奨励される高齢者雇用 管理体制不備で若者にしわ寄せ

1月3日(木)7時0分 NEWSポストセブン

若者が働く前提になってきた場所でも高齢者を雇うように

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 輝くシニアとして元気に働く高齢者が称賛され、政府も65歳以上の離職者を雇用した事業主に奨励金を支給する制度を実施している。若者とは違う丁寧な接客などが利用者には好評だと話題になったこともあるが、高齢者雇用に対応した労務管理のノウハウがないため、処理しきれない業務のしわ寄せが若者の負担になっている職場が少なくない。奨励金ほしさに高齢者雇用をすすめる事業者がある一方、それに対応しきれない現場の疲弊について、ライターの森鷹久氏がレポートする。


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「どうもいらっしゃい…。こちらがね…メニューです。決まったら呼んでね…」


 千葉県北西部にあるチェーン店系のファミリーレストランに入り席に着くと、筆者の父や母よりも高齢とみられる男性が、水と共にメニューを持ってきた。不慣れなのか加齢の為なのかはわからないが、どことなくぎこちない手つきに多少不安感を覚えるものの、若者にはない落ち着いた物腰、業務的ではない柔和な応対には「ほっこり」させられた気分になる。


 大手レストランチェーンの「すかいらーく」は、パートやアルバイト従業員が希望すれば、75歳まで雇用できるよう制度を改めた。背景には深刻な人手不足があるが、高齢社会白書(内閣府・平成29年版)によれば、現在仕事をしている高齢者のうちおよそ57%が「75〜80歳まで」「働けるうちはいつまでも」と答えている。「65〜70歳まで働きたい」という回答も含めれば、高齢者の9割以上が高い就業意欲を持っていることがわかるように、高齢者の社会復帰は単に人手不足だけが理由ではないのだ。


 就業者不足の穴を補うため、そして高齢者自身の就労意欲を満たすために高齢者雇用を推進する、といえばまさに「ウィンウィン」であるように思えるが、現場からは「早計だ」「安易すぎる」との声も上がる。東京都内の飲食店チェーンで店長を務める佐々木一郎さん(仮名・30代)は、自社が数年前から高齢者の積極雇用を推進してきたことで、店のマネージメントが狂ってしまったと話す。


「本社の方針もあり、うちの店では4〜5人くらいの高齢アルバイトさんを雇いました。高齢者雇用促進の報道もあり、お客様からも最初は評判だったんです。ファストフード店らしくない対応はもとより、実際にクレーマーのようなお客様も減りました。しかし、マニュアルなどは、アルバイトが“若者であること”前提で作っていたために、様々なルール・仕組みの見直しを迫られました。休憩時間、シフト、作業内容など…結局、高齢者に働いてもらうために、若いアルバイト、社員がカバーをしなければならない、ということになったんです」(佐々木さん)


 例えばレジ接客、調理や清掃などの業務は、各アルバイトがシフト時間内に交代でやってきた。業務内容に偏りがないよう、さらに言えば、アルバイト全員がどの業務でも対応できたほうが、経営者側としては都合がよい。しかし、そこに高齢者が入ってくると、話は変わる。高齢バイトは重いゴミ袋を持ち上げることはできないし、混雑時のテーブル清掃などはテキパキ働ける若いアルバイトでなければ客の回転率も低下する。若いバイトからは「前より仕事がつらい」などとの不満も漏れ出し、若者から順に店を辞めだす事態にまでなった。


「弊社はこの五年、お客様が減り続けており、そのテコ入れのためにも高齢者を迎える、という方法を取り入れたのかもしれません。…が、現場は疲弊しています。もちろん、高齢者を排除すべきとは言いませんが、もう少し、適材適所という言葉をわかってほしいというか…」(佐々木さん)


 人手不足に悩む千葉県内の運送会社でも、高齢者の積極的な雇用を打ち出しているが、同社人事部の男性担当者(40代)は、理想と現実のはざまで頭を抱えているという。


「とにかく人手が足りない運送業界。倉庫内の荷捌きなどいわゆる"軽作業"は若者や外国人留学生のアルバイトにメインで働いてもらっていましたが、穴を埋めるために、そして補助金まで出るというので、当社でも高齢者の雇用に踏み切ったのです」(運送会社人事担当者)


 我々にはあまりなじみがないが「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」という、厚労省が定めた助成金制度が存在する。平たく言えば、65歳以上の高齢者を雇う事業主に、年換算で50〜70万円の助成金が支払われる(条件付き)というもので、人手不足をより安価に補える、事業者にとってはまさに渡りに船といった助成金制度だ。しかし、この制度により高齢者が増えた事で、現場が疲弊、若い労働力の流出や職場環境の悪化が進んでいるというのだ。


「とにかくなんでもいいから人が欲しい、という会社の方針で、助成金制度を用い、十数人の高齢者を採用しましたが、若者と高齢者では出来る仕事に大きな差が出ます。週末、祝祭日前や深夜など、忙しい時間帯は若いバイトで回し、それ以外の比較的ヒマな時間帯を高齢者で回さざるを得なくなりました。会社は安い労働力として、今後も高齢者の採用を進めていくつもりでしょうが、老人に合わせなければならないのか、という若いスタッフのフラストレーションは爆発寸前です。とある現場では、日本人の若者のほとんどが辞めてしまい、高齢者と外国人のアルバイトしかおらず、オペレーションに苦労している、なんて事例でも出てきている」(運送会社人事担当者)


 ほぼ同じ給与で働いているにもかかわらず「高齢者の仕事は楽なのではないか」、そうした不満を持つ若者が出てくるのも当然だろう。ここでも「高齢者に働いてもらうために若者が我慢を強いられる」という事態に陥っているのだ。現役世代も、現場復帰を望む高齢者も、そして外国人労働者も全員が満足できるという、三方が皆笑顔になるような職場環境づくりは確かに難しいのかもしれないが、この国をこの先長く担って行くはずの現役世代の取り分が減ったり、就労意欲を削ぐような仕組みでは、本末転倒というほかない。

NEWSポストセブン

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