中央大・舟津選手と田母神選手の最後を見届けたかった——箱根駅伝2020「TVに映らなかった名場面」復路編

1月4日(土)21時10分 文春オンライン

東洋大・相澤&東京国際大・伊藤、2区で見せた「ランデブー」の舞台裏——箱根駅伝2020「TVに映らなかった名場面」往路編 から続く


 青山学院大が2年ぶり5度目の総合優勝を果たした第96回箱根駅伝。今年も数々のシーンが駅伝ファンの心に刻まれた。今大会も全区間に足を運んで現地観戦した駅伝大好き集団「EKIDEN News」( @EKIDEN_News ) の西本武司さんが、マニアックすぎる復路のエピソードを語り尽くす。( 「往路編」 もお楽しみください)


◆◆◆


【6区】日体大・廻谷選手がシューズに書いたメッセージ


 この区間、僕が注目をしていたのは、日本体育大の寮長を務める4年生の廻谷賢選手。彼は箱根駅伝を中継する日テレのディレクターが「彼の note は抜群に面白い」と太鼓判を押す、競技以外でも注目の逸材です。


 復路のスタート前、廻谷選手に注目していると、彼が履くナイキのヴェイパーフライのソールに何かが書かれている。よく見てみると「本部がやるしかです」と。



「このフレーズはなんだろう、アニメか何かの引用かな?」と思ってTwitterで呟いたところ、本人から反応がありました。「本部」と言うのは廻谷選手をはじめ、5〜8区の選手たちが一緒に生活をする寮の部屋の名前だそう。「本部」で生活する選手たちが「やるしかない」という意味で、結束力の高さが伺えます。


 その廻谷選手、実家は米農家ですが、パン好きとしても知られています。卒業後は、スーパーベルクスを経営するサンベルクスで陸上を続けることが決まりました。廻谷がスーパーベルクスでパンを売る。その姿を思い浮かべるとワクワクしますね。



 日体大つながりでもうひとつ。今や箱根駅伝はTwitterなしでは語れませんが、欠かせないのがハッシュタグ。昔は「#箱根駅伝」で事足りましたが、今は細分化されて、各大学独自のハッシュタグが存在しています。


 例えば、青学大の原監督は毎年12月に行われる箱根駅伝のプレイベント「監督トークバトル」でその年のテーマを「〇〇大作戦」と発表します。これがそのままハッシュタグとなるのです。ですから僕らは、原監督が今年のハッシュタグを発表するイベントと位置付けています。今年の青学大は「#やっぱり大作戦」、他にも東海大は「#GOTOKAI」、明治大は「#令和で起こす明治維新」と独自色を出しいてる。


 そんななか、日体大はこれというハッシュタグを持っていませんでした。もう「#日本体育大学」とかでいいんじゃないかと思い始めた頃です。NGT48で“駅伝に詳しすぎるアイドル”として知られる西村菜那子さんから「全日本大学駅伝に出るハッシュタグを集めているんですが、日体大のハッシュタグって何かありますか?」と問い合わせがきたのです。結局西村さんのオファーには間に合わなかったのですが、部員たちが必死で考え、全員がそれだ!と同意したハッシュタグがようやくできました。それが「#んっす」です。


 何かと思うでしょ? 日体大は英語でNippon Sport Science University。これの頭文字を取った「NSSU」が「#んっす」なのです。ちなみにこのハッシュタグ、せっかく作ったのに、部員も使わないのでほとんど広まらなかったことをお伝えしておきます(笑)



【7区】明治大・阿部選手が「アヴェイパー」になった日


 今大会は、選手のシューズがほとんどナイキのヴェイパーフライになった大会として語り継がれると思います。そんななか7区の注目は、明治大の阿部弘輝選手がどこのシューズを履くかと言うことでした。阿部選手は一昨年11月に行われた八王子ロングディスタンスで、1万メートル27分56秒45の記録を叩き出したすごい選手。


 明治大学はアディダスからウェアなどの提供を受けているいわゆる“アディダススクール”で、阿部選手もずっとアディダスを履いていました。果たして小田原中継所に現れた阿部選手は何を履いているのか?……(「陸王」みたいな展開ですね)……やはりナイキのヴェイパーでした。



 なんと阿部選手まで……という思いも込めて、ネットでは「アヴェイパー」と言う言葉が誕生しました。ちなみに関東学生連合で10区を走った東京大の阿部飛雄馬選手も「アヴェイパー」でした。



 7区の名物といえば、毎年11.8km地点の押切坂に現れる、「ドラゴンボール」のフリーザ様に扮したご一行。ここには日本テレビの固定カメラがあるのですが、フジテレビで放送されたドラゴンボールのキャラを映すわけにはいかない。画面に映りこまないように巧妙にテロップを入れたりする日テレと、映り込もうとするフリーザ様との攻防が、箱根駅伝マニアの楽しみの一つでした。フリーザ様は応援にその時々のトレンドを取り入れてくるのですが、今年はレコード大賞を受賞した「パプリカ」と、チョコレートプラネットのネタ「TT兄弟」。ポジション取りもバッチリ研究してきたのか、しっかりとカメラに写り込んだ彼らは、Twitterのトレンド入りも果たしました。



