ヤクルト山田哲人の責任感と石川雅規の涙に見た希望の光

1月4日(木)11時0分 文春オンライン

 シーズンオフというのは、過ぎ去りし一年を振り返りつつ、来るべき新しい一年に思いを馳せる大切な時期なのだろう。野球雑誌、そしてスポーツ紙にはデータによる2017年シーズン検証企画、あるいは18年の新戦力分析が数多く繰り広げられている。とは言え、17年東京ヤクルトスワローズは歴史的惨敗のシーズンとなった。できることならば振り返りたくないし、思い出したくもないのが正直な思いだ。


 けれども、ゼロからの再スタートを切るためには、この一年を決して忘れてはいけないし、次への糧としなければならないのだろう。辛いけれども、現実から目を背けてはいけないのだ。そんな覚悟と決意で17年の年の瀬を、僕はやるせなく過ごしたのだった。改めて、チーム成績を振り返ってみる。


45勝96敗2分、勝率.319

473得点、653失点、チーム打率.234、95本塁打、50盗塁、防御率4.21


 借金はまさかの51! 絶対に返済不能だよ。セ・リーグを制した広島には7勝17敗1分で、ゲーム差は怒涛の44。5月30日から6月10日にかけては引き分けを挟んで10連敗。さらに7月1日から21日までは、同じく引き分けを挟んでまさかの14連敗。


 もはや、笑うしかないだろう。チーム打率、チーム防御率はともにリーグワースト。打てないし、打たれる。それでは勝てるわけもなく、96敗も当然の成り行きだ。「あぁ、100敗しなくてよかった」と、せいぜい胸を撫でおろすことしかできないのが僕の本音なのだ。


なぜこんなに負けたのか……


 17年ヤクルトは故障者が続出した。優勝した15年に首位打者を獲得した川端慎吾、打点王・畠山和洋を欠き、6月にはバレンティンが右太もも肉離れで戦線離脱。さらにこの月は正捕手・中村悠平が大腿骨挫傷、雄平が右有鈎骨骨折でスタメンから外れるという大惨事。


 投手陣では6月末に守護神・秋吉亮が右肩甲下筋の肉離れでおよそ2カ月間の戦線離脱。9月には小川泰弘、星知弥がいずれも右ひじを疲労骨折。ローテーションの中心となるはずだったオーレンドルフはわずか4試合に登板したものの、まったく結果を残すことができずに二軍に降格。そのまま一軍に昇格することなく、0勝のまま帰国。あぁ、紙くずと消えた推定年俸1億7600万円……。


 当然のことだけれど、振り返れば振り返るほど暗い話題しか出てこない。こんな成績では仕方のないことかもしれない。しかし、精神衛生上、辛いことばかりを考えて生きるのは決して好ましいものではないのも事実。だからこそ、僕は無理やりにでもポジ要素を探したいし、仮に見つからなければ捏造してまでも、明るい話題に耽溺したいのである。



山田の責任感と石川の涙に見た希望の光


 何としてでも明るく前向きな気分で18年シーズンを迎えるために、僕は17年の「私的MVP」を選出することにした。さまざまな観点からMVP候補をリストアップ。さんざん悩んだけれども、野手ではあえて山田哲人を推すことにした。「3年連続トリプルスリー」という前人未到の記録が期待されたものの、17年シーズンは打率.247、24本塁打、14盗塁で「トリプルスリー」にはほど遠い成績だった。けれども、チームで143試合フル出場を果たしたのは山田だけだった。


 山田以外の主力打者がほとんど戦線離脱している中で、徹底的にマークされることとなった。チームの不振のすべてを一人で背負い込むように、山田は来る日も、来る日も試合に出続けた。それが、ミスタースワローズの象徴である背番号《1》を受け継いだ男の使命であり、3億5000万円という大金を手にする男の責任でもあると自覚しているかのようだった。


 確かに、前年までと比較するとすべての面において物足りない成績だ。けれども、ショートを守る廣岡大志、あるいは奥村展征らに対してときおり先輩らしい振る舞いを見せ始めたのが17年の収穫でもある。自分よりも年下である20歳の廣岡、22歳の奥村ら若き才能に対して、25歳の山田がついにリーダーシップを発揮し始めたのだ。立場は人を作る。山田の中にある責任感の芽生えを感じ取れたことが、僕にはとても嬉しい。



昨季、チームで唯一フル出場を果たした山田哲人 ©文藝春秋


 そして、「責任感」と言えば、僕は真っ先に「小さな大投手」・石川雅規の姿が頭に浮かぶのだ。17年の石川は4勝14敗、防御率は5.11という成績に終わった。いずれも、16年間にわたるキャリアワースト記録だ。開幕戦こそ、勝利投手になり、その後も白星を重ねたものの、5月24日の広島戦から、まさかの11連敗でシーズンを終えた。


 それでも、彼が登板した23試合、そのすべてが先発起用だったことは忘れてはいけない。これで09年4月3日の阪神戦から継続中の連続試合先発登板記録は230にまで伸びて、山内新一(南海→阪神)、三浦大輔(DeNA)に次ぐ歴代3位を更新中だという。結果は伴わなかったものの、これこそ「エースの責任感」ではないか。だからこそ、投手MVPは石川にしたいのだ。


 17年シーズン、ノックアウトされた石川がベンチで泣いている姿をテレビカメラが捉えたことがあった。37歳、16年目の大ベテランが、一人ベンチに座ってタオルを顔に当てながら、静かにむせび泣いているのである。思い通りにならないピッチングがふがいなかったのだろう。自分自身に腹が立って仕方がなかったのだろう。神宮球場コンコースのモニターで、その姿を確認した僕は、思わずもらい泣きしてしまった。現役最多の通算156勝をマークするヤクルトの小さなエースが試合中に泣いているのだ。あふれる思いを隠すことなく、感極まってしまっているのだ。


 逆説的な言い方になるけれど、僕は山田の不屈の精神に、そして石川の涙に希望の光を見た。プロとしての誇りを感じ、ヤクルトの復活を確信した。根拠なんかない。それでも、確信したのだからしょうがない。堕ちりゃ、地獄の底もある。そう、17年には「51」もあった借金が、年が明けた瞬間に「0」となる徳政令。「44」もあった首位・広島とのゲーム差も、18年が明けるとともに「0」となる平等主義。もう底は打ったのだ!


 年は明けたのだ。辛く苦しかった17年はすでに過去のものとなり、僕らの目の前には希望にあふれた18年が訪れたのだ。新春の幕開けとともに、ヤクルトは小川淳司新監督、そして宮本慎也ヘッドコーチとともに再出発する。今年のチームスローガンは「Swallows RISING 再起」だ。希望に満ちた元旦の初日の出のように、18年のヤクルトは「RISING」なのだ。陽はまた昇る。


 今年もまた、僕は神宮球場に駆けつける。選手たちの戦いをきちんと見届ける。ヤクルトナインは屈辱をバネにした堂々たる戦いを見せてくれるに違いない。僕は間違いなく信じている。これも根拠はないけど信じている。ヤクルトとともに過ごす新たな一年が始まる。ヤクルトファンのみなさん、新年明けましておめでとうございます!


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(長谷川 晶一)

文春オンライン

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