NHK紅白歌合戦でMISIAがレインボーフラッグ掲げ性の多様性を訴え、稲垣吾郎MC新番組では局内の性的マイノリティの声を紹介

1月3日(金)17時50分 LITERA

MISIAがLGBTQをフィーチャーし話題を呼んだ紅白歌合戦(番組HPより)

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 大晦日の『NHK紅白歌合戦』に出場した歌手のMISIAが話題を呼んでいる。紅組のトリを務めたMISIAは「アイノカタチメドレー」と題し、圧倒的な歌唱力でスペシャルメドレーを披露したのだが、そのバックにはLGBTQを象徴するレインボーフラッグが大きく掲げられ、ステージではドラァグクイーンたちがコーラスを担当。明らかに性的マイノリティと日本社会へのメッセージを『紅白』のステージで表現したのだ。


 その流れは、司会の綾瀬はるかが紅組トリを告げるマイクから始まっていた。綾瀬は「2020年に向けて、年齢も性別も、国境さえも、愛の力と音楽で越えていきたい。そんなMISIAさんの熱い思いが詰まったステージです。様々な愛のカタチに素晴らしい未来が訪れることを祈って、紅組、最後の曲です」と紹介した。


 そして、MISIAが暗転したステージでラブバラード「アイノカタチ」をしっとりと歌い上げると、続いて、DJ EMMAと台湾出身のDJ noodleが奏でるハイテンポなトラックに合わせて「INTO THE LIGHT」を力強く披露。代表曲「Everything」に入っていくのだが、ここでMISIAのバックに大きなレインボーフラッグが掲げられ、ダンスやコーラスにドラァグクイーンが登場したのだ。


 もともとMISIAは、音楽を通じたアフリカへの教育支援など、社会活動にも取り組んでいるアーティストだ。2017年に台湾で行われたアジア最大級のLGBTQパレードにもゲストとして参加。属性や性的指向による差別・偏見の解消を訴えており、今回の『紅白』以前から自身のステージにドラァグクイーンを起用してきた。最近も、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)2019年12月28日号のインタビューでは、アフリカへの思いを語るなかで性的マイノリティについてもこう言及していた。


「私は国境を取っ払って、世界の子どもをみんなで育てるような気持ちで、社会の問題を見つめられないかなと思うんです。アフリカに限らず、もっと多様な文化を受け入れられる世界になってほしい。人種、LGBT……。人って多様なんです。日本人もそのことをもっと深く理解するべきなのです」


 人種やセクシュアリティにかかわらず、多様な文化を受け入れる社会にしたい。MISIAはその思いを今回、『紅白歌合戦』という舞台で表現しようと試みたのだ。


 MISIAが言葉としてわかりやすいメッセージを発したわけではないことから、一部では「中途半端」「レインボーフラッグの収奪」などと批判する声もあがっているが、“国民的番組”と呼ばれる『紅白歌合戦』は、その視聴率の高さだけでなく、様々な年齢層、様々な属性を持つ人々の目に触れ、広く話題になる。そんな場所ではっきりと、“様々なセクシュアリティと多様性を認める社会”=“自分らしく生きられる社会”というメッセージを込めたことには、やはり社会的に大きな意義があったというべきだろう。


 それは、MISIAの意志を尊重し、歌唱中、ドラァグクイーンや、他の赤白両組の出演者一同のレインボーフラッグの手旗を振る様子をクローズアップするなど、カメラワークや演出によって、LGBTQ解放のメッセージを際立たせようとしていたNHKも同様だ。


 そもそも『紅白歌合戦』は「紅組=女性」と「白組=男性」が競い合うという番組のコンセプト自体に、ジェンダーの固定化、性的マイノリティの排除が内包されている。


 実際、出演者たちからも、2012年に美輪明宏が「私は紅組と白組の間の桃組で出ます」と発言したり、2018年には星野源が「紅白もこれからね、紅組も白組も性別関係なく、混合チームでいけばいいと思う」と発言するなど、「紅白」の「男女」という枠組に疑問を投げかけられてきた。


 こうした疑問に答えるように、過去には実際に「もも組」が登場したこともあったが、「色物」「異物」扱いを抜け出すものとは言えなかった。今回も紅白の枠組みを崩したわけではないが、MISIAがもっとストレートに多様性へのメッセージを演出に込めたということは大きな進歩と言えるだろう。


 しかも今回は、MISIAだけでなく氷川きよしが、『紅白』に「赤」と「白」を交えた着物で登場。バックスクリーンには「赤の着物姿」と「白の着物姿」の氷川が大きく映し出され、演歌「大丈夫」を歌ったあと、漆黒の衣装にチェンジ。激しいロック調の楽曲「限界突破×サバイバー」を熱唱するという「紅白限界突破スペシャルメドレー」で話題になった。


 これは少なくともNHKのなかにも、LGBTQに偏見を持たず、むしろ差別や多様で自由な性の実現に向けて努力しようとしている人たちがということだ。


●NHKの新番組『不可避研究中』で稲垣吾郎が語った「ヒロくんへの世間の過剰反応」


 実際、NHKが年末に“LGBTと多様性”を扱った番組は『紅白』だけではなかった。12月27日には、稲垣吾郎がMCを務める『不可避研究中』という番組がスタートした。ジャニーズ事務所から独立後はじめての地上波レギュラー番組ということでも注目を集めていたが、その初回放送のテーマがまさに「ジェンダー」だったのだ。


