「ターボババア」に「ジェットババア」 怪談界で“高速移動するお婆さん”が大増殖中のワケ

1月4日(土)17時0分 文春オンライン

 お婆さんは走らない。


 いや、師走の時期には走るお婆さんはいるかもしれないが、少なくとも自動車より速く走ったりはしない。


 だが、高速移動するお婆さんの噂が、実は90年代頃から怪談界で爆増している。現代の怪談において、走る老婆は人気者なのだ。


真夜中の高速道路に出現する「ジェットババア」


 例えば、「ジェットババア」という老婆がいる。その名前の通りジェットエンジンを搭載したかのようなスピードで走る老婆の怪異で、真夜中の高速道路などに出現し、走る自動車を己の肉体の走りのみで追い抜かしていく。


 ただそれだけであれば高速移動できるお婆さん、で終わるかもしれないが、厄介な特徴を持っている。それが、この老婆に追い抜かされた自動車は必ず事故を起こし、時には死亡するなどと語られる点だ。


 その出現条件もあってないようなもので、老婆が現れるとされている場所を自動車で走っていると、突然後ろから走ってきて追い抜いて行く、というような噂が多いから、迷惑極まりない。



真夜中の高速道路などに出現する「ジェットババア」 ©iStock.com


 かつてブームを巻き起こした「人面犬」もまた、高速道路に出現して自動車やバイクを追い抜かし、事故に遭わせるという噂が語られたことがあった。しかし老婆の怪異の場合注目したいのは、その種類が異様に多い点だ。


ジェットエンジン以上の性能を持った老婆も


 先ほど紹介したのは「ジェットババア」だが、ジェットエンジン以上の性能を持ったターボエンジンを搭載したかのようなスピードで走る老婆もいる。その名も「ターボババア」で、兵庫県の六甲山などでよく目撃されるという。この老婆は四つん這いで高速移動するとされる場合もあり、その際には背中に「ターボ」と書かれた紙が貼られているという。自己アピールなのかどうかは不明だ。


 他にも分かりやすい名前の老婆としては「100キロババア」というものがいる。これはその名の通り時速100キロのスピードで走る老婆で、やはり車を追い抜かしていく。この老婆はなぜか北海道の湖周りに現れることが多く、洞爺湖や支笏湖の近くの道路で目撃されている。特に摩周湖周辺に現れる100キロババアの場合、マリモを投げつけると撃退できるというユニークな対処法が伝わっている。



 また似た名前の老婆に「1000キロババア」というものがいる。こちらは高速道路をものすごい速さで走っていくという情報しかないが、名前からして時速1000キロで走るのだろう。


 そのままの名前の「走るバァさん」という老婆もいる。北海道のあるトンネルに現れるこの老婆は、バイクが走っていると現れて真っ赤な歯を見せて笑いかける。時速100キロで走っていても容易に追いつくすさまじい脚力を誇るが、トンネルから出ると消えてしまうといわれている。



ホッピングやリヤカーなど、道具を使う高速老婆


 走るのではなく高速で飛び跳ねる老婆もいる。その名も「ジャンピングババア」は下駄を履いた足で一度に4メートルの跳躍を見せ、走る自動車を追いかける。これに追いかけられた車は、やはり事故に遭ってしまうのだという。己の肉体でなく、ホッピングという玩具を使って跳び回る老婆もおり、こちらは山道を走る自動車を飛び越えていくと伝えられている。その名もずばり「ホッピングばあちゃん」だ。



 道具を使う高速老婆は他にも存在している。「バスケばあちゃん」はバスケットボールをドリブルしながら高速で走ってくる老婆で、高速道路を走るバイクを狙う。そして走行中のバイクに向かってバスケットボールをパスするという悪質な行為を行う。ボールを投げられたライダーは、ボールを受け取ればハンドルから手を放してしまい、無視すればボールを体に当てられて、どちらにせよ転倒してしまう。コンセプトは面白いがやることは恐ろしい怪異だ。


「リヤカーのおばあさん」はリヤカーを引きながら北海道のあるトンネルに現れ、自動車と並走する老婆だ。自らリヤカーというハンデを背負いながら自動車に追い付くそのチャレンジ精神には敬意を表したい。ちなみにこのトンネルには、白い車を三輪車で追いかけてくる子どもの霊が出るという話もある。


ミカンを投げつけて来る「ミカンばばあ」


 三輪車といえば、宮崎県の海岸沿いでは三輪車をこぐ音が聞こえることがあるが、まれにものすごいスピードで三輪車をこぐ「三輪車のお婆さん」が出現することもあると言われている。


「ミカンばばあ」という変わり種もいる。これはある森の中でゴザを敷いて座っている老婆で、側に何本か鎌を用意している。この老婆と目が合うと突然とんでもない速さで追いかけてきて、その際にミカンを投げつけて来るのが名前の由来となっている。



「テケテケ」など、上半身だけの状態で肘や腕を使って高速移動する怪異も各地に伝わっているが、当然のようにそれらの中には老婆の姿をしたものもいる。


「ひじかけババァ」はその一種で、大阪府の難波だとこれは自動車を追いかける。そして追い付かれてしまうと死亡するという。またひき逃げされた老婆が自分を轢いた自動車を肘で這って追いかける「ひじババア」の怪談もある。



なぜ近年になって、高速老婆の怪談が増えたのか


 なぜ近年になって、高速移動するお婆さんの怪談がこんなに増えたのか。


 高速で走る怪異というのは、現代の怪談においてかなりメジャーだ。人の頭に犬の体を持った「人面犬」、首のない男がバイクに乗って現れる「首なしライダー」などは、路上に出現した自動車やバイクと競走を演じる。これは現代において高速で移動する手段が増えたことで、それらに負けないスピードで人々を追い詰める怪異の存在が必要になったことによると思われる。


 老婆の場合、普通は走るイメージがないから、高速移動によるギャップが恐怖や笑いを生む。高速老婆と実際に当事者として遭遇したとすればかなりの恐怖だろうが、第三者視点から見るとすれば、まるでギャグ漫画のような光景が連想される。


 一方、高速で移動する老爺は、音速を超えるスピードで走る「超音速じいさん」など、いないことはないが、老婆に比べると圧倒的に数は少ない。これは、古くから「〜女」、「〜婆」という名前の妖怪は数多く存在する一方で、「〜男」、「〜爺」という名前の妖怪は希少であるのと同じ理由であろう。



これからも高速で走る老婆は増えていくだろう


 女性の妖怪が多いのは、元を辿れば社会的にマイノリティであった女性が妖怪視されたことに起因する。社会の中心が男性であった時代、妖怪を観測するのは男性であった。そのマジョリティの男性にとって異質の存在、つまり社会の中心から外れた存在である女性や、男性の宗教者などは、妖怪として捉えられやすかった。男性の妖怪の名前に「〜坊主」、「〜小僧」といった宗教者を連想させるものが多いのも、それが要因だと考えられる。


 このような背景から「〜女」、「〜婆」、「〜小僧」といった名前、姿が怪異・妖怪の典型的な形式のひとつとして定着し、現代にも受け継がれているのだ。


 移動手段の多様化や、人から人に伝えられる過程で情報が交錯し、新たな情報が加えられたり、削られたりして、高速移動する老婆のバリエーションは増加した。人間の移動手段が発展するにつれ、これからも高速で走る老婆は増えていくだろう。


 今度はどんな走りを見せる老婆が現れるのか、それを予想してみるのも楽しいかもしれない。






(朝里樹)

文春オンライン

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