2019年の将棋界展望 藤井聡太の初タイトル、羽生善治の復権はあるのか?

1月4日(金)7時0分 文春オンライン

 2018年は将棋界でも多くの出来事があった。中学生棋士・藤井聡太による朝日杯将棋オープン優勝、タイトル戦に昇格した叡王戦では高見泰地がドリームを実現し、また棋聖戦と王位戦では豊島将之が悲願のタイトルを奪取した。王座戦でプリンス・斎藤慎太郎が頂点に立ったのも忘れてはいけない。



どちらが制しても初挑戦初タイトルとなった叡王戦七番勝負で、金井恒太六段(写真左)に勝利した高見泰地叡王 ©相崎修司


ついに羽生善治がタイトルを失った


 女流棋界では絶対王者の里見香奈を打ち破って、渡部愛が女流王位を獲得。またヒューリック杯清麗戦という新棋戦が誕生したのも明るいニュースである。


 そして竜王戦で広瀬章人に敗れた羽生善治が、ついに保持するタイトルを失った。2017年に永世七冠を達成したのち、昨年春には竜王・棋聖の「二冠」として6人による順位戦A級プレーオフを制して名人戦七番勝負への出場を決めるなど「羽生健在」を示していただけに、年末の「27年ぶりの無冠転落」は各地に衝撃を走らせた一大ニュースとなった。一つの時代の転換点となったことは間違いない。



藤井聡太、今年こそタイトル戦登場なるか


 では年が明けた2019年、今年の将棋界はどのような1年になるだろうか。



 まず注目が集まるのは藤井聡太だろう。昨年に引き続いての朝日杯連覇となるか、そして今年こそタイトル戦番勝負への登場がなるか。


 タイトル獲得はいつか実現するとみられているが、屋敷伸之のもつ史上最年少タイトル獲得記録(18歳6ヵ月)を更新するならば、悠長にはしていられない。2020年の年末に決着が予想される竜王戦七番勝負までに奪取すれば年少記録の更新となるが、それまでに出られる可能性があるタイトル戦番勝負は10期しかないのだ(2019年の棋聖戦、王座戦、竜王戦。2020年の王将戦、棋王戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦、王座戦、竜王戦)。


 この中では本戦出場まであと1勝に迫った今年の棋聖戦、そして2018年度のベスト4によって本戦シードとなる王座戦がもっとも番勝負に近い位置と言えるだろうか。



師弟同時昇級ならば、32年ぶり史上2例目の快挙


 そしてデビュー以来連勝が続く順位戦。現在所属するC級1組では、師匠の杉本昌隆ともども無敗街道を走っている。師弟が同クラスで同時昇級となれば、これは第45期(1987年度)B級2組順位戦で大内延介・塚田泰明師弟が成し遂げて以来、32年ぶり史上2例目の快挙となる。



 そこに立ちはだかるのが、やはりC級1組で全勝の近藤誠也だ。2017年の竜王戦では藤井にデビュー19連勝目を献上してしまった近藤がリベンジに燃えるのは間違いない。2月5日に行われるC級1組の藤井−近藤戦は天王山となる注目カードだろう。



ダブルタイトル戦に臨む渡辺明


 藤井の話を続けてしまったが、将棋界での価値は何といってもタイトル戦にある。1月から始まる王将戦七番勝負(2019年に予選が始まる69期から正式名称が「大阪王将杯王将戦」となる)、2月から始まる棋王戦五番勝負の2つに登場するのが渡辺明だ。王将戦では挑戦者として久保利明と、棋王戦ではタイトル保持者として広瀬章人と戦うことになっている。



 渡辺は2017年度に不調に陥り、竜王失冠やA級陥落の憂き目をみた。だが年度末に辛くも棋王を防衛してからは復活の兆しを見せる。王座戦で挑戦者決定戦に進出すると、JT杯日本シリーズでは4年ぶりに優勝。B級1組順位戦でも圧巻の9連勝で年明けを待たずにA級復帰を果たした。新年から行われるダブルタイトル戦では、2年ぶりの二冠復帰も視野に入っている。なぜ復活できたのだろうか。本人に話を聞いた。


「昨年度はとにかく後手番で勝てませんでした(7勝18敗)。私は『後手番では5割勝てばいい』というのが持論なんです。先手で7〜8割勝てば、トータルの年度勝率は6割を維持できますから。後手番で5割勝つための作戦を用意して、それが今年度はうまくいっているという感じですね(2018年度の後手番成績は13勝5敗)。


 昨年度の状態がずるずる続くと完全に力が落ちたことになりますが、自分のいい時の状態に戻すことができたので不調は一過性のものだったと言えます。王将リーグの前までは戻っている実感を得られませんでしたが、挑戦権を得たことで自信が持てました」



唯一無二ともいうべき振り飛車党



 対して、王将の防衛を目指す久保は今一つ調子が上がっていない。だが、昨年度も年が変わるまでは似たような状況だった。前期の王将戦第1局で豊島将之に完敗した時は、久保失冠の声の方が高かったように思う。ところが蓋を開けてみれば4勝2敗で防衛を果たした。現在のタイトル保持者でただ一人の40代棋士であり、唯一無二ともいうべき振り飛車党ということもあり、ファンの声援を受けて防衛戦に臨む。


 棋王戦の挑戦者である広瀬については改めて言うまでもないだろう。羽生から竜王位を奪った現在の状態が悪いはずもない。自身初の二冠を虎視眈々と狙っているはずだ。


 女流棋界に目を転じると、女流名人戦五番勝負が間もなく開幕する。里見香奈に挑むのは伊藤沙恵。前期も挑戦したが及ばず、今期こそ悲願の初タイトルを目指す。


 里見は女流王位こそ失冠したものの、そのあとは一度も女流棋士に敗れていない。女流王座、倉敷藤花を連続でストレート防衛した里見がまたも防衛を果たせば、しばらく里見の一強状態が続くと言えるだろうし、伊藤が奪取に成功すれば、昨年の渡部愛に続いてのニューヒロイン誕生となる。



NHK杯では羽生世代の奮闘が目立つ


 タイトル戦以外でも朝日杯将棋オープン、NHK杯といったトーナメント棋戦が佳境を迎えている。朝日杯は本戦トーナメントの組み合わせが決まり、前回優勝の藤井は初戦でA級棋士である稲葉陽と対戦する。NHK杯では「早指し棋戦は若手有利」と言われる定説を覆すかのように、ベテラン勢の奮闘が目立っている。現在、ベスト8のうち4名が確定したが、その全員が羽生世代(47〜48歳)なのだ(羽生に加えて、森内俊之、丸山忠久、郷田真隆)。タイトル戦では若手に後塵を拝したが、まだまだトップを譲るつもりはないだろう。



 そして、「羽生善治の復権がなるか?」という点については、まず4月から始まる名人戦七番勝負の挑戦権を得られるかどうかが一つの試金石になる。タイトル戦に出続けることで、その環境を体に慣れさせる意味合いは想像以上に大きいからだ。名人への挑戦権を決めるA級順位戦はここまで5勝1敗で、6勝0敗の豊島に次ぐ位置につけている。年明けには豊島との直接対決も控えており、両者にとって大きな一番だ。


 本格的な戦国時代に突入した、新時代の将棋界はまだまだ目が離せない。



(相崎 修司)

文春オンライン

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