東京五輪予算が続々と「水素関連事業」に使われる謎

1月4日(土)11時0分 NEWSポストセブン

予算が流用されている(写真/共同通信社)

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 東京・目白通り沿いに、巨大なガス貯蔵施設に隣接した「練馬水素ステーション」と書かれた真新しい施設が目につく。水素ステーションとは、次世代エコカーの「燃料電池車」(FCV)がガソリン代わりに燃料とする水素を補給する施設である。


 2014年に関東初の商用水素ステーションとしてスタートした同所は一般的なガソリンスタンドと比べても広大だが、出入りする車は滅多に見られず、2人の従業員が黙々と落ち葉を掃いているだけだった。


「トヨタやホンダが次世代エコカーとして力を入れるFCVですが、現状は3000台程度となかなか普及していない。ネックとなっているのが、水素ステーションの整備が進んでいないこと。そこでFCVを支援するために、経産省が補助金を出して全国各地に水素ステーションを作っている。2020年度までに全国160か所が目標で、福島県や大分県などにも作られています」(自動車業界関係者)


 環境問題を考える上では重要な施策だが、この補助金が、今年開催を控える東京五輪の「関連支出」とされていることには疑問を覚えずにはいられない。


 2019年12月4日、国の財政を監視する会計検査院は、東京オリンピック・パラリンピックをめぐり、2018年度までの6年間に国が支出した関連経費の総額が、約1兆600億円に上ったと明らかにした。大会組織委員会と東京都が見込む事業費と合わせると、関連支出の総額は3兆円を超える見込みだという。


 一方、国や大会組織委、東京都は12月20日、大会の総予算は1兆3500億円に収まると発表した。このうち、国の負担は1500億円とされている。1兆600億円と1500億円……なぜこれほどまでの開きが出るのだろうか。


 大会組織委は会見でそのことについて、「会計検査院は大会との関連の濃淡を整理せずに、少しでも関係する事業をピックアップしているという認識です。私たちのものとは性格がかなり異なる」と説明した。会計検査院に聞くと、このような回答があった。


「政府は五輪の費用がどれだけになるのか、正確には公表していません。五輪予算として政府が公表しているもの(※政府は昨年1月、2019年度までの関係予算総額を2197億円と発表している)は、あくまで事前に予算要求している五輪予算のこと。政府は『関連施策』も含めた支出額を発表することは困難だという立場です。


 会計検査院では1兆600億円が五輪の『関連施策』のために使われたと公表しました。これは予算ではなく、実際に使われた支出をもとに算出をしています。また、国立競技場のような直接の『大会経費』のみならず、政府が五輪の基本方針に基づき五輪の『関連施策』としてすでに支出した額を含めています」(特別検査課担当者)


 関連施策とは何か。


「政府が国会に毎年提出している東京五輪の取組状況報告書のなかで、関連施策として政府が報告している事業について、実際にかかった支出額を合計し発表しています。合計額が膨らんでいるのは、こうした『関連施策』がかなりの分野に及んでいるからです」(同前)


 会計検査院の指摘によってある疑惑が浮かび上がる。各省庁は東京五輪と「関連がある施策だ」ということにして、予算を通す口実に五輪を使っているのではないか、それによって関連支出が膨れあがっているのではないか……。


 五輪関連支出はいったい何に使われたのか──会計検査院の報告書をもとに、調査した。


◆「五輪」と言えば予算が通る?


 会計検査院が「関連施策」と位置づけた支出のなかには、文部科学省の「ナショナルトレーニングセンターの拡充整備」、環境省の「熱中症対策推進事業」など、五輪に直結することが誰の目にも明らかな事業もあるが、詳しく見ていくと、「なぜこれが?」と気になる項目がいくつもある。


 なかでも目立つのが、水素関連事業の多さである。冒頭に紹介した「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」256億円をはじめ、水素自動車の購入を支援する「クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」695億円、家庭向け燃料電池(エネファーム)を普及させるための「燃料電池の利用拡大に向けたエネファーム等導入支援事業費補助金」498億円など、多額の支出が経産省からなされている。その根拠となったのが、政府が2015年に作った東京五輪の基本方針である。


〈日本が世界中の注目を集め、多くの外国人が訪日する機会となる大会を、「強い経済」の実現に向けたイノベーションの牽引役と捉え、大会を通じて日本の強みである技術をショーケース化し、世界に発信する。具体的には、水素社会の構築に向けた環境・エネルギー技術、自動走行技術の実用化、ロボット技術、高精度衛星測位技術を活用した新サービス等を制度面も含めて推進する〉


 ここで筆頭に掲げられた水素は、折りに触れて五輪と絡めてアピールされ、予算枠を拡大していくことになる。


 経産省が2019年3月にまとめた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」には、五輪までの水素ステーションに関する工程表が掲げられ、〈東京オリンピック・パラリンピックまでに無人の水素ステーションを運用することを目指す〉と明確に目標設定されている。経産省はこう説明する。


「東京五輪では“省エネルギーによって二酸化炭素の排出を削減して環境負荷を低減させる”ことが提言されています。東京都は福島で生産した水素を五輪で使うという協定を結んでいますし、五輪では水素燃料のバスが導入され走ります。ただし、東京五輪に限ったものではなく、補助金は全国で使われています」(新エネルギーシステム課担当者)


◆「お化粧」をする


 経産省関連ではそのほかにも、所管の国立研究開発法人・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)へ「水素利用技術研究開発事業」180億円、「水素社会構築技術開発事業」181億円などが拠出されている。NEDOは経産省からの出向・出身者が理事に名を連ねる外郭団体だ。


「NEDOは民主党政権時代に事業仕分けで予算が大きく削られた。そのため、東京五輪は予算を確保するいい大義名分になると思ったのではないか」(前出・自動車業界関係者)


 元経産官僚の古賀茂明氏はこう指摘する。


「こうした団体は『天下り団体』との批判も浴びやすく、新規の予算も通りづらい。そこで、霞が関の言い方では『お化粧』という表現をしますが、スッピンのままでは通らないから、少しでも時の政権が力を入れていることに沿った事業なのだという装いで予算を通す。今回であれば『五輪』というお化粧をするわけです」


●福場ひとみ(ジャーナリスト)と本誌取材班


※週刊ポスト2020年1月17・24日号

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