ジローラモvs.姜尚中“モテ句頂上対決”? 6カ国対抗! 外国人新春句会【蒲団編】

1月4日(木)17時0分 文春オンライン

宗匠役に俳人・金子兜太を迎えた外国人句会。姜尚中の俳句デビューに沸いた 【蜜柑編】 に続く2回戦の季題は「蒲団」。異色の6カ国対抗俳句バトル、スタート!



蒲団の12句、ご披露!


 2回戦は「蒲団」が季題ですね。「毛布」でも可ということでしたが、なかなか頭をひねりました。


金子 姜さんの作風もなかなか面白いし楽しみだ。では12句お披露目。





 蒲団に猫毛布に犬と御主人と


 猫と吾と蒲団幾重も境なく


 癌に逝く友の脱け殻敷き蒲団


 積もる雪夢見る熊の蒲団かな


 猫も知るふかふか布団の気持ちよさ


 一目惚れの人が温める布団かな


 東雲などと蒲団から顔出している


 酷似する毛布と領土の奪い合い


 蒲団上げ世界を描くわが粗相


 雪の日に蒲団のなかで湯たんぽ


 眠る古都心温もる雪布団


 夢うつつ蒲団隔てる世が二つ



©iStock.com


「熊は雪を蒲団にしないよ」「だから夢見る熊なんだ」


金子 最高点句が4点句「積もる雪夢見る熊の蒲団かな」。ジローラモさん、姜さん、モレシャンさん、私がいただきました。


ジローラモ 熊が出てきて面白い。


 意外性ですよね。


ジローラモ 雪が蒲団になっている感じにも読めて、冬眠している熊にかかる雪があったかいと想像させる。


ビナード 熊は洞窟か大木の穴で眠る。雪を蒲団にする個体は少ないよ。


金子 いや、だから夢見る熊なんだ。実際に雪をかぶっているわけじゃない。外は雪だなあって穴の中で思っている。そして積もる雪が蒲団のようだと言うんだ。


 でも私はこの句、ちょっと単純かなあって思った。



楊逸(作家・中国代表)


金子 2回戦目は最後に作者を明かすことにして、次は3点句「夢うつつ蒲団隔てる世が二つ」にいこう。私と姜さんとビナードさんが取った。


ビナード 夢とうつつ、その境目が蒲団であると、蒲団を哲学してる感じが面白いなあと思った。でもちょっと頭でっかちな句かもしれない。


金子 そうだね。こういうのを我々は観念的というんだけど。


モレシャン 私には響かなかった。突き詰めて考えても、漠然としてて、結局よく分からない句でした。


ジローラモ 私もよくわからなかった。ただ日本に来てすぐの頃、蒲団で寝ていたんですが、いつも寝相が悪くて蒲団から出ちゃって、畳の上で寝てたってことは思い出したけど。


金子 畳へゴロっと行って、また蒲団に戻ってくる、そんな2つの世がある、というふうにも読めませんか。


ジローラモ ああ、それだったら取ったかもしれない。



省略の味、というものがある


モレシャン 説明されないとわからないということは、言葉のシンプルさがうまく句の中ではたらいていないんじゃないですか。私にとってはシンプルなものが1番です。


 なるほど……。この句を取っておきながら言うのも何ですが、私も最近、シンプルなものこそが良いと思い始めています。さっきの与謝蕪村や正岡子規にあるシンプルさというものに惹かれ始めたのもそういうことなのかもしれません。



©共同通信社


金子 子規も蕪村も、単純に言えばさっぱりしてる。


モレシャン 洗練された言葉のシンプルさ。それが俳句を支えるものじゃございませんか。


 その通りですね。俳句でいう「シンプル」はプリミティブ(原始的)なものではなくて洗練されたものでなければならない。


金子 省略の味ですね。いやこれは、なかなか議論を呼んだ句でした。次は2点句「猫と吾と蒲団幾重も境なく」。シンプル派の2人、姜さんとモレシャンさんが取ってますね。


 ユーモラスな句ですよね。


モレシャン 猫大好き。


 「犬と吾と」はダメですか?


