『アナ雪』より先に“女性の成長”を力強く描いていた名作ミュージカル『ウィキッド』に、今こそ注目したいワケ

1月4日(木)20時30分 messy

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 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像作品では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 年があけて2018年を迎えても、国際情勢はザワザワしています。就任からちょうど1年たったトランプ大統領率いるアメリカを中心に、異民族やマイノリティへの排斥の声がやまないのは、何度もくり返してきている歴史とあきらめてしまうには悲しすぎるものです。

 創作の世界は、常に現実を映す鏡。現在の世界情勢を予言したかのようなミュージカル「ウィキッド」は、アメリカでもっとも愛されている童話のひとつ「オズの魔法使い」の前日譚ともいえる物語です。なにをもって「善」と「悪」を判断するのかという政治的なテーマを内包しながら、苦悩しつつ自分が歩むべき道を選んでいく女性の生き方を描いています。

 童話「オズの魔法使い」シリーズにモチーフにした小説「オズの魔女記」が原作の「ウィキッド」は、2003年にブロードウェイで初演。主人公のオリジナルキャストは、映画「アナと雪の女王」のエルサ役を吹き替え、日本でも紅白歌合戦(NHK)出演などで知られる女優、イディナ・メンデルで、同役で04年にトニー賞主演女優賞を受賞、またブロードウェイオリジナルキャストで収録されたCDは05年のグラミー賞も受賞し、社会現象となった作品です。

 日本では劇団四季で上演され、テレビCMの小林幸子ライクな主人公の熱唱は目にしたことがあるひとも多いのではないでしょうか(余談ですが、メンデルは当連載の前回「LGBTやHIVを描くミュージカル『RENT』の「今日」を大切に生きるというメッセージ」で取りあげた「RENT」のオリジナルキャストでもあります)。

緑の肌の少女

 のちに「良い南の魔女」と呼ばれるグリンダと、「悪い西の魔女」と恐れられるエルファバはかつて、同じ大学に通った同級生でした。生まれつき緑色の肌をしたエルファバは父親に疎まれており、足の不自由な妹の面倒見係として大学に入学。同級生からも遠巻きにされていますが、絶大な魔力を持っていました。金髪美人のグリンダは魔力こそ強くないもののセレブで人気者、ふたりは初対面でお互いに嫌悪感を抱き合います。そこへ、ハンサムな王子のフィエロが転校してきます。

 衝突をくり返しながらも、エルファバとグリンダは友情を深めていきます。オズの国の動物は知性を持ち言葉を話せますが、何者かの陰謀で、動物たちは自由を奪われるように。エルファバが窮状を訴えたオズの魔法使いは自分の権力維持のために彼女の力を利用しようとしますが、エルファバは拒否。すると「悪い魔女」だと喧伝され、国民の敵に仕立て上げられてしまいます。

 ファンタジーや童話における成長物語は、少年が主人公のものが大半です。女の子が主人公の場合、その努力や成長は、王子様と結ばれる結末のためで、物語の中身も恋がほとんど。しかし「ウィキッド」がリアルなのは、エルファバとグリンダの、自身の目指す未来をかなえるため魔法を修めたいという向上心と、そのために世間から悪評や空虚な期待を押し付けられることが描かれている点です。

 恋愛や異性の目を意識したおしゃれも話題にするけれど、それだけが生活ではないのは女性なら誰でも認識していることです。実際、当初の脚本ではフィエロとの三角関係を描いていた物語でしたが、女性同士の友情に焦点をあてたものに変更に。グリンダとの友情を通してエルファバは、オズの魔法使いに頼みさえずれば自身のコンプレックスも世の中の問題もすべて解消すると思っていた視野の狭さが解消されます。

 もうひとつリアルなのは、エルファバがいわゆる毒親持ちの“搾取子”であること。これは初演時から比べて、物語に現代の問題意識が追い付いてきたように感じています。緑の肌に生まれた理由は、母親が魔法のお酒を飲んで不倫した結果生まれたから。姉のようにならないようにと母親が緑色の食べ物を摂取せずに生んだために足が不自由な妹に対しても罪悪感を抱き、不当な扱いを受けても、報われない愛情を家族へ捧げつづけています。

現代につながる問題がいっぱい

 周囲の優しさに恵まれなかったエルファバがフィエロと思いを通わせる場面の歌「As Long as You're Mine」の最後、「生まれて初めて、幸せ」というつぶやきが、露骨な性描写よりもはるかになまめかしく感じられるのは、彼女を束縛する悲しい境遇からの解放であるからなのかもしれません。

「ウィキッド」は当初、映画化を前提に制作が進められていましたが、ファンタジックな設定とリアルなテーマを両立する脚本の難しさから、ミュージカルになったそう。個人的には、「マレフィセント」のように誰もが知る童話に違う角度から焦点を当てたものや「アナと雪の女王」のように女性の成長を描いた映画たちは、「ウィキッド」の成功があってこそ誕生しえたものではと思っています。

 外見での差別や、異端者に対する排除の思想、独裁政権の恐ろしさと同様に、情報操作に踊ってしまう大衆の存在もまた、社会にとって大きな脅威になるものです。権力の維持のために仮想敵を作り上げるのも、まさに現代でも起きていること。学校で教わることや報道される内容のすべてを事実と信じ込むのではなく、自分の頭と心を使って、正義と真実を考えることの大切さを、一年の冒頭に改めて戒めたいものです。



 

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