キャプテン筒香嘉智が口にした「孤独です」の意味

1月5日(金)11時0分 文春オンライン

「孤独です」とその人は言いました。


 横浜DeNAベイスターズキャプテン、筒香嘉智は映画『FOR REAL』の中で自分が置かれた状況を、ぽつりと、しかしはっきりと「孤独」と表現したのでした。


 ベイスターズは今年、2年連続でCSへ出場し、2年連続ファイナルステージに進み、そして、19年振りに日本シリーズの扉を叩きました。雨を浴びて、泥を浴びて、ビールを浴びて、同点ホームランを浴びて、逆転サヨナラ打を浴びました。物語のラストを飾る紙吹雪は、ベイスターズの勝利を祝福するそれではありませんでした。


 2017年のベイスターズをずっとカメラで追った『FOR REAL』。チームの戦いを軸に、そこにはいくつものドラマがあり、ひとつの物語を紡いでいます。そのどの場面にも、筒香はいました。ケガでファーム落ちを余儀なくされた選手に、わざとキツイことを言って励ます。殊勲打を放った選手を大袈裟に讃える。奇声をあげながらベンチで騒いだと思えば、ロッカールームで真剣な口調で奮起を促す。この人は一体何人いるんだろうかと思うくらい、筒香はどこにでも現れて、そのたびに選手たちの表情を和らげていました。チームメイトの孤独に常に寄り添っていたのが筒香だったのです。



チームメイトの孤独に常に寄り添っていた筒香嘉智 ©文藝春秋


「孤独」な筒香だから分かること


 どうして私は野球を好きなのか、ベイスターズを好きなのか。文春野球というサイトでベイスターズのことを書かねばならない緊急事態になり、そのことをかつてなく考えた一年でした。従兄弟が好きだったから、割と地元に近いから、色々な要因はありますが、でもやっぱり私はホエールズ、ベイスターズという存在自体を愛している。究極、勝っても負けてもどちらでも構わない。そこにいてさえくれればいい、そういった気持ちが強いのだと思います。


 あまりいいファンとは言えないかもしれない。ベイスターズに対する私のただれた想いを見透かすかのように、チームの状況はおどろくほど悪化していきました。愛してやまないベイスターズが、誰も「入りたくない」チームになってしまった。そこに現れたのが、筒香喜智、その人でした。


 村田も、内川も、さかのぼれば石井琢朗だって佐伯だって、おそらく誰もが「孤独」だったのだと思います。ただ筒香が今感じている孤独は、少し違うようにも思うのです。誰かの孤独を癒すために、自分が孤独であり続ける。『FOR REAL』の筒香は、そう見えました。孤独な筒香だからこそ、チームメイトの孤独が分かり、だからこそチームメイトは筒香の言葉を力にすることができる。その共犯関係に、少し怖くなったくらいでした。その上でもたらされるのが、勝つということなんだとあらためて思わされたから。



共犯関係の中の一部でありたい


 筒香が抱える「孤独」を考えたとき、私はとある人のインタビューを思い出していました。縁あって何度か取材させてもらっている、ももいろクローバーZのリーダー、百田夏菜子さん。普段は本当に明るくて、おちゃらけていて、メンバーを、スタッフを、そしてお客さんを全力で笑顔にしてくれる百田さんが、インタビュー中一度だけ「孤独」という言葉を口にしたことがありました。


 グループの中で初めて、朝ドラに出演し、東京と大阪、アイドルと女優を行ったり来たりしていた百田さんが、当時の状況を振り返ってぽつりと「孤独、ですね」と言いました。グループのために自ら厳しい環境に飛び込み、しかしそれは今までのアイドルとしての自分のパフォーマンスを忘れてしまうほどの激しい経験であり、葛藤だったと。筒香はキャプテン、そして百田さんはリーダー。常に自分とチームは重なり、責任とモチベーションは重なる。濁流のよう襲いかかってくるエゴ。その流れに飲み込まれないように、進んで孤独を引き受けているんだなと私は思いました。


「孤独ですよ」。その後に筒香はこんなことを話していました。「でも、人にどう思ってほしいとかではないんですよ、正直。じゃあこれが他の人に誰か出来るかと言ったら、経験できないことを僕はできているわけだから。それは本当にありがたいことです」。百田さんも笑顔で言っていました。「あの時の経験がいつか絶対宝物になると思う」。孤独だけど、孤立ではない。一人だけど、一人じゃない。無敵と思われている人が我々ファンに向けて「孤独の中にいる」と明かしてくれたのが、うれしかった。


 正直筒香がそこにいてくれるだけで私は幸せなんです。世界中のかわいいを集めてもまだ足りないくらいかわいい筒香が、そこで笑っていてくれれば。だけど筒香がチームの勝ちを望み、優勝を求めるなら、そのために全ての孤独を引き受けるなら、何もできないけど、あなたの孤独を知っているひとりでありたい。もし声を出すことで力になるなら、死ぬほど声を出したいです。共犯関係の中の一部でありたいと私は願います。激動の2017年は終わりを告げ、未知なる2018年がやってくる。途方もなかった夢がリアルになるとき、筒香の孤独はキラキラと輝き出すのでしょう。まるで、灰の中のダイヤモンドのように。


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(西澤 千央)

文春オンライン

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