モレシャン やっぱり蒲団には猫。寒がりだし、お蒲団に入るの大好きな動物ですから。


ビナード 小林一茶に「小蒲団や猫にもたるる足のうら」っていうのがありましたね。


金子 一茶はたくさん猫の句作っていますよ。


 私は猫と蒲団の組み合わせの句が多かったから取りませんでした。



フランソワーズ・モレシャン(ファッションエッセイスト・フランス代表)


暗さのある句、艶のある句


金子 食傷したってわけですな。次も2点句「癌に逝く友の脱け殻敷き蒲団」。ジローラモさんとビナードさんが取っている。意外な2人が取った。


ジローラモ 蒲団はどこかハッピーなイメージがあるんだけど、この暗さはどの句にもないものだった。


金子 なるほど。次は一転して艶のある句。私とビナードさんが選んだ「一目惚れの人が温める布団かな」。


ビナード 最初読んだとき、一目惚れしてすぐに寝ちゃっているなんて、だらしない句だなと思った。だけど本当は、一目惚れして一緒になって、長いことともに生活しているその人が今も同じ蒲団に寝ると、そう読んだほうが深まる気がします。今でも相手を、一目惚れの人と思っているのがいいなあって。



©iStock.com


金子 うまい解釈ですね。姜さんはいかがですか、この句。姜さんの雰囲気のする句だ(笑)。


 そんなことはないです。


ビナード これ、姜さんの句じゃないですか?


 (手を顔の前で振りながら)違います。


金子 姜さんは女性にモテると思うんだがな。


 モテないですよ。



いい句ってのは上5にエレキが走ってるんだ


金子 もう1人の色男、ジローラモさんだけが取っている「猫も知るふかふか布団の気持ちよさ」。


ジローラモ 私が蒲団から出ると、今度は猫が蒲団に入る。幸せだなあと思った。





 ウーン、ちょっと単純すぎな句じゃないかなあ。


金子 でも私は「猫も知る」という上5が上手いと思いました。いい句ってのは上5にエレキが走ってるんだ。それから「東雲などと蒲団から顔出している」。楊さんが取った。


 共感できる1句でした。


 美しいのですが、やや「東雲」という言葉が気になりました。


ビナード 「東雲などと」と吐き捨てるように言っているようにも思える。東雲は古語で美しい言葉だけど、顔を出している方は「そんな優雅なものじゃないんだ、眩しいんだーっ」ということを言っているのかな。上5の字余りも思い切っていて、一見、投げやりな感じがあるんだけどこの題材に合っていますよね。悩んで取らなかったんですけど。



アーサー・ビナード(詩人・アメリカ代表)


おねしょをしたのは誰?


金子 「雪の日に蒲団のなかで湯たんぽ」はモレシャンさん選。


モレシャン 今、私湯たんぽを探しているんです。プラスチックじゃないアルミのもの。初めて日本に来た53年前、冬は湯たんぽさまさまでございました。とっても懐かしい。


金子 この句より湯たんぽがいいということだな(笑)。「眠る古都心温もる雪布団」は楊さんが取った。


 京都、奈良の古建築の上に雪がしっかりと積もっている。その風情が漂っていて好きでした。


金子 「蒲団上げ世界を描くわが粗相」。やっぱり楊さんが選んでる。


 ふざけていてユーモアがある句だから。(小便)て短冊にあるけど。


ビナード (小便)という注釈はいらなかったね。


ジローラモ 注釈で一気に臭いがしてきた(笑)。



パンツェッタ・ジローラモ(エッセイスト・イタリア代表)


ビナード 日本語では「世界地図を描く」という言い方が、そのままおねしょを指しますよね。


 中国語にもある。「つきすぎ」かもしれないけど、この句は1歩踏み込んでる。だって誰もはっきり言えない恥ずかしい過去を、この人、あえて俳句の中に入れちゃったわけだから。


ジローラモ さっきのシリアスな癌の句を作った人なら面白いね。蒲団の明と暗とを書き分けているから。


ビナード 徹底しているよね、もし同じ作者だったら(笑)。



合計7点の完全優勝者が誕生!


