せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

1月3日(金)17時0分 文春オンライン

“鉄道マニア”が教えてくれた「何度も列車に轢かれているリュックを背負ったおばあさん」の話 から続く


京都・蓮久寺の三木住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされる人、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた 『怪談和尚の京都怪奇譚』 (文春文庫)より背筋の凍る「人形」を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わる……のかもしれない。


◆◆◆


せっぱ詰まった人形供養の依頼


「人形供養をお願いします」


 そう頼まれることはよくあるのですが、珍しいと感じたのは、持ってこられた方が、まだ20代そこそこといった感じの男性だったからです。


「承知しました。お預かりして、後日、お焚きあげしておきます」そう私が答えたのは、他にも持ってこられる予定の人があったので、その時に一緒に供養しようと思ったからでした。



©iStock.com


 それを聞いた男性は、「それでは困るんです。今すぐにして下さい」何かせっぱ詰まった様子でおっしゃるのです。「これは何か特別な訳がある」そう思った私は、この人形にまつわる話を詳しくお聞きすることにしました。


「この人形は、どういった経緯でお持ちになったのですか」そう私は切り出しました。


 すると男性は、少し話すのをためらうように、


「人形に聞かれたくないんですが」


 そうおっしゃいました。


男性は叫ぶように大声で…


「そうですか。では人形を本堂に置いて、奥の間でお話ししましょう」


 そう言って、男性から人形の入ったバッグを受け取りました。そして、バッグから人形を出そうとしたとき、男性は叫ぶように大声で、


「そのまま、そのままバッグから出さないでください」


 と言われるんです。男性がかなり怯えておられるようなので、言われた通り、バッグに入れた状態で本堂の前机に置きました。



 奥の間といっても、本堂のすぐ隣で、ふすま1枚で仕切られただけの部屋です。温めのお茶を2人ですすりながら、ようやくお話を聞くことができました。


 男性のお話によると、人形はなかば強制的に家にやって来たとおっしゃるのです。



雨に濡れた小さな段ボール


——その日は昼過ぎから雨が降り始め、私が仕事を終えた頃には、かなりきつく降っていました。傘を持って出なかったので、1人暮らしの家に着いた頃には、全身ずぶ濡れでした。鍵を開けようと、玄関の扉の前まで来たとき、そこに小さめの段ボールが置かれていたんです。箱には送り主や差出人の名前などは、一切書かれていませんでした。


 不審に思ったのですが、取り敢えず家の中に持って入りました。段ボールはいつ頃から置かれていたのか、雨に濡れて、箱が歪んでいました。濡れた服を着替え終わって、一息ついてから箱を開けてみると、中からあの人形が出てきたんです。人形は、金髪にドレスの洋風のもので、顔はなぜか怒っているような感じがするものでした。



「誰かが要らなくなって、処分に困り、この家に持ってきたんだろう」そう思いました。普段の私なら、すぐにゴミ箱に入れるのですが、この時は違いました。


 人形の服や髪の毛が濡れていたので、かわいそうに感じて、その日は台所の机の上に置き、一晩このまま乾かしてやろうと思ったのです。


罠に掛かった人形


 次の朝、私が朝食のパンを焼こうと、台所に行くと、何かにかじられた跡があったのです。「ネズミが出たのかな」そう思って、出勤前に、ネズミ取りを台所に仕掛けて出かけたのです。出かけてすぐに、人形のことを思い出し、ついでに持って出て捨てれば良かったと思いましたが、今更取りに戻るのもめんどくさいので、帰ってから処分しようと考えていました。



 夕方、仕事を終えて帰宅すると、仕掛けていたネズミ取りに人形が掛かっていたのです。「何かの弾みで、人形がたまたまここに落ちたんだろう。それともネズミが人形を巣に持ち帰ろうとした途中、引っかかったのかもしれない」


 私は正直、少し恐怖を感じていました。その恐怖を振り払うために、必死で人形が罠に掛かった言い訳を自分にしていたのです。


 私は人形を罠から外すと、バッグに入れて、ジッパーをしっかり閉めました。そしてさらに、バッグごとゴミ袋に入れ、そのまま、近くのゴミ収集場所まで持って行きました。ゴミ袋をそこに置いて帰るときには、なぜか罪悪感のようなものを感じましたが、そのまま走って家に帰りました。




捨てたはずのバッグに


 そして今日の朝、玄関の郵便入れに新聞を取りに行くと、そこには捨てたはずのバッグがありました。私は咄嗟にバッグの中身を確認しようと、ジッパーを開け、中に手を突っ込んだ瞬間、「痛っ」指先に一瞬痛みが走りました。反射的に手を引き抜くと、指先から血が出ていました。傷跡をよく見てみると、そこにはまるで、こびとにでも噛まれたような、小さな歯形が付いていたのです。体中の毛穴から冷たい汗が噴き出てきました。



「絶対に間違いない。誰がなんと言おうと、この人形は生きている」


 そう確信したのはこのときでした。


微笑む人形


 このままどこかの家の軒先にでも持って行こうかとも思ったのですが、よくよく考えてみると、生きている者を捨てるわけにはいかない。かと言って家に置いておくのも怖いような気がする。そこで、お寺に持ってきたのです。彼女は、怒っているんだと思います。もう要らないからと捨てられたり、気味悪がられたり、人間のわがままによって、翻弄されてきたんでしょう。もちろん私もその1人なわけですが。どうか、今日、成仏させてやりたいんです。


 男性は、そのように話をしてくれました。そして、本堂に行き、私がバッグの中にいる人形を取り出しました。取り出した人形の顔は、男性が言っていたものとは違い、微笑んでいました。それには男性も驚いておられました。



「今まで、たくさんの人間をなぐさめ、喜ばしてくれてありがとう。そして、心ない人間のしたことを許してください」そう願いながら、無事お焚きあげは終了しました。


 それからも男性は、時折、お寺に来ては、人形のために、手を合わせています。






(三木 大雲)

文春オンライン

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