【8区】駒沢大の給水係にあのモノマネ芸人が……


 JR藤沢駅から歩いていける観戦スポットということでファンには知られた遊行寺。しかもここは15km付近で行われる給水も見ることができるお得な場所です。この給水を誰が行うかも見逃せないポイントになってきます。


 昨年の名場面としてあげたのも、8区で東海大の三上嵩斗選手が小松陽平選手に給水した、通称“三上水”のシーン( 「箱根駅伝、勝負を決めたのは東海大8区“三上の給水”だった——箱根駅伝2019『TVに映らなかった名場面』復路編」 )。おかげさまで文春オンラインのスポーツ部門、BEST記事にも選ばれました。


 その記事を見て「僕もいたんですけどね……」と連絡をしてきたのが、駒澤大陸上部でマネージャーと主務を務めた、モノマネ芸人のM高史さん。川内優輝さんのモノマネでおなじみですね。実はこの給水、現役の部員ではなくても関係者やOBなら担当することができ、過去には早稲田大の大迫傑選手に槍投げのディーン元気選手が給水をしたこともありました。その給水係ですが、選手と並走するため、1km3分ペースの走力が求められる。そんな人はなかなかいませんから、今年はMさんが4区と8区の給水に大抜擢されました。



 全く紹介されませんでしたが、テレビには選手を待つMさんの姿が確かに映っていました。新作ジャージの支給はなかったのでしょう。ご自身が駒澤大主務時代に着ていた古いデザインのジャージを着ていたことも付け加えておきます。



【9区】給水に“うちの羽生”が登場!


 花の2区を逆走するため“裏エース区間”と呼ばれ、選手も給水も実力者が配置されることが多い9区。今年はなんと言っても“うちの羽生”が見れたことがうれしくて仕方ないです……え、フィギュアスケートの羽生結弦選手じゃないですよ。駅伝ファンが羽生と言ったら、それは「東海大の羽生拓矢選手」のことです。


 中学、高校では世代トップの成績を残してきた羽生選手ですが、大学では故障に泣き、4年間ついに箱根を走ることはできませんでした。その羽生選手が今年、松尾淳之介選手の給水に回ったんです。


 同級生の松尾選手と走れたことがうれしかったのでしょう。給水にしてはかなり長い距離を並走。おかげで我々ファンもじっくりと羽生選手の走りを楽しむことができました。




 ちなみに9区の給水は名シーンの宝庫でもあります。今年区間賞を取った青山学院大の神林勇太選手は、2008年に中央学院大・篠藤淳選手が出した区間記録に12秒届きませんでした。それを見た青学大OBの川崎友輝選手、2015年に9区を走った藤川拓也選手に給水をした時のことを思い出すのです。この時、藤川選手は区間記録に3秒届かなかったのですが、実は横浜駅前での給水で、川崎選手と水を渡す渡さないの押し問答を繰り広げていたんです。もしあれで区間記録が更新できなかったのだとしたら、非常に申し訳ないと、Twitterで呟いていたことも、ファンにはたまらないエピソードです。




【10区】中央・舟津選手と田母神選手の最後を見届けたかった


 例年、ゴール地点で待ち受けることはあまりないのですが、今回は絶対にゴールに駆けつけようと思っていました。理由はひとつ。中央大4年生の舟津彰馬選手の最後を見届けたかったから。


 4年前、中央大が予選会で11位に終わり、箱根駅伝連続出場が途切れたとき、1年生ながら主将を務めていたのが舟津選手です。その時、関係者やOBからのプレッシャーもかかる雰囲気の中、舟津選手がした名スピーチは、記憶に残っている人も多いはずです。このとき僕は、たまたま舟津選手の前にいて、スピーチの様子を撮影していました。



 そこから僕は、ずっと舟津選手のことが気になっていた。ずっと彼を応援し続けたいと思っていたんです。その彼が今年最後の箱根を迎える。


 そしてもう一人、舟津選手が1年生で主将を務めたときに、副主将を務めたのが同級生の田母神一喜選手です。今年駅伝ブロックの主将を任された彼は、本来中距離が主戦場でしたが、主将として箱根を目指すべく、長距離の練習に励むなど、奮闘してきました。この2人の最後を見なければ、今年の箱根は終わらないと思っていたのです。結局2人ともメンバーには入れなかったのですが……。



左から中央大の田母神選手、二井康介選手、舟津選手 ©文藝春秋


 舟津選手は卒業後、九電工で競技を続けます。彼が実業団でどんな競技人生を送るのか。こうやって陸上ファンは箱根が終わった後も、選手への興味が続いていくのです。走った選手だけでなく、走らなかった選手の人生も箱根駅伝の魅力のひとつ。ゴールでの彼らの姿を見て、箱根駅伝はこの先もずっと僕らを魅了し続けてくれると、感じるものがありました。「令和の箱根駅伝」に期待したいですね。


構成/林田順子(モオ)




(EKIDEN News)

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