金子 あとは点の入らなかった句が2つ。これは名乗りと一緒に作者の弁明を聞こうか。まずは「蒲団に猫毛布に犬と御主人と」。これ、私です。今日は誰も取ってくれねえなあ! こういうのをコンチキショーと言うんだ(笑)。もう1句、無得点だったのが「酷似する毛布と領土の奪い合い」。



宗匠・金子兜太(俳人・日本代表)


ビナード 僕です。


金子 ちょっと凝りすぎたな。


 批評家的な感じがしますね。


金子 ハハハ、ビナードの句が批評家的というのは鋭いな。それでは最高点句の「積もる雪夢見る熊の蒲団かな」。誰の句でしたか。


 (黙って挙手)


モレシャン 楊さんすごいすごい!


金子 蜜柑でも4点取って、蒲団でも4点。完全優勝ですなあ。3点句「夢うつつ蒲団隔てる世が二つ」はどなただろう。


 (黙って挙手)


金子 恐れ入谷の鬼子母神。蒲団の回で7点獲得。楊さん快進撃だなあ。今年の菊池寛賞だ。


 蒲団の中で夢の世界にいるときにも、蒲団の外側の現実の世界は続いている。蒲団を隔てただけで世が2つあるような気がして。


 さすがだなあ。


 ウレシイ!





金子 2点句「猫と吾と蒲団幾重も境なく」。


ビナード 僕でした。


金子 うまいうまい。「癌に逝く友の脱け殻敷き蒲団」は?


 私です。ちょっと暗いね。


ビナード とてもいい句ですよ。


金子 「一目惚れの人が温める布団かな」は姜さんじゃないのかい?


ジローラモ 私ですよ。





金子 ありゃりゃ、こっちの色男でしたか。ここから1点句。「猫も知るふかふか布団の気持ちよさ」。


モレシャン 私でした。ジローラモが取ってくれた。気持ちが近いね、私たち。


お下(しも)のことを堂々と。諧謔味があるよ、姜さん


金子 「東雲などと蒲団から顔出している」はコンチキショーの私。「雪の日に蒲団のなかで湯たんぽ」は?


ジローラモ 私ですね。モレシャンが取ってくれた。気持ち近いね。


金子 「眠る古都心温もる雪布団」は姜さんかい?


モレシャン 私ですわよ。金沢で作りました。


金子 あんたこんな落ち着いた句、作るんだ。驚いたな。じゃあ物議を醸した「蒲団上げ世界を描くわが粗相」は……。


 僕なんです(笑)。



姜尚中(政治学者・韓国代表)


モレシャン 意外!


ジローラモ 蒲団の明暗を描いた作者は同一だったんだね(笑)。


ビナード おねしょしてたの?


 いつ頃?


 小学生の時に。


金子 お下(しも)のことを堂々と。諧謔味があるよ、姜さん。


 いやあ、初めての句会でしたがこんなに楽しいものだとは思いませんでした。テレビの2時間番組でもやってみたいくらいです。


金子 NHKに言っといてください。俳句は世界最短の定型詩だけど、まさに姜さんの蒲団の句のように、人生の明暗に至るまで、全てを包み込む文学なんですな。これが日本の誇れる俳句です。今日はちょっと忸怩たるものがあったから、また来年挽回したい。それまでみなさんも、うんと腕を磨いておいてくださいよ。今年もいい句会だった。めでたしめでたし。


写真=釜谷洋史/文藝春秋



(「文藝春秋」編集部)

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