来、30年ぶりの椿事である。



 だが、順位戦ではA級、竜王戦では1組といずれも最高峰のグループに在籍しており、王将戦リーグ、王位戦リーグでは残留を果たした。王位戦では挑戦者決定戦まで勝ち進んだこともあり、まだまだ一線で戦う力はあるといえる。少し年下とはいえ、やはりベテランの域に差し掛かっている、木村一基王位の活躍にも刺激を受けただろう。


 何より、多くのファンは「タイトル通算100期」という前人未到の大記録の実現を望んでいる。外野の過大ともいえる期待に対し、常に応えてきたからこそのスーパースターなのだ。ファンが喜ぶその瞬間を、待ちたいと思う。



(相崎 修司)

文春オンライン

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