角田光代さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

1月4日(木)17時0分 文春オンライン


角田光代/作家 ©文藝春秋


『望むのは』 の、十五歳の小春と、ゴリラを母に持つ隣家の歩の、風変わりでありつつもひどくふつうの日常を、二十歳の私なら今よりずっと身近に感じるだろうし、切実に共感するだろう。小春や歩、友達の鮎ちゃん、ハクビシンの八木先生やゴリラの秋子さんと、生身の人(動物)として出会い、その出会いに、その後の人生の影響を受けたかもしれない。


 五十歳の私もこの小説に感動したけれど、でも二十歳の感動はもっと深くて、生々しかったはずだ。そしてこの著者の、新鮮な言語感覚に打ちのめされて、小説ってすごく自由なものなんだ、とびっくりするだろう。二十歳のときから小説を書きはじめた私に、それはいちばん届けたい驚きなのだ。


 父親の経営するボクシングジムをなんとなく継いだ女性と、黙々と練習を重ねる若きボクサーが、北海道初のチャンピオンを目指して、加速度的にがんばっていく姿に、二十歳の私はすなおに興奮すると思う。この 『無敵の二人』 を読めば、がんばるというのはどういうことなのか、がんばった先に何があるのか、二十歳なりに理解して、二十歳なりにもっとがんばったはずだ。できれば、読み終えた興奮そのままに、何かすぐスポーツをはじめてほしい。


『劇団42歳♂』 の登場人物たちは、みんな四十代だけれど、学生時代の演劇仲間だ。学生時代の私も演劇サークルに属していたから、倍の年齢を重ねてなお演劇熱の残っている、この小説の登場人物たちのことをよく理解しただろう。なぜ自分が大勢で創る演劇をやろうと思ったのかも再確認するだろう。そして年齢を重ねることが大人になることではないと、この小説を読んで思うのではないか。


 年齢を重ねるだけでは大人にはなれない。年齢を重ねたからといって悩みや鬱屈が消えるわけではない。そのことを知っても、この小説は、四十二歳になることに決して失望させないと思うのだ。


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『望むのは』古谷田奈月/新潮社



『無敵の二人』中村 航/文藝春秋



『劇団42歳♂』田中兆子/双葉社




(角田 光代)

文春オンライン

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