国立競技場再コンペ ゼネコンとJSCの大罪を浅田彰氏が指摘

1月4日(月)11時0分 NEWSポストセブン

4年後の姿はまだ見えてこない(国立競技場跡) 共同通信社

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 新国立競技場の“やり直し”コンペが終了し、新たな設計者が決定し、あとは完成に向けてまっしぐらとなることだろう。しかし、前回のコンペは日本の建築史上最大の汚点となると懸念するのは批評家・浅田彰氏だ。


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 私は建築の専門家ではありませんが、伯父が丹下健三研究室のマネージャー役だったこともあり、建築については常に興味をもって眺めてきました。その観点から見ても、いや社会問題として見ても、新国立競技場を巡る問題はひどいと言うほかありません。


 まず国際コンペが行われ、安藤忠雄を委員長とする審査委員会がザハ・ハディドの案を選んだ。設計会社とゼネコンが加わってその案を具体化していったところ、1300億円の予算を大きく超える2500〜3000億円の費用が必要だとされた。


 初期の案を縮小してもその額が一向に減らない。その過程が延々と続いたあげく、とうとう安倍晋三首相が白紙からの見直しを指示した。「首相の英断」と言いたいところだろうけれど、実は問題は悪化しこそすれ何ら改善されていません。


 イラクで生まれ、ロンドンで学んだザハが一躍有名になったのは1983年の香港のピーク・レジャー・クラブのコンペで選ばれたときのことでした。


 実は、最終選考には残っていなかったザハの案を拾い上げ、審査員たちを説得して最優秀賞に選んだのは、日本を代表する建築家・磯崎新です。これはアンビルト(未建築)に終わりましたが、それはクライアントの財政危機が原因です。


 ザハにはその後もアンビルトの案がいくつもあるけれど、ローマの国立21世紀美術館をはじめ、注目すべき建築もたくさん建ててきています。


 彼女の建築の中では新国立競技場案はとくにいいとは思えなかったものの、悪いわけでもなく(ただし縮小案は当初の魅力を失っている)、当選したのもおかしなことではありません。


 むしろ本質的な問題は、これが大まかなコンセプトとイメージをもとに「デザイン監修者」を選ぶコンペだったことです。選ばれた「デザイン監修者」は、日本の設計会社およびゼネコンと言われる元請け建設会社と組んで具体的な設計案を作る。そこではむしろ日本側が主体であり、ザハは「監修者」に過ぎません。


 近年、こうした仕組みは珍しくなく、たとえば東京ミッドタウンは全体としてアメリカの建築設計事務所SOMが設計するけれど、なかに入っているサントリー美術館の部分は隈研吾がデザイン監修者として木材を使った和風のデザインで付加価値をつけています。


 私は、彼が全体を設計した根津美術館のように、設計者が全体を設計してこそ一貫性のある建築が生まれると思っています。


 ただ、裏を返せば、このシステムならばザハ案はいくらでも変更でき、予算の枠内に収めることもできたはずですよ。実際、つねに大胆な提案をするザハにとって、案の修正は珍しいことではない。


 たとえばロンドン五輪の水泳競技場もザハの最初の案よりずっと小さくなっているけれど、それなりにうまく収まっています。では今回はなぜ、修正ができなかったのか。


 ここで思い起こされるのは、東京五輪組織委員会会長になった森喜朗です。新国立競技場の案が白紙から見直されることになった前後に、「ロシアはソチ五輪に5兆円も使った、日本は2500億円ぽっちも出せないのかね」といった主旨の発言をしていました。


 ここから推測するに、彼を中心とする「スポーツ界のドンたち」の間で「五輪は国家行事だから予算はほとんど青天井だ」という景気のいい話が飛び交い、ゼネコン側も「それなら当初の予算枠にこだわる必要はない」と考えるようになったのではないか。


 そこへさらにスポーツ団体から、「広いVIPエリアやサブトラックが必要だ」といった要求が積み重なり、それらを盛り込んだあげく費用が膨れあがったと推察します。ザハ側が縮小案を示しても費用は一向に減りませんでした。


 責任は、修正を試みても予算を大幅に上回る見積もりを出し続けたゼネコンと、クライアントとしてそれを容認し続けたJSC(と文部科学省)にあることは明らかです。


 しかし悪いのは誇大妄想的なデザインにこだわるザハであり、無責任に彼女を選んだ安藤忠雄らであるかのような話がまかり通ってしまった。


●浅田彰(あさだ・あきら)/京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。現在、京都造形芸術大学教授。1983年に出版された『構造と力—記号論を超えて』がベストセラーに。1980、1990年代の思想界を牽引した。


※SAPIO2015年2月号

NEWSポストセブン

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