 番組は、〈世の中の誰もが避けて通れない「不可避」な問題をディレクターたちが独自の視点で研究し、思わず考えたくなる動画を作成〉というコンセプトで、短い動画を流し、稲垣らがスタジオでコメントする流れ。初回放送では、「女の子だから」という声に疲れている人たちの街頭インタビュー動画や、日本のあまりに低いジェンダー・ギャップ指数に踏み込む寸劇の動画、アンケートで集まった「○○は男性差別では?」との疑問をディレクターが田嶋陽子氏ら女性学研究者・フェミニストたちに正面からぶつける動画など、様々な方向から「ジェンダー」を考えるというものになっていた(各動画は番組公式Twitterでリンクが貼られている)。


 また、スタジオでも、稲垣吾郎とゲスト出演者の市川紗椰が、自分の身の回りで体験した「同性の友だちをめぐる偏見」を語る場面があった。


 「僕の話になっちゃうんだけど、何年か僕ほら、ちょっと『おじさんと一緒に暮らしてる』みたいな、けっこうテレビとか出てて、ニュースとかなったんですよ。ヒロくんっていう友だちなんですけど。すごく友だちで、家族みたいで、今日もこのあと会うと思うんですけど。それが、なんかすごく騒がれたんですよ。すごく仲のいい同性の年上の友だちと、ほぼほぼ半同棲にしていたというだけで、ちょっとそこに過剰に反応しているのがびっくりしたんだけど」(稲垣)


「それは私もわかります。高校の一番の親友がレズビアンのコなんですけど、それを(人に)たまに言うと、ずっと『市川のこと好きなんじゃない?そのコ』とかすごく言われるんです。(私が)ただの友だちだと言っても。そういう前提で話しかけられるのはすごいびっくりします」(市川)


 このように、上から目線で「LGBT」を扱うのではなく、あくまで身近な人たちとして寄り添ったNHKの『不可避研究所』だが、その初回放送のなかでもチャレンジングだったのは、やはり、「NHKのトイレで、ジェンダーについて考えてみた」という動画だろう。


 この動画では、トランスジェンダーの建築家・サリー楓さんがハンディカメラを持ち、NHK局内のトイレを検証。「多機能トイレが女性トイレに一旦入ってからというのが、他の並んでいる方からの視線が気になる」「男性用トイレ(の個室)にはゴミ箱がない」「女性から男性に性別を変えられた方って、生理が来たりする方も中にはいる」など、トランスジェンダー当事者として指摘した。


 さらに同じ動画では、なんとNHKではたらく性的マイノリティの人たちに直接インタビューをし、その声を地上波で伝えたのだ。


●局内のトイレ検証に続き、LGBTQのディレクターの声を紹介したNHK新番組


 インタビューを受けたのは、2名の現役NHKディレクター。職場ではカミングアウトしていないのでボイスチェンジャーは使っているものの、ありがちなモザイク加工ではなく、動物の着ぐるみを着てカメラの前に立った。


「女性で女性が好きなレズビアン」と自身の性を認識している20代ディレクターは「みなさん『うちの職場にはいないよね〜』みたいな感じのことが多いので、おーい、ここにいるよ〜みたいな気持ちになったりとかはあります」と日常で感じたことを吐露。また、「メインはゲイ、ときどきB(バイセクシャル)やQ(クエスチョニング=性的指向や性自認が明確ではない)になるのを感じる」という20代ディレクターは、トイレについてこのように話していた。


「パーテーションがないのがすごく気になってしまって、基本的に個室にはいるようにしてます」
「(個室が)空いてないときもあるじゃないですか。オンエア前とかで行きそびれたときとかもあって、(スタジオの)卓の前に座りながら気もそぞろというか」
「『いろんな人がいるよね、自分はこうだけども』ぐらいの感じで、みんなが生活できるようになると、このジェンダーをめぐる問題も変わってくるのかな」


 この動画をつくったのはNHKの報道カメラマンだ。職員へのインタビューだけでなく、NHKの個室トイレ42カ所にアンケートを設置して調査もしている。それによれば、「男性用トイレにサニタリーボックスがほしい」という声が6件、「性別関係なく使えるようなトイレがほしい」という声も116件集まったという。


 あえて局内の、それも、カミングアウトしていないLGBTの人たちに取材をし、それを放送するというのは、かなりチャレンジングだし、番組づくりとして画期的とさえ言えるだろう。なぜならば、視聴者にとって抽象的な「性的マイノリティ」ではなく、具体的に職場や学校などで日常的に接している人たちのことを想像させるからだ。


 LGBTQをめぐっては、いまだにネット上や社会生活での偏見・差別がはびこっているのはもちろん、民放テレビ局でも相変わらず「ネタ」にして笑い者にするという状況がなくなったとはいえない。


 政治に目を向けると、自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌で「LGBTは『生産性』がない」と剥き出しの差別言辞を繰り出したり、やはり自民党の平沢勝栄衆院議員が「この人たちばっかりになったら国は潰れちゃう」と集会で発言するなど、安倍政権はむしろ多様性を否定するように前時代の父権主義的価値観を押し付け、LGBTQ当事者たちへの差別を扇動すらしている。事実、安倍首相は昨年の参院選時に行われた党首討論で、「LGBTの法的な権利を与えるというのを認めるという方」という記者からの質問に対し、手を上げず「イエス」の意思表示をしなかった。


 そうしたなかにあって、NHKという大きな影響力を持つメディアが、『紅白歌合戦』などの番組でLGBTQをフィーチャーし、「様々なセクシュアリティと多様性を認める社会」というメッセージを発信していることは、繰り返しになるが、この社会を改善させるきっかけになりうる。政治報道では安倍政権を忖度した内容ばかりが目立つNHKだが、年末番組で見せたような取り組みには、本サイトとしてしっかり拍手を送っておきたい。
(編集部)


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